二十七話
自室に入り、ソファに座る。
するとサシャは当たり前のように僕の膝に座ってきた。
「なんだ、サシャ。ここが気に入ったのか?」
「・・・落ち着く・・・」
「そうか、ならいいぞ。で話っていうのは、サシャの秘書長としての仕事についてなんだ」
「・・・クビ?・・・」
と、サシャがブルブル震え出した。
「ち、違う違う、どーどー」
「・・・よかった・・・」
振動が弱まり、やがて収まる。
「サシャは僕と一緒にいて、何かやりたいことはないのか? ミオンは役職をつけたけれど、それは僕と一緒にいるようにという命令の意味合いが強い。やりたいことがあれば、なんでもいってくれたらいいんだぞ」
アナステの話を聞いて思ったのだ。サシャにもきっとやりたいことがまだまだあるはず。魔法を極めることに関してだって、ヴァンテーヌさんから色々教えてもらいたいだろうに。冒険者も一時休止中だし、僕と一緒にいても面白いことはなんもない。
「・・・じゃあ、デート・・・したい・・・」
「デート? あの、男女が街に出かけてキャッキャウフフする?」
「・・・そう。デートをすれば、好きって気持ちがもっとわかるかもしれないから・・・」
「なるほど、恋愛レベル向上の為にしたいんだな」
デートか。思えば、ミオンと再会してから一度もデートしていないな。
子供の時も、あれはデートというよりはただ幼馴染と遊んでいたという感覚に近い。
つまり、僕にとってのファーストデートを、サシャとするわけか。
「初デートなんだか、いいか? その、こういうのは男性が色々としてあげるものだと聞いたことがあるが、生憎とそういう手順が全くわかっていないんだ」
「・・・初めて?・・・」
「あ、ああ。27にもなって初めてだ」
「・・・私が、レッジの初めて・・・」
なんか言い方がいやらしいぞ、おい。
「・・・大丈夫、私がレッジを案内する・・・」
「そうか? すまない、じゃあお任せするよ」
「・・・任された・・・」
僕のお腹に体重をかけてくる。
「サシャの身体、柔らかいな……」
びくっ。そう呟いた瞬間、少しだけ体がはねるのがわかった。
「・・・レッジって、変態?・・・」
「え、なんで?」
いきなりの罵倒に面食らう。
「・・・16の少女の身体が欲しいなんて・・・伯爵様が聞いたらきっと怒る・・・」
なぜそんな解釈をした。一言も言ってないぞ。
「いやいや、そういうことを言っているんじゃないから。ただ、ミオンのことはこうして抱きしめたりすることがないからな。向こうもそれほどゆっくり時間が取れないし」
「・・・でも、夜はすることしている・・・」
「それはまあ、大人だから。それとこれとは、また違った趣があるというか……」
「・・・そう、あの人より私の方が先・・・」
サシャはどこか嬉しそうな雰囲気で、そういう。
--コンコン
「レッジ、ちょっといいかしら?」
と、ほんわかのんびりしていると、ミオンが入ってきた。
「って、何してんのよ?」
「えと……抱っこだ」
「ふーん、27歳のおじさんが、16歳の少女を自分の膝に乗せている。しかもその相手は、自分のことを好きなのかもしれない。これは事案ですわ、事案」
ミオンはニヤニヤしながら、僕たちに近づく。
「・・・あぅ・・・」
サシャはオロオロするが、降りる気配はない。
「別にいいのよ、ただ、私、最近こんなことしてもらった覚えないなーってね。レッジったら、イチャラブするときは男らしいけど、それ以外の時は遠慮しているのかあまり私に接触してこないからね」
「じゃあ、今するか?」
「え?」
「・・・どーぞ・・・」
僕の膝を降り、サシャはミオンの背中を押して僕の膝に座らせた。
「そ、それなら……おおっ」
「どうだ?」
「なるほど、これはずっと座っていたいわね。なんだか安心するわ。レッジに包まれているみたい」
さらに、お腹に腕を回してやる。
「あ、ちょ、恥ずかしいわ、もう」
ミオンは顔を赤らめながらも、まんざらではない様子で、その回ってきた掌に自らの手を重ねた。
「でもサシャにもこうしているから、不公平だろ?」
「うん? あんたたち、いつもこんなことしてんの?」
「最近は割と。まあ膝枕をしてもらったお返しに、抱っこをしたんだ。それから気に入ったみたいで。時折、親睦を深めているのさ」
決して不埒な目的のためじゃないぞ、うん。
「ふーん。私よりサシャを優先するんだ」
唇を突き出し、ふくれっ面になる。
「そういう訳じゃないよ、本当に。ミオンも忙しいし、夜一緒に寝られない日もあるから、なかなか恋人らしくイチャイチャする時間が取れないんだよなあ」
「じゃあ、またレッジの村に向かう時に、いっぱい愛し合いましょう」
「ああ、そうだな」
でもサシャも一緒に行くんだよな?
3人で……という訳にもいかないし。そもそもサシャにそのことを伝えないと。
「・・・むー・・・」
「なんだ、どうしたサシャ」
なせが唇に指をくわえ、唸っている。
「・・・もやもやする・・・」
「もやもや?」
「・・・心が、ズキズキして、私もしてもらいたいって身体がうずうずする・・・」
というと、ミオンがニヤリと笑った。
「サシャ、サシャ。それ、嫉妬じゃない?」
「・・・嫉妬?・・・」
「流石に意味はわかるわよね。好きな人が、別の同性と仲良くしているところを見て、あなたは本能で怒っているのよ。私のものを取らないで、返して欲しいって。特に、こうして身体的な接触を含むものは、強く出やすいわよね」
「なるほど、嫉妬か……サシャ、また恋愛レベル上がったな」
「・・・むう、嬉しいけど、なんか嫌だ・・・」
「あはは、じゃあ、私の隣に座りなさいよ」
「片方ずつに、ということか?」
「・・・じゃあ・・・」
と、サシャはまた僕の膝に座りなおす。
右膝にミオン、左膝にサシャが乗っている。これぞまさに両手に花ではなかろうか。
「おおっ」
「なによ、私が座った時よりもヘラヘラしていない?」
「えっ? いや、そんなことないない」
「本当に? 怪しいわね……」
などとミオンからいじられながらも、しばしこの状態で話を続けたのであった。




