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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の朝

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雲海を貫く絶景

 リフトの速度がさらに上がり、重力が増していく。真空チューブ内を切り裂く風の音が、低い唸りとなってコンテナの壁を叩く。


「ねえ見てよ! ほら、外が見える! チューブが透明な観測セクターに入ったわよ!」


 ロイスが弾かれたように立ち上がり、貨物リフトの強化ガラス製の覗き窓に鼻を押し付けた。そこには、下層の住人が一生をかけても目にすることのない、息を呑むような、そしてどこか残酷なほどに美しい絶景が広がっていた。


 リフトは今、特区零番の喧騒と煤煙を遥か下方に置き去りにし、雲海を垂直に貫くレールを猛烈な勢いで上昇している。


「わあ……すごい。見てよベル! あそこに見えるのが、上層の連中が自慢してやまないスチーム・フォールズよ!」


 ロイスは、まるでお上りさんの観光ガイドか、あるいは壊れた蓄音機のように、窓の外を指差しながら喋り倒し始めた。


「上層の巨大な冷却システムから溢れた水が、数百メートルの高さから下層に向かって一気に流れ落ちる人工の滝。ここから見ると、夜明けの光を反射して、まるで神様が落とした銀の糸みたいに見えるでしょ? でもね、あそこには下層のジャンク屋たちの間で伝わる、とびきりおバカな伝説があるの。あの滝に幸運のネジを投げ込むと、翌日のゴミ拾いで掘り出し物が見つかるんですって。全く、自分の頭のネジが外れてることに気づかないのかしらね!」


 ロイスの毒舌混じりの解説は、高度が上がるにつれてさらに熱を帯びていく。


「ほらほら、あっち! あの光ってる巨大なガラスドーム! あれが泣く子も黙るクリスタル・ガーデンよ。上層の強欲な金持ちたちが、下層には一株だって生えてない本物のバラや百合を育てるために、周囲の建物の鏡を総動員して、貴重な太陽光を独り占めして集めてるっていう、嫌味の塊みたいな温室! ここから見る分には、宝石を散りばめたお菓子の詰め合わせみたいで綺麗だけど、あの中の土一つかみで、私たちの朝食が何年分買えるか考えただけで胃が痛くなるわね!」


 ベルは、ロイスが指し示す煌びやかな光の群れをじっと見つめ、黄金の瞳の焦点を細かく調整した。


「……ロイス。記録データによると、あそこは周辺セクターのエネルギー供給を圧迫する最大の光度汚染源と定義されていますが、確かに、光子の屈折パターンは視覚情報として極めて美しいと、私の審美回路が判定しています」


「でしょ? ベルは話がわかるわね! でもって、あそこの空中に突き出した、刺されば痛そうな尖塔が見える? あれが絶景レストラン、スカイ・ハイ・テラス。あそこのテラス席で出されるワイン一杯の値段で、私たちの事務所の家賃が半年分払えるっていうんだから、世の中の歯車はどこかで決定的に噛み合ってないわよね」


 ロイスの弾丸トークは止まることを知らない。だがその無駄話の端々に、彼女がこの街の隅々を知り、理不尽な格差に静かな憤りを抱きながらも、懸命に生きる人々への愛着を秘めていることがジェミニにはよくわかった。


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