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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人


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時計仕掛けの処刑人


 巨大な竪穴を抜け、三人が辿り着いた最下層。そこは、蒸気文明の心臓部プロメテウス・エンジンへと繋がる、最後の大門の前だった。


 広場は真鍮の円形。しかし、そこには温もりなど微塵もない。周囲の壁面に穿たれた無数の排気孔からは、常に高圧の余剰蒸気が咆哮のような音を立てて漏れ出している。空間全体が、まるで巨大な鋼の怪物の体内、その心臓部に迷い込んだかのように、熱く、重く、そして暴力的に脈動していた。


 その中央、逃げ場のない円舞台のど真ん中に、奴は微動だにせず立っていた。

 迷宮の最終防衛ライン。名を、時計仕掛けの処刑人という。


 それは人型という概念を大きく逸脱した、三メートルを超える真鍮の巨躯であった。全身の装甲の隙間からは、絶え間なく回転を続ける無数の歯車が露出し、背中には蒸気駆動の多関節アームによって、大剣、処刑斧、巨大な鎌といった凄惨な処刑具をいくつも背負っている。


 その顔面には目も鼻も口もない。ただ一つの巨大な時計の文字盤が鎮座しており、カチ、カチ、と静寂を切り裂く不気味な秒針の音だけを響かせ、侵入者の死までの時間を刻んでいた。


「来るわよ……ジェミニ、ベル。ここが迷宮の出口にして、地獄の入り口。最後の掃除、気合を入れなさい!」


 ロイスが叫ぶと同時に、番人の文字盤が血のような赤色に発光した。背中のアームが瞬時に二振りの巨大な処刑鎌を掴み取り、凄まじい遠心力を伴って三人を強襲する。鎌が空気を切り裂く音は、まるで死神の嘲笑のようだった。


「散れ! 立ち止まれば一撃で両断されるぞ!」


 ジェミニの鋭い指示で、三人は三方向へと跳んだ。鎌の刃が掠めた頑強な石畳は、まるで薄い紙のように容易く切り裂かれ、火花と共に深い溝が刻まれる。もし一瞬でも判断が遅れていれば、今頃は肉塊となって床に転がっていただろう。


 ベルが損傷を厭わず反撃の口火を切った。先ほどの戦闘でひび割れた真鍮の腕を無理やり駆動させ、ありったけの蒸気圧を込めて四肢から鉄鎖を射出する。鉄鎖は番人の巨大な脚部に蛇のように絡みつき、その機動力を奪おうと試みた。


「……シュゥゥゥ!」


 しかし、番人の出力は想定を遥かに凌駕していた。文字盤の針が高速で逆回転を始めると、体内の高圧ボイラーが一気に蒸気を解放。絡みついた鉄鎖を強引に引きちぎるほどの圧倒的な膂力で、逆にベルを自分の方へと力任せに引き寄せたのだ。


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