苗床の芸術
迷路のように入り組んだ通路を進むうちに、ロイスは壁一面を覆い尽くす奇妙な装飾を発見し、思わず足を止めた。
それは、残滓とどす黒い血液を混ぜ合わせた塗料で描かれた、正気とは思えないほど緻密で乱雑な「歯車と人骨」の集合絵だった。以前、マダム・ヴェイルから聞いた、煤煙の芸術家たちが描いたというあの呪われた絵画そのものだ。
「ジェミニ、見て。これよ、煤煙の芸術家たちの末路。まるで、彼らが都市の主たるプロメテウス・エンジンの深淵なる設計図を、狂気と苦痛の中で無理やり描き出そうとしたみたい。歯車の一つ一つが、人骨の関節に食い込み、肉を削り、機械としての生命を謳歌しているわ」
ロイスがその不気味な絵に近づいた瞬間、真鍮の鎧に守られた左腕――黒い残滓の皮膚が、かつてないほどの激痛と共に脈動し、熱を持ち始めた。彼女は歯を食いしばり、震える手でアッシュ・スキャナーを取り出した。壁にこびりついた塗料の残滓濃度を測定する。
「変質度、計測不能なほどに高いわ。SNの記憶盗難現場に残されていた変異残滓と、波長が完全に一致する」
「解析を共有した。間違いないな」
ジェミニの声が、一段と低くなる。
「この場所は、エフィメラが拉致した被験者たちを一時的に監禁し、彼らの脳と肉体が残滓に順応するかを試していた苗床だ。ロイス、そこから先はもう、地獄の入口だぞ」
通路の最奥、轟音を立てて駆動する巨大な蒸気ポンプに囲まれ、蒸気の霧に包まれた広大な廃墟。そこがドクター・エフィメラの拠点、嘆きの井戸の心臓部であった。
研究所の内部は、惨憺たる有様だった。錆びたメス、中身の濁った水銀の瓶、そして千切れた手足のように散乱する小型オートマタの残骸。中央に鎮座する巨大な鋼鉄の作業台には、人間の皮膚と複雑な真鍮の歯車が、生々しい肉芽を介して融合した、吐き気を催すような黒い皮膚の試作品が、まだ熱を帯びたまま放置されていた。
スチームパンクの様式美を、狂気という名の酸で溶かしたようなゴシックホラーの光景が、高圧蒸気の咆哮の中で剥き出しになっている。
「なんて悪趣味なインテリアなのかしら。美学のビの字も、真鍮の輝きすら感じられないわね」
ロイスは激しい嫌悪感を露わにし、吐き捨てるように言った。しかし、その声は微かに震えている。
「ロイス、深追いするな」
ジェミニが警告する。
「エフィメラの熱反応は既に消失している。彼は我々が到着する直前に、ここを放棄して逃走したようだ。だが、彼のような狂信者は必ず自分の足跡を残す。彼の研究におけるエラー・コードの残滓を捜すんだ」
ロイスは、こみ上げる吐き気を堪えながら、作業台の周囲を漁り始めた。彼女の目的は、盗まれた記憶の行方、あるいは黒い皮膚の実験の詳細を記した記録だ。




