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真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人


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12/37

エラー・コード


 ロイスが迷宮の深淵にその身を半分沈めた、その瞬間だった。


 ドオン!!


 はるか上空から、内臓を揺さぶるようなけたたましい轟音が響き渡った。

 

 それは、ネオ・ロンドニウムの上層階級居住区へと高級物資を運搬する定期飛行船の、強靭な蒸気機関が異常な悲鳴を上げ、破裂した音だった。ロイスは瞬時に足を止め、螺旋階段の隙間から機械式単眼を天空に向けた。最大ズーム機能が、薄暮の向こう側を克明に映し出す。


 上空では、一機の巨大な連絡飛行船が黒煙を吹き出し、バランスを崩して狂ったように旋回していた。煤煙で見えにくいが、明らかにパイロットが制御を失い、空中衝突の危機に瀕している。その時、ロイスの単眼が信じがたい光景を捉えた。


 飛行船の外壁、その強固な金属装飾の一部分に、生き物のように脈動する漆黒の残滓が凝固し、船体を侵食していたのだ。そして、無線機からジェミニが傍受したパイロットの、正気とは思えない絶叫が漏れ聞こえてくる。


「壁が! 船の壁が黒い皮膚に変わった! やめろ、来るな! 俺の腕から歯車が生えてくる! 俺の体が機械に喰われる!!」


「ロイス! 今の衝撃波を感知したか!? 上空の飛行船だ! SNの環境センサーが緊急警告を発している! あれは単なる事故じゃない。これは『飛行船パイロットの錯乱』だ! 広域幻覚が伝播している!」


 無線機越しに叫ぶジェミニの声には、珍しく焦燥が混じっていた。

 ロイスは、地下迷宮の闇へと続く入口と、地獄のような業火に包まれつつある上空の飛行船の間で、彫像のように立ち尽くした。


「……ジェミニ。その通りよ。これは単なる操縦ミスや、機関の故障じゃないわ。あのパイロットは、残滓の影響で、自分の体が機械に統合されるという最悪の幻覚を見せられている。そして、あの飛行船の船体を見て。残滓が凝固して、まるで皮膚のように張り付いている。ということは……」


 彼女の、一見すると無駄話のように聞こえる言葉が、一気に恐るべき真実の核心を貫く。


「この街の血管である蒸気パイプも、建築材も、ネオ・ロンドニウムという都市の構造材そのものが、すでに残滓に汚染され始めているのよ。都市全体が、巨大なエラー・コードに感染しているんだわ!」


 ロイスは、炎上する飛行船を見上げ、そして再び、ドクター・エフィメラの研究所へと続く暗い奈落を見下ろした。


「ドクター・エフィメラは、研究所でコソコソと素材集めをしながら、裏ではこんな巨大なイタズラを仕掛けていたわけね。ジェミニ、あの記憶盗難は、この都市崩壊の序曲に過ぎなかったわ。このパイロットの錯乱は、ネオ・ロンドニウムの基盤が内側から腐敗し、崩れ落ちるための予兆よ!」


 ロイスの瞳には、恐怖ではなく、かつてないほどの激しい闘志の炎が宿っていた。崩壊を待つ都市の闇を射抜くように、真鍮の探偵は力強く一歩を踏み出す。


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