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第四話「終焉の刻」

 理子の友達が理子を抑えてくれていることで俺はゆっくりとお風呂に入ることができた。あの三人が入った後のお風呂を考えれば、一儲けできそうな危険な香りがしてくるが、俺にそんな童貞みたいな思考はしていないから浴槽に湯を溜めて湯につかる。


「……くひっ」


 おそらくもうそろそろでメディアやネットが動き出し、手遅れな状況が広がっていく。みんながどうなっていくか逃げ惑い、そしてゾンビが増えていく。ゾンビが増えれば増えるだけ人間が勝てる可能性が低くなる。


 それを考えるだけで口角がつり上がり、笑いが抑えきれなくなる。お風呂に入ればリラックスできて考えがスムーズに浮かんでくる。まずは集団のメリットであるマンパワー。これをどれだけ活用できるかでメリットにもなればデメリットにもなる。


 デメリットになれば俺が抜けるかそいつを追い出さなければ集団での生活は無意味になる。いや、俺は自由にやりたいんだから、あの三人をいかにしてどこかの集団に押し付け、一人でゾンビの世界で生きて行けるかを考える方が良いか。


「うーむ……」


 そうであっても、理子以外の二人がどういう人間なのか理解していない以上これからどうするかは未知数だ。自己紹介でもすれば、自分がどうしたいかを言ってくれるはずだ。


「よし……」


 十分に湯につかった俺は全身を洗ってお風呂から出る。こうしてお風呂に入ることも、ままならなくなるはずだから、一回一回のお風呂を大切にしないと。まぁ、そこだけで水道や電気がすべての設備が完結しているところに行けば話は別だが、そんなところは他の人が行くのが早い。


 体を拭いて服を着て飲み物を取りにリビングに向かうと、ソファーに座って話していた理子たち三人が居た。俺に気が付いた三人は俺を見ているが、俺はそれをスルーして冷蔵庫に入っている水を取り出してそのまま部屋に向かおうとする。


「才蔵」

「あ?」

「何で部屋に戻ろうとしているの?」

「何でここにいないといけないんだ?」

「二人とも、こういう男だから、才蔵は」


 素通りする俺に理子が声をかけて俺がどういう人間なのか二人に説明してくれて助かった。そもそも俺が女子高生三人の前に座って何か話すことがないことを理子はそろそろで分かってほしいものだ。


「まぁ、話すことはあるだろうからな」


 L字型になっているソファーの長いところに三人が座っているため、俺は短い部分に座って三人の方を見る。


「最初から素直に座ればいいのに」

「理子、俺にそれを求めるのは間違っているぞ」


 理子はコミュ力お化けで友達大好きだから分からないだろうが、俺は一人でいるのが好きで誰かと話すことはあまり好きではない。そう思いながら俺は水を飲んで二人の方を見る。


「まずは自己紹介からだな。俺は日比野才蔵、理子の双子の弟だ。似てないという言葉は不要だ、聞き飽きた。遺伝子のイタズラと考えてくれ。理子と違って必要以上に話しかけないでいた方が楽だ、その気遣いは理子にでもしてくれ。これからの世界を楽しんで行こう」


 俺の自己紹介を聞いて、真田と不良的女子高生は何も言えないでいた。俺もこんな自己紹介をされてもこいつはバカなんだろうかと思うから、そう言うことなのだろう。


「何でそうやっていつも才蔵は変な自己紹介しかできないの⁉ 名前とよろしくお願いしますよりも酷いじゃん!」

「それ、すごくないか?」

「すごくないよ! 酷いだけ!」

「そうか……」


 そのことを俺が自覚している分マシだろ。とりあえず第一印象でもこの自己紹介でも俺のことを変人か何かと思わせれば十分だ。今、この瞬間から布石は打たれている。


「ぷっ……」

「……ふふっ」


 それなのに、二人は俺の自己紹介を聞いて笑っていたのだ。こいつらはゾンビを見て頭がおかしくなっていたとしても、俺は素直に受け入れよう。そしてどこかに放り出そう。


「ぷふっ、理子が学校で言ってた通りだね」

「そうね。そのまんまだったから思わず笑ってしまったわ」

「そうでしょ! あたしって弟のこと分かってるからね!」

「それって才蔵くんのことが大好きってことかしら?」

「そうじゃないって!」

「隠そうとしても無駄でしょ。大好きオーラが隠せていないから」

「紗帆までやめてよ~」


 何だか三人で盛り上がっているが、大方理子が俺のことを学校で言っていて俺がその通りに動いてしまったということか。そういうことなら普通に言っていれば良かったが、後の祭りだ。まんまと理子の手のひらの上で踊ってしまった。


