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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人


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不完全な歯車


「ロイス、左腕の出力を三割で固定しろ。破壊するためじゃない。奴がエンジンから吸い上げているエネルギーを、残滓の熱で逆流させるんだ。奴の偽りの神経系をオーバーロードさせろ」


「了解よ、ジャーミンお兄様。ったく、この腕が熱くなりすぎて、私の頭まで沸騰しそうよ。後で特大のアイスクリームでも奢ってもらわないと割に合わないわね」


 ロイスが地を這うような低姿勢で肉薄する。彼女の左腕から放たれる漆黒の光が触手に触れるたび、青白い蒸気が激しい火花を散らして中和されていく。それは単なる破壊ではない。暴走する血流を食い止める止血処置であり、病巣のみを切り分ける外科手術のような、緻密で命懸けの戦闘だった。


「お前たちのやっていることは、ただの無駄な延命に過ぎない。なぜ理解できない。この不完全で、汚れに満ちた人間社会に、何の価値があるというのだ。私の構築する永遠の秩序こそが、人類の終着点だというのに」


 エフィメラの背後から、巨大な蒸気圧を纏った三連の処刑大剣が振り下ろされる。広場を両断せんばかりの一撃。だが、ジェミニはそれを避けない。一歩前へ踏み込み、その死の軌道を真っ向から見据えた。


「価値を決めるのは、貴様のような独裁者じゃない。明日のパンを心配し、誰かのために涙を流し、時には泥にまみれて笑う。そんな不完全な人々自身だ。貴様がゴミだと言った名もなき彼らが、この街の歯車を回しているんだよ」


 ジェミニは飛来する巨刃の、物理的な力の逃げ道となっている回転軸の継ぎ目を見切り、重量級レンチを電光石火の速さで差し込んだ。


 ガギィィィィィィン。

 金属同士が噛み合い、凄まじい火花がジェミニの顔を焼く。


 だが彼は瞬き一つせず、レンチをテコにして、渾身の力で反時計回りに捻り上げた。

 物理的な破壊ではない。エンジニアとしての深遠な知識を駆使し、ボルト一つ、ゼンマイの噛み合わせ一つを正確に解除し、機構を無力化する一撃。


 エフィメラの巨躯から、右腕の重武装が悲鳴を上げて切り離され、床にガラガラと崩れ落ちた。


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