紅い断罪と蒸気の盾
格納庫の入り口、逆光の中で影となった純黒の処刑執行人が、肩に担いだ巨大カメラ……葬送兵器「真鍮の断罪」のトリガーを、音もなく引き絞っていた。
レンズの奥で、多層構造の真鍮プリズムが超高速回転を始め、不吉な紅い光を一点の「死の焦点」へと収束させる。周囲の酸素が焼ける、鼻を突くような少し生臭いオゾンの臭い。空気そのものが震え、キィィィィンという、鼓膜を直接針で刺すような高周波音が、格納庫の静寂を切り裂いた。
「……現像終了だ、アッシュウォーカー。君たちの無知な正義も、ここで一巻のフィルムとして閉じさせてもらおう。この紅い光は、真実さえも焼き消す。……さようなら、愛すべき没義道ども」
刹那、レンズから放たれた超高密度の蒸気熱線が、格納庫の闇を一瞬で血のような紅へと染め抜いた。それは光であると同時に、数千度の熱を帯びた物理的な衝撃の奔流。迫りくる紅い死を前に、ロイスの視界が真っ赤に染まる。
「させないわ……! 私たちの旅は、まだ何も解体しきっちゃいないのよッ! 」
ロイスはアッシュキャリアーのサンルーフから身を乗り出し、左腕の装具を処刑執行人に向けて突き出した。
父から受け継ぎ、自ら調整を重ねた「三段式蒸気噴射加速機構」の第一段が、轟音と共に作動した。装具の側面に備えられた排圧弁が一斉に開放され、ロイスの右腕を包み込むように、超高圧の蒸気が鏡面のような「盾」を形成する。
紅い熱線と、白銀の蒸気の盾が真っ向から激突した。
ドォォォォンッ!
空間が物理的に捻じ曲がったかのような干渉音が響き渡る。ロイスの腕の骨がミシミシと悲鳴を上げ、装具の継ぎ目からは、逃げ場を失った熱気が血混じりの霧となって噴き出した。
「ロイスッ! 腕を捨てる気か! 耐えろ、私が支える!」
ジェミニが固定クランプをすべて破棄し、荒々しく車内に飛び込む。彼はロイスの背後からその華奢な肩を支え、自身の補助装具から残り少ないすべての冷却ガスをロイスの右腕へと送り込んだ。
凍てつくガスと、焦熱の熱線。ロイスの意識が遠のきそうになるほどの激痛が、彼女の神経を駆け巡る。
それでも、彼女は左腕を引かない。逃げればアッシュキャリアーごと消滅させられると理解しているからだ。この瞬間、彼女たちは物理的な力と技術、そして魂の全てを一点に集中させていた。
死神の紅い光は、いまだ衰えることなく猛威を振るい、格納庫を焼き尽くそうとしていた。しかし、ロイスの瞳から消えることのない情熱が、その光に対抗するための最後の要石となっていた。
ジェミニの温かい手が肩を支えることで、ロイスは自分が孤独ではないことを再確認し、限界を超えた出力を維持し続ける。まさに地獄の中での攻防戦であり、生と死が紙一重で交差する、静かで壮絶な時間が続いていた。
格納庫の外では船が崩壊を続け、内側では死の熱線と蒸気の盾が攻防を加速する。彼女たちが勝利を掴む道は、この一点突破以外には存在しない。




