ひしゃげたオルゴール
その時、事務所の呼び鈴が軽やかに鳴った。ジェミニが視線を鋭くし、ススが耳をそばだてる。ベルが完璧な所作で姿勢を正すと、ゆっくりと扉が開いた。
入ってきたのは、作業着を泥で汚した小さな少年だった。その手には、外装が剥がれ落ち、無惨にひしゃげた機械仕掛けのオルゴールが握られている。
「……あの。ここなら、失くした音を探してくれるって……街の修理屋さんに聞いたんだけど……」
少年の瞳は、必死な思いを隠すように強く輝いていた。
「本当に、なんでも見つけてくれるの?」
ロイスは椅子から軽やかに飛び上がり、少年の前で腰を屈めた。そして、最高に不敵で慈愛に満ちた笑みを浮かべて、右目の機械式単眼の焦点をオルゴールに合わせる。
「ええ、もちろんよ! どんなに小さなネジ一本の音から、歴史の闇に捨てられた記憶、そして誰にも言えなかった小さな祈りまで……」
彼女は帽子をクイと直し、誇らしげに胸を張った。
「この真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカーにお任せなさい! 」
戦いの終わりは、新しい日々の始まりに過ぎない。崩れゆく都市の中で、誰にも顧みられない小さな欠片を拾い上げ、真実へと繋ぎ合わせる。宿命を解体した彼らの、新しい物語の幕が上がった。
アッシュウォーカー探偵事務所の作業机に、重々しい金属音が響いた。ジェミニが、少年から預かったひしゃげたオルゴールを置いた音だ。
「見せてごらんなさい。この真鍮の探偵ロイスが、あなたの『失くした音』を解体してあげるわ」
ロイスは機械式単眼をカチリと回し、レンズ越しに内部を覗き込んだ。だが、その瞬間に表情が強張る。
「ジェミニ、これを見て。ただのオルゴールじゃないわ」
「言われるまでもない。シリンダーの突起を見ろ。意図的に、特定の音階を奏でる部分だけが物理的に削り取られている。……それも、極めて高度な技術でな」
ジェミニの指先が、裏蓋にある一本の小さなネジで止まった。特殊な隠し刻印を見つけ、彼の声がわずかに震える。
「間違いない、これはエドワードか」
「おじさん、お父さんのこと知ってるの?」
少年の瞳に希望が宿る。
「お父さんは、僕にこのオルゴールを渡して言ったんだ。いつかこの街に『本当の青空』が必要になったとき、この音が道標になるって。でも、動かなくなっちゃって……。街の修理屋さんはみんな、こんなのゴミだって言うんだ」
「ゴミなもんか。これは、お前の父親が命を懸けて遺した解体図だ。……ロイス、解析を頼む。削られたリズムを復元しろ。それが隠し工房の鍵になる」
「ええ、まかせて! すべてを明らかにしましょう! 」




