二十八話
「サシャ、僕たち、故郷の村に戻るんだけど、一緒に来てくれないか?」
「・・・レッジの村?・・・」
「ああ。確か、テロトルテの領主様が治る地域にあるって話はしたことあったよな」
「・・・だいたいは覚えてる・・・」
「ミオンが言うには、秘書長のサシャも連れて行くべきだって」
「そうよ。たまには外に出ないと、あなたいつも空き時間にヴァンテーヌに魔法のことを教えてもらっているじゃない。買い物とかしたくないの?」
「・・・別に、興味なかったから。でも、今度レッジとデートする・・・」
「えっ!?」
「あっ」
当たり前だが、ミオンが思いっきり睨んできた。
「いや、後で言おうと思っていたんだ。本当に今さっき、決まったことなんだよ」
「ふーん、私も時間作ろうと思ったら作れますけどねえ」
「わかった、わかっている! ミオン、今度デートに行こう」
「今この場で言う? 他の女を膝に乗せているのに?」
「あの、それは、えと」
「ふふふ、冗談よ。わかったわ、じゃあレッジがエスコートしてくれるんだわよね」
「僕が……」
「サシャと行くんでしょ?」
「・・・それはわたしが、計画を立てる約束・・・」
「へえ、それは面白そうね……うーん、じゃあ、デートはあの町にしましょう」
「あの町?」
「ほら、私達が神託を受けたところよ」
「ああ、メータの町か」
僕たちが幼い頃、教会へ神託を受けに行くついでに、歩いて回ったあの町か。
今でも大切な、楽しい思い出の一つだ。
「2人で、行きたいところにいくの。どう?」
「そうだな。そうしようか、あの頃といろいろ変わっているところもあるだろうしな」
子供の頃に見た景色と、大人になって見直した時とじゃ、受ける印象って全然違うことあるよね。
「・・・わたし、頑張る。レッジにいい思い出になって欲しいから」
と、僕の方に顔を向けて宣言した。
「・・・伯爵様、レッジを一日だけ、貸してください・・・」
そしてミオンの方を見、そう言う。感情に乏しい声だが、たしかに本気で言っている声だ、僕にはわかる。
「いいわよ、律儀ね。中には強奪してしまう女だっているのに、恋愛に関してはわからない分馬鹿正直なんだわね」
「・・・強奪・・・どうやって?・・・」
「うふふ、知りたいかしら? それはねえふごっ」
「ストーップ、そこまでだ」
「むごむご」
危ない危ない、こんなところでそんな知識を植え付けるなよ、本気にしたらどうするんだ、おい。
「・・・気になる・・・」
だが、サシャはどうしても知りたいと言った感じだ。恋愛レベルにこだわりすぎじゃないか? 上がるのは悪女レベルの方だぞ。
「だめだ、もっと恋愛というものを理解して、たくさんの経験をしてからの方がいい。中途半端に余計な知識を取り入れてしまうと、それを実践してしまいたくなるだろうからな」
「・・・わかった・・・」
ふう、危ない。流石に寝取りに来るようなことはさせてはだめだ。と言うかそもそも、サシャとそう言うことをする気にならないんだよね。まさに妹っていう感じだから、対象外というか、むしろ庇護欲の対象になるんだよ。
「ぷはっ……でも、レッジは私としていて飽きたりしないの?」
手から抜け出したミオンが、とんでもないことを聞いてきた。
「おおおおい、なんてこときいてくるんだ、そんな訳ないだろう。ミオンといる時間はいつでも幸せだし、間違っても、その、飽きるなんてことはねえよ……だから、心配するなって、焦らずに行こうよ、な?」
ミオンの願いがあの絵本の通りだとしても、今はまだミオンが第一だし、サシャのことを1人の女性としてみることはない。それだけは、間違いなく言えることだった。
★
「相変わらず、いい馬車だなあ。」
「でしょ? だからこうして、膝の上にまたがっても大丈夫よ」
「はは、いい眺めだ」
王都を出て1週間半、村へ直行しているわけだが、今回は普通の速度で進んでいるため、早くてもつくのはあと大体3週間後となっている。
ミオンはいつも後ろでひと束に結んでいる髪を、完全におろしてストレートにしている。
髪がかかり少し陰って見えるその顔は、なかなかに美しく、イチャラブする時は大抵この髪型にしてもらっている。
と、ミオンが急に舌なめずりした。
「さて、それじゃあお楽しみの2人きりのイチャラブターイム!!」
「え、今? ままま、あっ--」
「ミオン様、はしゃぎすぎですよ。馬車が不自然に揺れているというのに、全く……」
「・・・2人は、何をしているのですか・・・」
「イチャラブです」
「・・・その、イチャラブって、どんなことをするんですか。魔法に関係ありますか?・・・」
「いいえ、この場合は恋愛レベルに関係あります。この行為について理解できれば、あなたは恋愛ゼロ歳児から16歳まで跳ね上がるでしょう」
「・・・そんなに大切なこと……!・・・ヴァンナ様、ぜひ教えて欲しいです・・・」
「こら」
「・・・すみません、ヴァンテーヌ様・・・」
「屋敷の外でも、心がけるように。私はもうその名前は捨てたのです。こほん、イチャラブというのは、具体的には----」
その晩、宿屋町にいる間、サシャの顔が終始真っ赤っかだった。何があったのか聞いてもはぐらかされたので聞けずじまいに終わったが、本当にどうしたんだろう?




