清らかな朝
蒸気と歯車の重奏が響く都市、ネオ・ロンドニウム。その最下層に位置する特区零番に、かつてないほど清らかな朝が訪れた。
あの日、暴走するプロメテウス・エンジンから放たれた浄化の旋風は、街を十年にわたって重苦しく覆い尽くしていた絶望の灰を、驚くほど鮮やかに吹き飛ばした。今では事務所の古い木枠の窓を思い切り開け放てば、鼻を突く煤けた臭いの代わりに、どこか遠い海から運ばれてきたような、湿り気を帯びた新しい季節の風が室内へと滑り込んでくる。
アッシュウォーカー探偵事務所の平和な一日は、一匹の黒い毛玉による、断固たる抗議行動から始まった。
「あー、もう! スス、そこは絶対にダメだってば! どいて、お願いだから!」
ロイスの、朝一番とは思えないほど情けない叫び声が、淹れたてのコーヒーの芳醇な香りと共に事務所の隅々にまで響き渡る。
黒猫のススは、ロイスがテーブルいっぱいに広げていた今朝の新聞、下層の英雄たち、都市を救うという気恥ずかしいほどの大見出しが躍る記事のど真ん中で、これ以上ないほど確信犯的に丸くなっていた。
彼の漆黒の毛並みは、窓から差し込む冬の柔らかな陽光を浴びて、上質なビロードのように艶やかに輝く。ススは、ロイスの必死の訴えを耳にすると、一度だけフンと誇らしげに鼻を鳴らした。そして、ロイスの困り果てた顔を黄金色の瞳で一瞥し、その短くも力強い脚で、新聞を丁寧に、かつ大胆に踏みつけ、さらに深く丸まって寝直してしまった。
「いいじゃないか、ロイス。ススにとっちゃ、都市を救った英雄の記録よりも、自分の寝場所の安定の方がよっぽど重要な問題なんだろうよ」
事務所の隅、臨時の精密作業台を設置したジェミニが、手元の作業を止めることなく静かに笑いながら言った。




