廃棄物の弾丸エレベーター
蒸気と歯車の要塞都市、ネオ・ロンドニウム。この巨大な機械仕掛けの揺りかごにおいて、汚濁に満ちた下層から清浄なる上層へと向かう正規のルートは、鋼鉄の防壁に囲まれ、厳重な検問が敷かれた中央昇降機ターミナルを通るしかない。そこでは騎士団による執拗な身体検査と、過去の罪業を暴き立てるような冷たい身分照会が待っている。
だが、今回の依頼は『誰にも知られず』が絶対条件だった。そして依頼主が提示した報酬は、ジェミニにとっては他の何者にも代えがたい過去の断片、失われた騎士団の記録。正攻法など選んでいる余裕は、最初から残されてはいなかった。
「……で、なんで私たちは、輝かしい都市の救世主になったはずなのに、こんな油臭くて、寒くて、得体の知れないゴミの山と一緒に、ゴミ捨て用の高速リフトに揺られてるわけ?」
ロイスが、ガタガタと激しく震える錆びついたコンテナの隅っこで、厚手のマフラーに顔を半分埋めながら、恨みがましい声を上げた。
彼らが現在乗っているのは、上層の特権階級たちが排出した贅沢な廃棄物を、下層の処理施設へと投げ捨てるために深夜から早朝にかけて密かに運行される、廃棄物回収用真空チューブ鉄道の緊急帰還用逆走ルートだった。本来は空で戻るはずのコンテナに、彼らは文字通り不純物として潜り込んだのだ。周囲には、高級な機械部品の欠片や、使い古された贅沢な衣類、そして名前も知らない異国の果実の皮などが散乱している。
「文句を言うな、ロイス。これこそが最も安全な道だ。このルートなら、退屈を持て余している騎士団の連中と顔を合わせる必要もない。時計塔エタニティの真下にある貨物中継セクターまで、最短距離で突き進む直通の弾丸列車だ」
ジェミニは暗闇の中で、リフトの激しい振動からベルを守るために片手を添えながら、手元の携帯型計器を注視していた。液晶の淡い光が、彼の横顔を青白く照らし出す。高度計の数字は、下層の住人には未知の領域へと、凄まじい速度で刻まれていく。
ちなみに、今回の極秘任務には、留守番を命じられたことに猛烈な不満を示し、ジェミニのコートの懐に強引に潜り込んでそのまま眠りについた第四のメンバーも同行していた。黒猫のススは、真空チューブ特有の鼓膜を圧迫する風切音や、胃が浮き上がるような強烈な垂直加速に驚く風もなく、今はロイスの膝の上で優雅に丸まっている。
時折、ナァ、と短く鳴き、窓の外を流れる摩擦の火花を楽しんでいるかのように目を細め、長い尻尾でロイスの手首をペシペシと叩いていた。それは彼なりの、退屈しのぎの遊びなのかもしれなかった。




