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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の朝

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天上の静寂

 廃棄物リフトの錆びついた扉を抜けると、急激な気圧の変化が鼓膜を強く圧迫した。冷え切った空気の中に足を踏み出した先には、絶対的な静寂が支配する銀色の伽藍が広がっている。


 ここは時計塔エタニティの内部。ネオ・ロンドニウムの頂に位置する精密機械の聖域だ。あまりの高所に、ロイスの頬は青ざめていた。


「……はぁ、はぁ。ねえジェミニ、ここ、本当に空気が薄すぎるわ。肺が焼けるみたい」


 ロイスが胸を押さえ、苦しげに喘ぐ。


「静かにしろ。……ベル、駆動系はどうだ」


 ジェミニが低く鋭い声で制した。


「低気圧ニヨル油圧バランスノ乱レヲ検知。関節バルブに微振動が発生シテ居リマスガ、歩行に支障はアリマセン」


 機械の体を持つベルが、無機質な音を返した。


「スス、お前はどう思う」


 ジェミニがコートの懐を覗くと、猫のススが黄金の瞳を細め、ぴくりとも動かずに静止していた。長いしっぽはジェミニの体に固く巻き付いている。


「わかってる、音を立てれば終わりなんだろ。防衛機構に粉砕されるなんて、冗談じゃない」


 ジェミニとロイスは恐怖を抑え込み、自らの心拍さえもこの静寂に溶け込ませようと努めた。


 カチ、カチ、カチ。

 巨大な歯車が噛み合う一定の周期音だけが、広大な空間に鳴り響いている。一行は、都市の全時間を制御する大時計クロノスの基幹部へと足を踏み入れた。


「見て、ベル。あれが脱進機……。一秒を刻むためだけの、神聖な心臓部ね」


 ロイスが直径十メートルを超える巨大なガンギ車を見上げて呟く。


「肯定。周囲ノ気圧、及ビ風圧上昇。ご注意クダサイ」


 ベルが警告を発する。その視界の先には、白い防塵服に身を包んだ者たちがいた。


「あれが時計技師たちか。……おい、何かおかしくないか」


 ジェミニが片手を上げ、全員を停止させた。


「報告。完璧ナ周期音ノ中ニ、本来存在シ得ナイ不協和音ヲ捕捉。……ギ、ギギ。物理的ナ悲鳴ト推測サレマス」


 ベルの言葉に、ジェミニが眉をひそめた。


「ただの摩耗じゃないな。何か、粘り気のある嫌な音がする」


 その時、ススがジェミニの懐から身を乗り出し、小さくナァと鳴いた。固く止まっていた彼女のしっぽが、メトロノームのように左右に揺れ始める。


「よし、ススが容認した。戦闘の許可を出す」


 ジェミニの合図に、一同が武器を構えた。


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