表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真鍮の探偵ロイス・アッシュウォーカー/宿命の解体屋と鋼の守護者  作者: 弌黑流人
灰色の美学

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
114/122

港のネズミたちの密談

「錆びたピストン亭」の扉を抜けると、そこは重油と安酒、そして嘘の匂いが渦巻く情報のるつぼだった。ロイスは「ロイ」として、整備士特有の無遠慮な足取りでカウンターへ向かう。ジェミニは店内の空気を一睨みして威圧し、ベルは隅で静かに機能を停止している労働機械を装った。


ロイスはカウンターの男、港でも一二を争う情報通として知られる荷役頭の男に、わざとらしく汚れた指先を突き出した。


「おじさん、いい酒だね。でも、もっと喉を通る『面白い噂』はないか? 例えば、最近この港、やけに特定の真鍮貨が流れていると思わない?」


男はグラスを置き、ロイスを値踏みするように見た。少年整備士の装いをしているが、その瞳に宿る知性は、単なる働き手のものではない。男は声を潜めた。


「坊主、厄介なことに首を突っ込むな。……最近、第五ドックの裏に『黒い運搬船』が来るんだ。霧の夜にしか動かない、不気味な船さ。怪しすぎるだろ? わかったら関わるんじゃねーぞ」


ロイスは心の中で「ビンゴ」と叫んだ。だが、表情にはあどけなさを貼り付けたまま、男のグラスに自分の注文した安ビールを注ぎ足す。


「黒い船? 誰が仕切ってるのさ。この港のドック代を払える奴なんて、限られてるだろう?」


男は周囲を警戒し、顔をさらに近づけた。


「ったく、それが、金の話じゃないんだ。積み荷は……『灰』さ。それも、この街で一番禁忌とされている場所へのな」


男が懐から出したのは、不自然に黒く変色した真鍮のチップだった。


「これを見てみろ。あいつら、このチップを触るたびに『灰の街へ』と口走っていた。あの死の隔離区へ、定期的に物資を運んでるなんて、狂気の沙汰だ」


「灰の街……!」


ロイスとジェミニの視線が、一瞬だけ交差する。アントニオのリストに続き、今度は組織の補給線そのものを突き止めた。掃除屋たちは、クイーン・スチーム・エリザベス号を沈めた後も、狂信者どもが崇めるような死の街へ、何かを運び込んでいる。


「坊主、あんた何者だ? どうしてそんなに詳しく……」


男の疑念が深まるのを感じ、ロイスは笑って懐から小銭を投げた。


「オレはただの整備士さ。機械の悪いクセを治すのが仕事でね。どうも、この港の歯車は、あんたが持ってるそのチップが噛み合わなくて、無理な回転をしてるみたいだよ」


その時、酒場の奥の席で、鋭い視線を向けていた数人の男たちが立ち上がった。彼らの腰には、明らかに掃除屋特有の、現像液の臭いを放つ装備が隠されている。


「お喋りが過ぎたようだな」


男たちがゆっくりと近づいてくる。ロイスは立ち上がると、工具袋から愛用のレンチを滑らかに抜き出した。


「親方、掃除の時間が来たみたいですぜ。ベル、店の灯りを落として!」


「了解いたしました」


ベルが床を蹴り、壁の主電源レバーを粉砕する。店内が暗闇に包まれた瞬間、ロイスは暗闇に慣れたススの合図に従い、先頭の男の懐へ飛び込んだ。


「あいにくだけど、オレは機械の整備には自信があるんだ。人の口を封じる機械の修理も、お手の物だよ!」

暗闇の中で火花が散り、男たちの叫び声と金属がぶつかる音が響く。ジェミニが強固な守りでロイスの死角をカバーし、ベルが的確に敵の動力源を断ち切っていく。

店内の混乱に乗じ、ロイスは先ほどの男のチップを奪い取ると、ジェミニたちと共に店の裏口へと駆け抜けた。霧の夜の港へ飛び出したロイスは、奪ったチップを月の光にかざす。


「灰の街への物資……。掃除屋の元締め、あんた、何を食べさせようとしてるのさ」


チップには、複雑な幾何学模様と、見たことのない紋章が刻まれていた。それは、天上に住まうはずの権力者たちが用いる、極めて精巧な暗号鍵だ。


「ロイ、追手が来る。急ぐぞ」


ジェミニの声に、ロイスは強く頷く。セント・ジュードの港で手に入れたこのチップこそ、灰色の歴史を剥がすための最初の鍵だ。


「ああ、親方。灰の街へ行く理由ができたよ。このチップを差し込めば、あいつらの隠した真実が、すべて暴き出されるはずさ!」


三人の影は、霧の中へと消えていく。ロイスたちは「死者」という幽霊の身分を最大限に利用し、敵の懐へと続く一本の糸を手繰り寄せたのだ。灰色の世界が、音を立てて動き始める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