真鍮の館ブリストル伯爵
ロイス・アッシュウォーカー探偵事務所の蒸気自動車は、ネオ・ロンドニウムの永続的な薄暮の中を滑るように進んでいた。高級住宅街に近づくにつれ、道路は磨かれた大理石で舗装されていたが、それでも石炭とオイルの匂いが、密閉した窓の隙間から車内にまで深く滲んでくる。
ロイスは助手席で、愛猫ススを膝に乗せたまま微動だにしなかった。彼女の口は『沈黙のルール』によって固く閉じられ、左目の『機械式単眼』だけが静かに駆動し、窓外の煤煙にまみれた街並みと、その下に流れる蒸気の流れを分析していた。
彼女の天才的な頭脳は、一切の無駄話をせずに、周囲の情報を飢えた歯車のように高速で取り込んでいく。
運転席のジェミニは、ちらりと妹を一瞥し、安堵の息をついた。ススの存在が、彼女の過剰な蒸気圧を抑えつけていることに感謝しながら。
「どうやらSNは正常に機能しているようだ。君の多動的な思考回路の、唯一の自己抑制装置としてな」
ジェミニは車の操縦盤に組み込まれた温度計を指で叩いた。
「ブリストル伯爵の屋敷は、この先だ。上層階級のエリアだが、都市の心臓たるプロメテウス・エンジンからの蒸気放出が特に濃い。現場には残滓の匂いだけでなく、微量の硫黄の臭気が混じっている。注意しろ、ロイス」
伯爵邸は、真鍮と大理石でできた豪奢な建物だったが、度重なる煤煙の影響で黒ずみ、まるで威嚇するようなゴシックホラーめいた威圧感を放っていた。門構えの真鍮装飾も、酸性化した煤煙に侵され、緑青が不気味に浮き始めている。
依頼人であるブリストル伯爵は、自らも精巧な真鍮の義腕を装着した、痩せこけた初老の発明家だった。彼は神経質に指を組み、探偵団を出迎えた。彼の視線は、ロイスの華麗な外見と、彼女の鎧から覗く漆黒の左腕の間をさまよった。
「ああ、アッシュウォーカー嬢。噂に名高い美少女探偵。しかし、その腕は……『灰色の朝』の生き残りと聞くが」
ジェミニが間髪入れずに前に出る。ロイスの過去の核心に触れることは、彼にとって絶対的なエラーだった。
「伯爵。我々はロイスとジェミニだ。過去の話題は、解析データには含まれない。早く事件の詳細を」




