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レイコン  作者: 沙φ亜竜
第零章 幽霊とレイコン
4/40

-4-

「お~! 確かに可愛い!」


 友雪が歓喜の声を上げる。

 と同時に、いきなり現われた女の子のそばまで飛びつかんばかりの勢いで近寄ると、彼女の両手を握ろうとした。

 ……のだけど……。


「あ……あれ?」


 スカッ!

 友雪の手は、ただ空を切るばかり。

 お互いの手は完全に重なっているように見えるのに、まったくぶつかったりする気配もない。


 これってやっぱり、この女の子が噂になっている幽霊だってことだよね……。


 幽霊、などというこの世のものとは思えない、というか実際にこの世のものじゃないだろうけど、絶対に恐怖の対象となるはずの存在を目の前にして、それでも僕は、どういうわけか怖さなんて微塵も感じていなかった。


 女の子の全身を眺めてみる。


 顔立ちは、ちょっと幼い雰囲気はあるものの、きらきらの大きな瞳が印象的で、友雪の言うとおり確かに可愛い。

 肩口で切り揃えられた髪の毛は、電球の明かりを反射して艶めく綺麗な黒髪。

 耳は長い髪で隠れているけど、そのすぐそばの、もみあげの辺りがくるりんと内側にカールを描き、適度なアクセントとなっている。

 頭の後ろには、大きな青紫色のリボンをつけていて、余計に幼く見えてしまうけど、おそらくは僕たちとさほど変わらない年齢だろう。


 学校に出る幽霊なのに、制服を着ているわけではなく、なんというか、女子大生が卒業式に着るような衣装を身にまとっている。

 紫と白の矢が並べられたような模様の長めの上着と、上品な雰囲気をかもし出す紺色の袴。

 両手のひらを体の前で控えめに重ね合わせ、静かにたたずむ様子を見ていると、大正時代からタイムスリップでもしてきたかのように思えてしまう。


 と、そんな彼女が、静かに向きを変えた。

 真っ直ぐ――僕のほうへ。

 そのまま、すーっと音も立てずにゆっくりと歩いて近づいてくる。幽霊の場合、浮遊して、と表現するべきだろうか。


 ぎゅっ。


 気づけば、僕の両手は、彼女の両手に包まれていた。

 友雪は握ることができなかった彼女の色白の手。その温もりを、僕は今、しっかりと感じている。


「な……っ! 玲ばっかり、ずるいぞ!」


 などという友雪の叫び声は、すっぱりと無視させてもらうとして。


「……温かい……。でも……キミって、幽霊……なんだよね……?」


 僕は、疑問をぶつけていた。


「え~っと、そういうことになると思いますの。……たぶん」


 なぜか自信のなさそうな答え。記憶が混乱しているのだろうか。

 ……幽霊にも記憶ってあるのかな……。

 それはともかく、女の子は僕の両手を握りしめながら、じっと瞳をのぞき込んでくる。


「こうやって会話もできるってことは……あなたなら、大丈夫かもしれませんの……」

「え?」

「あ……でも両手を握ったままじゃ確かめられませんの……。そうだ、こうすれば……。ちょっと失礼しますね」


 大丈夫って、どういうこと?

 確かめられないって、なにを?

 失礼しますって、どうするつもりなの?


 いくつもの疑問が、僕の頭の中には浮かんでいた。

 でも、浮かんだだけで、口から言葉となって飛び出すことはなかった。

 というよりも、言葉を発することができなくなっていたわけだけど。


「ん……」


 女の子の吐息が、至近距離で――というよりも、ほぼゼロ距離で響く。

 そして……。

 僕の唇と女の子の唇は、今この瞬間、ぴったりと重なっていた。



 ☆☆☆☆☆



「ぷはっ」


 女の子が、僕の唇から離れる。

 離れてもなお、唇には生温かくて湿り気のある余韻が残っていた。


「はぅ、接吻、できちゃいました……。やっとですの……。やっと、波長の合う方が見つかりましたの!」


 僕の両手を強く握り続けながら、女の子はにこっと笑ってそう言った。

 それにしても、接吻って……。

 本当に大正時代の女の子だったりするのだろうか……。


「ぬあ~! 玲ばっかり、マジでずるいぞ! 俺、まだキスしたことね~のに!」


 と、友雪が頭を抱えて地団駄を踏み始めた。

 だけどその言葉で、僕は気づく。


「僕、今のが初めてだ……」


 さらには、僕の言葉を聞いた女の子のほうも、


「あ……わたくしもでした……」


 と言って頬を赤らめる。

 僕も恥ずかしくなって赤くなっているのを自分でも感じたてはいたけど。

 ……初めての相手が幽霊って……カウントするべきなのかな……?

 驚いて頭が真っ白になっているような状況だったからか、なんだかずれた感想が頭をよぎる僕だった。



 ☆☆☆☆☆



「ところで、玲なら大丈夫って、どういうことなんだ?」


 ようやく諦めがついたのか、友雪が若干冷めたような声で質問する。


「はっ! そうでしたの!」


 僕もさっき頭に思い浮かべたその質問を聞いて、女の子のほうも当初の目的を思い出したようだ。

 握っていた両手を離し、僕のそばから一歩後ろに下がる。


「えっと、コホン……それでは改めまして……」


 なぜかひとつ咳払いをしてから、女の子はこんなことを言ってきた。


「お願いです、わたくしの頼みを聞いてください!」


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