決死のバイパス
「な、何だと。私の神聖なる武装を、たかが工具一本で。あり得ん、私の計算では」
「言ったはずだ、これは解体だと。ロイス、今だ。奴の胸部にある外部制御弁を叩け。接続を物理的に断つんだ」
「任せなさい。これが、ネオ・ロンドニウムで一番高い修理費よ。きっちりツケで払ってもらうわ」
ロイスが跳躍した。ベルが空中に固定した鉄鎖を足場にし、重力を無視するように身を翻す。彼女の左腕が、周囲の空気を歪ませるほどの漆黒の閃光を放った。ロイスの拳が、エフィメラの核とプロメテウス・エンジンを繋ぐ最大の接続点に叩き込まれた。
ドォォォォォン。
凄まじい衝撃波が駆け抜け、黄金の装甲に縦横無尽の亀裂が入る。だが、エフィメラは亀裂の奥から血走った瞳を覗かせ、狂気混じりに嘲笑った。
「甘い。私は既に、エンジンそのものと全域で同期している。私の意志一つで、このエンジンの安全弁をすべて強制ロックし、臨界突破による大爆発を引き起こすことなど造作もないのだ。全員、ここで灰になれ」
エフィメラの顔面の文字盤が、危険を示すどす黒い赤色に染まる。周囲の圧力が急上昇し、エンジンのパイプ群が赤熱し始めた。
「ジャーミンお兄様、エンジンの温度が下がらないわ。このままじゃ蒸し焼きよ!」
ジェミニは冷静に計器をスキャンする。冷却系が完全にロックされている。外部操作は不可能だ。その時、ベルが動いた。彼女は鉄鎖を自身の胸部、超高圧ボイラーの直結口へと繋ぎ合わせた。
「ベル。何をするつもりだ」
ベルは答えない。ただ一度、ジェミニとロイスを振り返り、センサーを静かに点滅させた。彼女は自身のオートマタとしての構造を、エンジンの一時的な冷却バイパスとして利用しようとしているのだ。
「ダメよ、ベル。そんなことしたら、あなたの内部回路が焼き切れてしまう」
ロイスが叫ぶが、ベルは既にエンジンのメインバルブへと鉄鎖を打ち込み、接続を完了させていた。
「ヴォォォォォン」
ベルの全身から、凄まじい量の余剰蒸気が噴き出す。真鍮の肌が赤黒く変色し、四肢が負荷でガタガタと震え始めた。しかし、その献身のおかげで、エンジンの暴走温度がわずかに下降を始めた。
「ベルが時間を稼いでくれた。ロイス、これが最後のチャンスだ。エフィメラという寄生体を、このエンジンから完全に切り離す。次の一撃で決めるぞ」
探偵事務所の面々の、命を懸けた最終解体作業が、今まさにクライマックスを迎えようとしていた。




