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レイコン  作者: 沙φ亜竜
第六章 部室を守れ大作戦!
29/40

-4-

 やっぱり会長さんの存在は大きかったようで、僕たちは三日間で、実に全校生徒の八十パーセントを越える署名を得ることができた。

 その署名と嘆願書を突きつければ、取り壊しは中止になると考えていた。


 だけどここに来て、大きな問題が生じてしまう。

 取り壊し作業はすでに業者に依頼済みで、しかも、取り壊しが実行される日取りが、なんと明日に決まったというのだ。


「アンナ先生!」

「どういうことですか!?」


 僕たちは職員室に駆け込むと、アンナ先生に怒涛のごとく詰め寄った。


「どうって……聞いたとおりだと思うけど……。もともと取り壊しは決まっていて、調整していたところだったのよ。本当はもう少し先になるはずだったけど、業者側の都合で急遽、明日になったみたいね」

「そんな……!」

「今から中止することって、できませんか!?」


 僕の無茶な質問にも、先生は淡々とではあるけど答えてくれた。


「無理だと思うわ。一度明日と決定してしまったからには、あくまでも旧体育倉庫は学園の設備だから、生徒が騒いでもどうにもならない……。先生方全員が納得した上で、学園長が直々に取りやめると言うなら、話は別かもしれないけど……」

「だったら、ダメもとで、やってみるしかないな……」


 そうつぶやいたのは、一緒に来てくれていた会長さんだった。


「生徒会長には臨時集会を行う権限がある。急を要する場合には、即日開催も可能だ」


 その言葉どおり、会長さんは自らの権限を利用し、今日の放課後に臨時集会を行うと放送、全校生徒および全職員を体育館へと招集した。



 ☆☆☆☆☆



「いったい、なんだっていうんだ?」


 ざわつく生徒たち。

 体育館の中は、集まった人たちのどよめきが、まるで嵐の中にいるかのような轟音となって響き渡っていた。


「あーあー、静粛に!」


 壇上に立った会長さんが、マイクに向かって叫ぶ。生徒たちの声は徐々に静まっていった。


「まずは、このように突然、緊急集会を開いたことを、お詫びしたいと思う」


 一礼する会長さん。僕たちは、舞台袖からその様子を見つめている。


「また、生徒諸君、先日より正門前でお願いした署名に協力いただき、本当に感謝している」


 さらに一礼。


「その署名と嘆願書のコピーを用意してあるので、先生方、まずはそれを確認していただきたい」


 会長さんの言葉に従い、副会長が先生方にコピーされた嘆願書と署名を渡していく。


「内容は、旧体育倉庫の取り壊しの中止を訴えるものとなっている。署名は全校生徒の八十パーセント以上、ここにいる生徒たちの多くが賛同してくれたということになる」


 そこで一旦マイクから口を離し、会長さんは間を取る。


「だが、旧体育倉庫の取り壊しの話は我々生徒には伝わらない水面下で進み、まるでこの嘆願書を拒絶するかのように、明日実行されるということになったらしい」

「そう……みたいですね」


 ざわざわと、職員たちがざわめき始める。


「しかし、この旧体育倉庫は今、部活動の部室として申請され、実際に使われている。その場所を勝手に取り壊してしまうというのは、横暴だと言わざるを得ないと思うのだが、先生方、いかがだろうか?」

