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なにかを予感させる、どんよりと曇った薄暗い梅雨の空。
まだ降り出してはいないものの、天気予報では午後から雨となっていたはずだ。
時間はすでに放課後。だから、いつ天の雫がこぼれ落ちてきてもおかしくない。
僕たちは今、いつもどおり放課後の部活動中だった。
部室である旧体育倉庫には屋根があるから、雨が降っても気にする必要はない。
ボロっちい建物とはいえ、意外と雨漏りもなかった。
帰る時間になっても降っているとちょっと嫌だけど、折り畳みの傘を持ってきているから、僕自身は問題ない。
友雪や響姫が傘を持っているかは知らないけど。
友雪なら濡れて帰ればいいだけだけど、響姫の場合は若干問題があるかもしれない。それ、よこせ! とか言われて傘を奪われるかもしれないし……。
「ん? 玲、どうしたの? あ……あたしのほうを、じっと見つめて……」(ポッ)
心なしか頬がほのかに赤く染まっているような気もする響姫。
言われて初めて、彼女を見つめていたことに気づく。
「ん。ちょっと昔のこととか、思い出してね」
さっきの傘を奪われた話は、小学生の頃に実際にあった出来事だ。しかも一度や二度ではなく。
考えてみたらひどいよね。
だけどいつの頃からか、傘を奪ったりはせずに、ふたりで一本の傘に入って帰るようになっていたような気もする。
家の方向が違うから、響姫を家まで送って帰ることになって、かなりの遠回りになっていたっけ。
中学に入ってからはクラスが違うせいもあってか、一緒に帰る機会がほとんどなくなって、すっかり忘れていたけど。
「昔かぁ。幼稚園から一緒だし、結構いろいろあったわよね」
「うん。小学校までは、同じクラスになったこともあったしね。中学でも高校でも、一緒のクラスにはなってないけど」
「そうよね。せっかく一緒の学校に入ったのに……」
響姫はちょっと不満顔。
知り合いと同じクラスになれたほうが楽しいものだから、僕なんかでも同じクラスになりたいと考えてくれているのかな。
「でも、三人ともこの学園に入れて、よかったよね」
「……友雪は邪魔なだけだけど」
「ひでぇな、そんなこと言うなよ!」
僕たち三人は、この学園の受験を決めた中学三年生の頃に思いを馳せる。
そんな僕たちの会話を、桜さんたち幽霊ズは、温かな視線を向けながら黙って聞いてくれていた。
中学三年生の当時、響姫はクラスが違っていたけど、なぜだかよく顔を合わせるようになっていた。
偶然、響姫が僕の目の前に現われることが多かったからだ。
そして響姫は必ず、
「一緒の高校、受験しようね」
と言ってきた。
僕のほうは、もともとこの学園を受験すると決めていた。というか、決められていた。
お母さんから絶対この紅葉ヶ丘学園に入りなさいと言われ続けていたためだ。
どうやらお母さんもこの学園の卒業生だったようなので、同じ学園に通わせたいと考えていたのだろう。
「それにしても玲、この学園だけしか受けなかったのは、危ない橋を渡ったって感じよね」
「うん。絶対にここに入りなさい、入れなかったら勘当します、なんて言われてたから」
「玲のお母さんなら、もし落ちてたら本当に勘当するだろうな。怒ると怖い人だし」
「僕もそう思う。入れてよかったけど」
「まったくよね」
「そういう響姫だって、この学園一本に絞ってたじゃん?」
「あ……あたしも、この学園しかないって、そう思ってたから……。(っていうか、玲のいない高校に行くなんて、なんの意味もないし……)」
「友雪も、僕たちがこの学園を受けるって聞いて、志望校をここに変えたんだよね?」
「ああ、そうだな」
「懐かしいね」
「三人ともレベルが足りなかったのにね~。三人で集まって勉強会とかも、よくしてたわよね! 絶対合格するぞ~って、気合い入れまくりで!」
「僕はお母さんに脅されてたからなぁ。にこっと笑いながら、落ちたら殺すからね、って」
「……勘当よりレベルアップしてるな」
「基本的には、優しくていいお母さんなんだけどね……」
「ま、俺としては、自分だけ落ちたら絶対に納得がいかない状況になるとわかってたからな。地獄の果てまでも追いかけてやる、と必死に頑張ったんだっけな」
「え? どういうこと?」
「……さあな」
なにやらちょっと不機嫌そうな表情を見せる友雪。
いったいどうしたというのだろう?
「それじゃあ、響姫はどうしてあんなに必死になって頑張ったの?」
「えっ!? そ……それは……。(そんなの、玲と一緒の学校に通いたいからに決まってるじゃない……)」
僕の質問に、響姫は響姫で、なぜだかうつむいてしまい、僕には聞こえない小さな声でぼそぼそとつぶやくのだった。
☆☆☆☆☆
と、そんな過去の思い出話を繰り広げる中、不意に電球の明かりが消えた。
「きゃっ!?」
「あれ? どうしたんだろう?」
厚い雲が垂れ込める今日、明かり取りの窓も小さい旧体育倉庫内とはいえ、まだ昼間だから真っ暗になったわけではない。
僕はすぐに立ち上がり、入り口横のスイッチをパチパチと動かしてみる。
「スイッチ、利かないよ?」
古い設備だし、断線でもしてしまったのだろうか?
などと考えていた僕の耳に、騒々しい音が聞こえてくる。
そしてそれは、確実に近づいてきているようだった。
入り口のドアを開けて、倉庫の外に飛び出す。続いて響姫と友雪も出てくる。
僕の肩には、いつの間にか寄り添ってきていた桜さんの右手が、そっと乗せられていた。
「え? ちょっと、どういうこと!?」
響姫が混乱の声を上げる。もちろん、僕にだってよくわからない。
近づいてきていたのは、ショベルカーが乗せられた大きなトラックだった。




