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レイコン  作者: 沙φ亜竜
第零章 幽霊とレイコン
3/40

-3-

 可愛い女の子だったら幽霊でもお構いなしなんて、ほんとに見境ないんだな、友雪のやつ。

 そんなことを思いながらも、僕は友雪の後ろに続いて歩いている。

 昼休みになった瞬間に腕を引っ張られ、「行くぞ!」とひと言。友雪にとっては、お昼ご飯よりも女の子のほうが優先順位の高い事象なのだろう。


 女の子に会うため旧体育倉庫に向かっている、と言えば、わくわくするべき状況なのかもしれないけど。

 なにせ相手は幽霊なのだ。どんなことになるか、まったく想像もつかない。


 腹が減っては戦ができぬと言うし、しっかりと腹ごしらえをしてから向かうべきという気もするけど、食べ終えたあとというのは眠気も出てきてしまうし、それはそれで戦に向いていない状態なのかもしれないよね。

 などと、思考がかなりずれた方向に飛んでいるのは、やっぱり空腹のせいなのだろうか。


 どちらにしても、手首を力強くつかまれ引っ張られている状態の僕には、抵抗のしようもなかったのだけど。

 もう少し体を鍛えて、せめて友雪くらいには対抗できる力をつけるべきかな……。


 下駄箱で上履きから靴に履き替えた僕たちは、昇降口を出て、校庭のほうへと足を向ける。

 仲よく手をつないでいる、というわけではないものの、手首の辺りをつかまれて引っ張られている状態の僕。


 ひそひそひそ……。

 朝と同様、なにやら怪しげな視線を向けられ、ひそひそ話の対象となってしまったようだ。

 これでまた、変態扱いされる確率が高まった気がするな……。



 ☆☆☆☆☆



 校庭の隅を通って、僕たちは旧体育倉庫のある校庭の奥、防風林の杉が植えられている辺りへと向かう。

 学園の西側には山があって、冬になると吹き降ろす冷たい風が強くなることから、山側にあたる校庭の奥に防風林が作られているらしい。

 その防風林の脇にひっそりとたたずんでいるのが、僕たちの目的地、オンボロ小屋――じゃなくて、旧体育倉庫だ。

 実際のところ、オンボロ小屋と言ってしまってもいいくらい、薄汚れてボロボロな感じなのだけど。


 この木造の古い体育倉庫は、かなり年季が入っているのがうかがえる。

 補修された跡はあるみたいだけど、おそらく学園の創立当初から存在し続けているのだろう。

 紅葉ヶ丘学園は歴史のある伝統校で、創立されたのは大正時代だとか。


 なお、旧体育倉庫という名前からわかるように、昔は体育倉庫として使われていた。

 十数年ほど前、学園全体にわたる大規模な増改築が行われた際、校舎から近い場所に、もっと広い体育倉庫が新設された。

 それによって、この旧体育倉庫はお払い箱となったのだ。


 今でも取り壊されることなく残っているのは、防風林がある関係か、それとも単純に忘れ去られただけなのか。

 ともかく、そうやって残された古い体育倉庫が、今でもこの校庭の奥にひっそりと存在している。

 防風林の影響で周囲はちょっと薄暗い。たまに生温かい風が吹き抜けていくのも、寂しげな雰囲気を助長させている。


 幽霊が出ると言われれば確かに納得してしまいそうな、そんな立地と言えるだろう。


「ボロいね」

「ああ。カギは……どうやら噂どおり、かかってないみたいだな」


 旧体育倉庫の前までたどり着いた僕たち。

 木が腐りかけ、外れかかっているドアを眺め、友雪はそう言った。

 ……かと思った次の瞬間には、ドアは開け放たれていた。


 体育倉庫のドアというと、ちょっと重いスライド式のものをイメージするかもしれない。

 実際、今使われている体育倉庫のほうは、そうなっている。

 でも、この木造の古い体育倉庫は、手前に引き開けるタイプの木製のドアだった。


 勢いよく開けたから、本当に外れてしまうのではないかと心配になったけど、どうやら大丈夫だったようだ。

 旧体育倉庫の中は、薄暗くはあるものの、なにも見えないというほどではない。

