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レイコン  作者: 沙φ亜竜
第七章 あれれ? もしかして強制執行?
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-2-

 トラックは、明らかにこの旧体育倉庫を目指してきている。

 中止になったはずなのに、解体業者の人たちが来てしまった。そういうことなのだろう。


 ショベルカーを乗せたトラックの後ろには、サイドに会社名の入ったワンボックスカーも続いている。

 中には作業着を着た男性が数人乗っているようだ。

 僕たちは旧体育倉庫――僕たちの部室の前から鋭い視線を向け、彼らを待ち構える。


 やがて、ある程度距離を置いて、トラックやワンボックスカーは止まった。

 車から数名の男性が降りてくる。

 その人たちに向かって、僕たちは駆け出した。


「ん? なんだね、キミたちは?」

「あの……あなた方は、旧体育倉庫を取り壊しに来たんですよね?」

「ああ、そうだが?」


 僕の質問に、業者の人、おそらくは監督の立場にあると思われる人が答えてくれる。


「昨日、緊急集会で取り壊しの中止が決まったはずなんですけど」

「そんな話、聞いてないぞ」

「でも、学園のほうから中止の連絡が行ってるはずですよ?」

「いや、知らないな。悪いが、仕事の邪魔をしないでくれ」


 僕が状況を説明するも、まったく取り合ってもらえない。


「だいたい、解体する場合には電気配線の撤去なども必要なんじゃないのか?」

「電気はすでに止めてある。だから問題ない。ほら、危ないから早くどきなさい」


 友雪も加勢してくれたものの、軽くあしらわれてしまう。

 監督さんの背後では、すでにトラックから降ろされたショベルカーが、旧体育倉庫のほうへと向けて移動を開始していた。


 僕たちは「どきません!」と抵抗を試みる。

 だけど、それすらもお構いなしといった様子。

 ショベルカーはすぐに、旧体育倉庫のそばまで接近してしまった。


「やめろ! 生徒たちがケガをするだろ!?」


 るなちゃんが倉庫のドアから顔をのぞかせて講義の声を上げる。

 それを言うなら、るなちゃん本人のほうが、よっぽど危ないわけだけど。


「知ったことか!」


 それを見ても、ショベルカーを操作している人は、作業を止める気配がない。

 るなちゃんだけじゃない。華子さんも優美さんも、旧体育倉庫のドアから恨みがましい視線を向け、業者の人たちを睨みつけている。

 彼女たち幽霊ズは、旧体育倉庫から出られないのだ。逃げようがない。


 0コンを使えば、ひとりずつ外に移動させることはできるだろうけど……。

 ショベルカーはすでに倉庫の目前にまで迫り、今にもアームを振り下ろそうとしている状態だ。そんな時間があるはずもない。


「やめろ!」


 友雪がショベルカーを止めようと駆け寄っていく。

 でも、途中に透明な壁かなにかでもあるのか、あっさりと弾き返されてしまった。


「うあっ!?」

「なんだ……?」

「……霊気の障壁のようなものだと思いますの」


 僕の疑問に、桜さんが答える。


「霊気?」

「はい。どうやらあの方、霊に取り憑かれているみたいですの!」



 ☆☆☆☆☆



 霊に取り憑かれ、人(実際には幽霊だけど)が建物の中に居るのがわかっていても解体作業を続行しようとする業者の人たち。

 そんな様子を目の前にして、僕たちは必死の抵抗を試みる。


「監督さん、作業を中止してください!」

「ダメです! あの方も、霊に取り憑かれていますの!」

「そんな……! それじゃあ、どうすれば……」

「……0コン、使えないかな?」


 不意にそうつぶやいたのは、ずっと状況を見守っていた――というよりは、どうすればいいかわからず呆然としていたのだろうけど、ともかく僕のすぐそばに立つ尽くしていた響姫だった。