「確かに、今も使われているのであれば、それは……」

「だが、取り壊しは去年の職員会議で決まったんじゃなかったか?」

「しかも明日実行することに決まったわけだし、今さら言われてもねぇ……」


 さすがに会長さんでも、今回は分が悪いようだ。先生方も納得してくれそうな雰囲気ではない。


「そういえば、どうして生徒会長はここまでして、その部の肩を持つのかしら?」

「っていうか、旧体育倉庫を使ってる部活ってなんだ?」

「あっ、聞いたことある。幽霊部だって。なにそれ? って感じだよね」

「なんか、怪しくない?」

「雫香様がわざわざ手伝うような理由なんて見当たらないよな」


 いつの間にやら、生徒たちからもそんな声が上がり、雲行きはかなり怪しくなってきた。


「もしかして会長さん、脅迫されてたりとか?」

「それとも、好きな人が幽霊部にいるとか」

「なんだって!? それは許せん! どこのどいつだ!?」

「メガネの一年生が、確か幽霊部の部員だったはず……」

「ええっ!? じゃあ会長さん、年下趣味なんだ!」


 生徒たちの声は大きくなり、なにやらずれた方向にまで発展していく。


「いや、私は、その……自らの意思で……」


 会長さんもどうにか言い繕おうとするものの、周囲のざわめきが大きくなり、本人の声にも勢いがなくなってきたこともあって、マイクの音は徐々にかき消され始める。

 これじゃあ、先生方を納得させることなんて、絶対に無理だ。

 ここまで手伝ってくれた会長さんには本当に悪いけど、もう諦めるしか……。


 そう思った、そのとき。


「わたくしが行きますの」


 桜さんが僕の耳もとでささやいた。



 ☆☆☆☆☆



 僕はポケットに忍ばせていた0コンを手に持ち、桜さんを操る。

 会長さんのいる壇上まで行きたいと、桜さんが願ったからだ。

 とはいえ、僕まで出ていくのは得策でないと考えられた。

 会長さんが僕を好きなのでは、なんて誤解の声も聞こえていたのだから、余計な混乱は避けるべきだろう。


 それにしても、0コンで桜さんを操るのって、結構久しぶりな気がする。おかしな動きとかは、絶対にさせられない場面だ。

 慎重に動かさないと。

 そんなふうに緊張したのが悪かったのだろう。僕は汗で手が滑り、0コンの操作を誤ってしまう。


「あっ!」


 と思ったときには時すでに遅し。

 桜さんは足が引っかかるものなんてなにもない壇上で、それはもう盛大にすっ転んでしまった。


「きゃんっ!」


 思いっきり顔面から倒れ込んだ桜さんを、僕は慌てて操り、起き上がらせる。

 一瞬、桜さんが鼻っ柱を押さえながら、こちらに恨みがましい視線を送ったような気がした。


「あはは、あの子、ドジ!」

「うん、でも可愛いじゃん!」


 一部の生徒から、そんな声が聞こえてくる。

 注目してもらえたという意味では、結果オーライと言っていいのかもしれない。などと心の中で言い訳をしてみる。


 ともかく僕は、気を取り直して桜さんを操り、会長さんのもとまで歩かせた。

 それに気づいた会長さんは、壇上のマイクを譲るように場所を空ける。

 マイクの前に立ち、桜さんは大きく深呼吸。

 全校生徒と先生方を前にして、臆することなく話し始めた。


「わたくしが幽霊部の部長、朧木桜ですの。この度は我が部の部室を巡ってご迷惑をおかけしまして、申し訳ありませんでした。

 ですが、わたくしたちの部室は、旧体育倉庫です。他の場所ではダメなんです。それは、わたくしたちがあの場所に追いやられたからでもありますの。

 わたくしたちは、この学園の生徒です。部活動をする権利も、部室を使う権利もあると思いますの。わたくしたちにだって、人権はあると思いますの!

 先生方、どうかお願いします! わたくしたちの部室を奪うのは、やめてください!」


 桜さんはそう言って、大きく頭を下げた。


 実際のところ、僕にすらよくわからない部分はあった。人権まで持ち出すのも、唐突すぎとしか思えない。

 ただ、桜さんの必死さは充分に伝わってきた。

 それは、生徒たちも、さらには先生方にしても同じだったようで。


「……まぁ、無理矢理、部室を移動させるってのも、よくはないですよね」

「去年から決まっているといっても、そのときとは状況が変わっていますし……」


 流れはこちらに傾いてきた。とはいえ、まだまとまるには至らない。


「だが、すでに明日に決まっている取り壊しを中止にしては、業者にも迷惑がかかってしまうだろうし……」

「確かにそうですが……」


 先生方の意見も割れている状況が見て取れる。

 ざわめきは、より一層大きくなっていった。


 そんな中、ふと、教員たちの列の前に立ててあった司会用のスタンドマイクに、学園長がゆっくりと歩いていくのが見えた。

 マイクの前に立っていた副会長が、場所を譲る。

 そして……、


「コホン。生徒たちの思いを踏みにじるわけにもいかないですし、取り壊しは中止でよいでしょう」


 学園長からの鶴のひと声で、旧体育倉庫の取り壊しは、中止という結論を得ることができたのだった。



 ☆☆☆☆☆



 歓喜に沸く僕たち。

 その耳に、小さな声が聞こえてきた。


「業者のほうには、私から中止の連絡を入れておきますね」

「そうですか。それでは、お願いします、水崎先生」


 スタンドマイクが拾った、学園長とアンナ先生の会話だった。


 でも、考えてみたら、おかしかったのだ。

 どうしてアンナ先生が業者に連絡するのか……。


 普通に考えたら、それまで業者に連絡していた先生――おそらくは、教頭先生とか学年主任の先生とか、ある程度上の立場と考えられる先生――が中止の連絡もするべきだろう。

 それなのに、なぜ……。


 喜びに包まれてはしゃいでいた僕たちには、この少々不自然なやり取りを不審に思うような余裕なんて、あるはずもなかった。


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