 中にいろいろと仕舞っておくための建物なのだから、当たり前といえば当たり前かもしれないけど。どうやら建物の奥のほうに、明かり取りの小窓がいくつか並んでいるようだ。


「うっ、ホコリっぽい……」


 ケホケホと軽く咳き込む。


「さすがに古いだけあるな。昔の体育用具なんかも、そのまま残されてるみたいだ」


 倉庫内を見回してみると、古くなった綱引き用の綱だとか高跳び用のマットやバー、玉入れ用のカゴに薄汚れた各種ボール類、カラーコーンにライン引きなど、いろいろな用具が雑然と置かれているのが目についた。

 使えそうなものは新しい倉庫に移し、古くなったものはあとで処分するつもりで、ここに仕舞ったままになっているのだろう。


 ただどういうわけか、会議テーブルやパイプ椅子なんかまで置いてある。

 テーブルは天板の端が剥がれかけていて結構古めに見えるけど、パイプ椅子はさほど古そうにも思えないような……。


 僕が視線を巡らせていると、突然隣に立っていた友雪が大声を上げ始めた。


「お~い! 可愛い幽霊の女の子~! いるんだろ~? 出てきてくれ~! そして、俺とあんなことやこんなことを……ぐへへへ」

「……そんな言い方して、出てくるわけないじゃん……。それに、いくら幽霊だからって、変なことしちゃ悪いと思うけど」


 ため息まじりの僕の声に、友雪はすごい勢いで反論を返してくる。


「もしかしたら、あっさり出てくるかもしれないだろ? それに、幽霊に人権なんかない! もう死んでるんだからな! ゆえに、なにをしたって罪にはならないっ!」

「……法律上だとそうなるのかもしれないけど、死者の冒涜になるし、絶対呪われちゃうと思うな……」

「ふん、なんとでも言え。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」


 ……なんというか、僕はとてもひどい友人を持ってしまったようだ。

 もっとも、今さらという気もするけど。

 僕はため息ひとつ、友雪のことはスルーして、再び旧体育倉庫内に視線を向けてみる。

 すると、会議テーブルの脚の陰になる床辺りに、この場には不釣合いな物体が転がっているを見つけた。


「なんだろう? これ……」


 僕は床からその物体を持ち上げ、付着していたホコリを丁寧に払う。

 白くて細長い直方体のプラスチック製品で、なにやらボタンなんかが並んでいる、そんな物体……。

 これって、確か……。


「それ、WiiS(ウィーズ)のコントローラーじゃないか?」

「うん、そうだよね」


 友雪の答えに、僕も頷き返す。


 WiiSというのは、猫のマークのニャン天堂から発売されているゲーム機のことだ。

 コントローラーを手に持って、振ったり傾けたりすることで操作が可能なのが特徴で、大ヒット商品となった。

 今僕が持っているこの物体は、そのWiiSのコントローラーのようだ。


「どうしてこんなのが、ここに落ちてるのかな?」

「誰かがここに入り込んで、ゲームでもやってたんだろ。電球もあるし、コンセントもあるみたいだから、電気もまだ通ってるんじゃないか?」

「なるほど」


 薄暗くて気づかなかったけど、目を凝らしてよく見てみれば、天井からぶら下がっている電球も存在しているようだった。

 さらには壁にスイッチがあるのも発見、押してみると電球は明るく旧体育倉庫内を照らし出した。


「う~ん、これ、どうしよう?」


 僕はWiiSのコントローラーを手に持ったまま、友雪に尋ねてみる。


「とりあえず、振ってみればいいんじゃないか?」

「ゲーム機の本体がないのに、反応があるわけないってば」


 そう言いながらも、僕は反射的にコントローラーを水平に振るっていた。

 なにげなく振ってみただけ、そんな感じだったのだけど。

 どういうわけか、その動作に合わせて、


「きゃっ!」


 という声を響かせながら、それこそゲームでキャラクターがフェードインしてくるかのように、すーっと、ひとりの女の子が僕たちの前にその姿を現した。


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