地下蒸気迷宮への潜入
二人は『煤煙の貴婦人』地区のさらに下層、巨大な排気ダクトが並ぶ工業地帯の端で車を降りた。
目の前に広がるのは、機能不全に陥り放棄された『地下蒸気迷宮』の入口だ。赤錆びた鉄骨と、絶え間なく降り注ぐ煤煙にまみれた巨大な螺旋階段が、奈落の底へと口を開けている。
「ジェミニ、ここは蒸気の排気音がうるさすぎて、私の優雅な思考が乱されるわ。私が先行してエフィメラを捕まえている間、あなたは入口でSNの解析を続けていて。この迷宮は、私の華麗なる隠密行動の舞台にふさわしいわ!」
「何を言っている。あり得ない。単独行動は自殺行為だ!」
ジェミニは即座に、かつてないほど強い口調で反対した。
「この迷宮は犯罪組織の巣窟であるだけでなく、エフィメラの被験者たちが徘徊する危険な領域だ。SNのリアルタイム解析は君の安全を確保するための唯一のエラー・チェックをしている。君と私が分散すれば、我々の探偵事務所としての稼働効率は零まで低下するぞ」
「ああもう! わかっているわよ、心配性なジャーミ……じゃなくて、ジェミニ!」
ロイスは、普段は決して口にしないはずの兄の正式な名前を滑らせそうになり、慌てて大げさに咳払いをした。ジェミニの眉がわずかに動く。
「いい? 私が行くのは、ほんの少しの偵察よ。この迷宮の構造は、私の直感――つまり機械式単眼の空間スキャンで瞬時に解析できるわ。もし私が五分以内に『歯車はいたって正常!』と叫ばなかったら、その時はあなたも強行突入してきて。それなら納得でしょう?」
ジェミニは深く、重いため息をついた。ロイスが自分の名を呼びかけたことに、かつての、まだすべてが正常だった頃の兄妹の記憶が微かに揺れる。しかし、今のロイスの瞳には、引き下がらない頑固な光が宿っている。
「……わかった。だが、無線機は常に最大出力にしておけ。そして、アッシュ・スキャナーの残滓警報レベルは赤に設定しておく。一秒でも閾値を超えたら、私は即座に介入する」
「了解よ、過保護な解析官さん!」
ロイスは翻るマントと共に、地下へと続く階段を軽快な足取りで降り始めた。彼女の真鍮の鎧が、湿った石の壁に反射するガス灯の毒々しい緑色がかった光の中で、不気味に、しかし誇り高く輝く。