「改めて。私は真田美弥、理子と同じクラスで友人よ。これからよろしくね、才蔵くん」

「俺のことは日比野で良いぞ」

「普通は私が日比野くんと言ったら才蔵で良いぞって言うところではないの?」

「いいや? これが普通だ。だから真田は俺のことを日比野と呼ぶんだ」

「えっ? そ、そうなの。それじゃあ日比野くんと……」

「待って美弥! 騙されちゃダメだよ!」

「だ、騙されたの……?」


 この一連の会話で何となく真田のことを理解した。完璧で近寄りがたい雰囲気だが、どこかの箱入り娘みたいな感じだと推測する。


「あんまり美弥をイジメないでね」

「……怒っているのか?」


 不良的な女子高生が落ち込んでいる真田を見てそう言っているが、その目つきが鋭い顔を見て俺は思わず質問してしまった。


「はぁ、この目つきは生まれつき」

「そうか、それはお気の毒に」

「あ? 喧嘩売ってんの?」

「やっぱり怒っているじゃんか」

「それはあんたが怒らせたんでしょ」


 これで怒っている時の目つきと怒ってない時の目つきを確認することができた。今は完全に怒っていることも理解できている。


「才蔵のことは頭が回るけど頭がおかしいから普通の会話の時は聞き流した方が良いよ、紗帆」

「あんたも、こんな弟を持って大変だね」

「そんなことないよ! だってこれ以上に両親がヤバいから」

「それって人?」

「人じゃなかったらあたしは何なの?」

「拾ってきた子供とか?」

「ちゃんと両親のお腹から才蔵と一緒に生まれてきました」


 こうして会話を見ていると、やはり俺はこういうところにいるのは苦手なようだ。一人で思考にふけっていた方がよっぽど有意義に思える。集団でいるメリットの一つ、物事を多方向から見ることがあるが、それもこんなことを話すくらいだったら一人で考えた方がマシだな。


「紗帆、美弥。才蔵のあの顔はこっちの話を一切聞いていない時の顔だから」

「おい、人のポーカーフェイスの裏を勝手に話すんじゃねぇよ。聞こえてるよ」

「何だ、聞こえてるんだ。才蔵は分かりにくそうで分かりやすいからね」

「何だよ、その私は彼のこと分かってるからみたいな感じ。俺の彼氏になったつもりか?」

「違うに決まっているでしょ! 姉なんだから当たり前じゃん!」

「はいはい、怒るな」


 怒る理子を諫めて残りの一人の自己紹介に戻った。


「あたしは鳥羽(とば)紗帆(さほ)。理子と美弥と一年生の時から一緒だったから仲が良いよ。同級生で一緒の家にいるのに今まで会ったことなかったことが不思議だけど、よろしく頼むよ」

「それは俺が会わないようにしていたからな。理子の友達と話すとか、どんな罰ゲームだよ」

「それって今も罰ゲームってこと?」

「そう思うんだったらそうなんじゃないのか?」

「じゃあ罰ゲームではないということにしといてあげるよ」

「そりゃどうも」


 性格的にもこの三人の中だと鳥羽が一番話しやすい感じがする。三人の中で比べたらの話だが。とりあえず一通り自己紹介は終えたし、俺がどうしてこの場に残ったのか、一つの目的があるからだ。


「それよりも、動画」

「あぁ、そう言えばそうだったわね。うっかりしていたわ、ごめんなさい」

「ゾンビが溢れる世界になれば、情報は大切になるからな」

「分かっているわ。動画は二つあるけど、どっちも短いから期待外れかもしれないわ」


 真田がそう言いながら操作したスマホを俺に渡してくれた。動画を送ってくれないのかと思いながら、見るのは一度だけで良いためその動画の再生を始めた。


 一つ目の動画は走りながら撮っているためかブレブレな動画だった。ブレブレであるがハッキリと映っていた、ゾンビが人を襲っている姿が。ゾンビに襲われている人は体格が良いが、女のゾンビの腕力に押し倒されて首元をかまれていた。だが、そこで動画が終わった。


「……本当に短いな」

「移動しながらだったんだから期待しないでちょうだい。それよりも見せたいのは二つ目よ」

「分かった……」


 一つ目がこれでは望みがないと思いながら二つ目の動画の再生を始めた。一つ目とは違い二つ目は何階か分からない教室の窓から外を撮っている動画だった。


 下には制服を着た男女のゾンビが大量におり、不規則にそこら辺をフラフラと歩いている。大量にいるゾンビは、それぞれが違う場所から血を流しており、腕や耳など体の一部がないゾンビもいるが他のゾンビと同じように歩いている。


 そしてゾンビがつまずいた音でもそちらに移動しているが、数秒間だけその場に留まり、そこに何もないと分かればまた不規則に歩いている。


『助けてくれ~!』


 そんな中、一人の男子生徒がゾンビの横を走り抜けようとしていた。その声に気が付いたゾンビたちは歩く速度は遅くてもその男子生徒に向かっていた。


『何して――』

『理子、今は静かにして』


 画面の外で理子が大きな声を出そうとしていたが、それを鳥羽がおさえていることは容易に想像できた。理子には接着剤で口を閉じないといけない日が、来ないことを祈っている。


『ひぃぃぃっ! 来るなぁ!』


 走っている男子生徒だが、どんどんとゾンビが周りに集まってきていた。その動画を見て、ゾンビの歩行の速度にも違いがあることが分かった。走ることはしないが、走るゾンビがいるかもしれない。元々が多種多様な人間だから、多種多様なゾンビがいることは不思議ではない。


 そう思っている間に、男子生徒は大量のゾンビに囲まれて次々にゾンビにかまれていく。ズームになっていないから分からないが、唾液や血を送り込んでいるのだと推測はできる。かまれなくてもゾンビの体液を体に入れれば即アウトと言ったところか。


 しばらくするとゾンビは何事もなかったかのように離れていき、残ったのは全身傷だらけになっている先ほどの男子生徒のゾンビ姿だった。そこで動画は終わった。


「……ありがとう、参考になった」

「どういたしまして。参考になって何よりよ。それで、何か分かったの?」

「ゾンビについて多少な。……テレビをつけるぞ」

「急に何?」

「見ればわかる」


 あることに気が付いた俺は真田の疑問を無視してテレビをつけた。するとそこには俺の思った通りの光景が映し出されていた。

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