エピローグ
闇が溶けていく。
僕の目に光が戻ってきた。目の前に誰かの顔がある。ここが天国じゃないことはなんとなくわかる。
焦点が合ってきた。女の子の母親らしき人が、僕を抱きかかえていた。隣に女の子の姿がある。
よかった。無事だったんだ。
そして・・・君は、母親になっていたんだね。髪が短くなっていて、少し年をとったから、一瞬わからなかったけど、でも相変わらず君は綺麗だ。
彼女は必死に何かを語りかけてくる。でも何も聞こえない。僕も、何かを言う力は残ってなかった。ただただ彼女の顔を見つめ続ける。やっぱり君は僕の為に涙を流してくれるんだね。でもそれは、最後にしてほしいんだ。君はこれからも母親として強く生きていかなければならない。そして僕は肉体が滅んでも願い続ける。君がこれからも力強く、娘と幸せに生きていけるように。
自分を信じて、君は間違ってなんかいない、君はこれまでもこれからも、素晴らしい女性だ。言いたいことはいくらでもあったけど、言えなかった。でも分かってくれるよね?君はとても賢い女性だから。
もう本当に悔いはなかった・・・・。
「あれ?なんで、死神さんがいるんですか?」
「お前は人生を終えた」
「あっ、ここってあの世なんですね。」
「次の人生が始まる」
「えぇっ!そんなすぐなんですか!?」
「現世でいう、あと数ヶ月でお前はまた産まれる。」
「そ、そうなんですか、でも、どこに産まれるかは教えてくれないんですよね?」
「お前は、娘の弟に生まれ変わる。」
「おぉ~何か親切ですね・・・って、僕、娘なんていませんでしたけど?」
「お前の娘だ。お前が最後に助けた。」
「・・・あの女の子?ですか?」
「そうだ。」
「あの子が、僕の娘・・・じゃあ、あの時彼女のお腹には・・・」
あの時、彼女のお腹の中には、僕の娘がいた。そうか、彼女はきっと全てを知っていたんだ。だから僕を死から遠ざけるために・・・
僕は彼女を本当に素晴らしい女性だと思っていたけれど、まだまだ過小評価していたようだ。全く・・女にはかなわない。
今の僕にはもう、後悔することさえできない。過去は消え去り、現在もない。あるのは未来だけ。僕は魂に誓った。今度は必ず彼女と娘を守り抜く。
いつの間にか死神さんは消えていた。そして、僕も光に包まれていく・・・
「あっ、ってことは父親がいるってことか・・・くそっ・・なんか複雑だな」
この物語を愛するMに捧げます。