 幽霊を操ることのできる0コン。

 今、業者の人たちに取り憑いている霊というのが、桜さんや華子さんたちと同じ類の幽霊なのかはわからない。

 ともあれ、試してみるだけの価値はあるだろう。


「やってみる!」


 僕は素早くポケットから0コンを取り出し、ストラップを腕にしっかり固定して、0コンの先端をショベルカーの運転席へと向ける。


「む? なんだこれは……!?」


 すぐに手応えがあった。

 ショベルカーの動きが完全に止まる。運転している業者の人を操ることに成功したようだ。


「だけど、ショベルカーの操縦なんて、どうすれば……。下手したら、間違えてそのまま部室を壊してしまうかもしれないし……」

「なんとなくイメージしてみれば、どうにかなると思いますの。たぶん……」


 僕の困惑に、桜さんがなんとも頼りない意見を返してくる。

 う~ん、どうしたものやら……。


「なにやってんのよ!? こんなの、めちゃくちゃに動かしちゃえばいいのよ!」


 躊躇する僕に痺れを切らしたのか、響姫がいきなりしがみついてきたかと思うと、僕の腕ごと0コンをブンブンと振り回し始めた。


「ちょ……ちょっと、響姫……!」

「なによ!? ここはやるしかない場面でしょ!?」

「いや、そうじゃなくて……」


 響姫は僕の左側に立っていた。そして僕は右手に0コンを持っている。

 立ち位置は変えず、両腕だけを伸ばし、僕の右腕ごと0コンを振り回している響姫。

 そんな彼女の顔は今、目と鼻の先にあって、声を発するたびに息が僕の顔にかかる。


 しかも、思いっきりしがみつかれているから、響姫のふくよかな胸が押しつけられた僕の左腕には、しっかりとその弾力のある柔らかさと温かさが感じられて……。

 幼稚園からの知り合いで、あまり女性として気にしていないというか、ぶっちゃけ男友達と変わらない感じにしか思っていない響姫が相手でも、さすがにちょっと、これは……。


「あ……」


 僕が赤くなっているのに気づいたのか、響姫も一瞬で顔を真っ赤に染める。

 いきなり振り回されていた手が止まり、熱くなって汗で手が湿っていたこともあって、僕の手のひらから0コンがすっぽ抜けてしまった。

 ストラップで固定していたから地面に落下することはなかったけど、腕を中心にくるりと一回転する0コン。


「ぎゃっ!」


 回転した勢いで、0コンは見事に響姫の側頭部を直撃。

 響姫は頭を押さえ、その場にうずくまってしまった。

 偶然だったとはいえ、それが功を奏したようだ。


「ぐえっ!?」


 妙なうめき声は、ショベルカーの操縦席から聞こえた。

 視線を向けてみると、苦しそうにうめく業者の人の口から、なにか白くてモヤモヤしたものが飛び出していくのが見える。


「霊を吐き出したみたいですの!」


 桜さんが叫ぶ。


「それなら、今と同じことをすれば、他の人たちにも霊を吐き出させることができるかもしれないね」

「よし、わかった。響姫は俺が押さえておく。玲、お前は0コンで思いっきり響姫の頭を殴れ!」


 僕の言葉を受け、友雪がそんなことを言い出す。


「や……やめて、お願い……」


 普段どおりだったら、「ふざけんな!」とでも叫びながら、友雪を殴り倒すか蹴り倒すか張り倒す場面だけど。

 今の響姫にはそんな余裕もないらしく、素直に懇願してきた。

 まだ頭を押さえてうずくまっているし、相当痛かったのだろう。


 僕としても、たとえ相手は頑丈そうな響姫だとはいっても、一応仮にも女の子である彼女を殴るつもりなんて毛頭ない。

 そもそも、霊を吐き出させることに成功したのは、響姫を殴ったのが原因ってわけではないだろうし。


 さっきは、手からすっぽ抜けた0コンが、くるりと一回転した。

 遠心力の影響もあっただろうけど、それに負けないくらい素早く振り回せば、きっと同じような効果が得られるはずだ。


 そう考えた僕は、0コンをしっかりと握り直し、次々と業者の人たちのほうに向けると、肩を中心にして腕ごと思いっきり振り回す、という動作を繰り返した。

 そのたびに、0コンを向けていた人の口からは白いモヤモヤが飛び出していき、ものの数十秒で、業者の人たちは全員、我に返っていた。


「俺たちは、いったいなにをしてたんだ……?」


 どうやら全員、今までのことはまったく覚えていないらしい。

 僕は監督と思しき人に話しかけ、今日の解体作業について、中止になっていないか、会社のほうに電話で確認してもらった。

 ただ、返ってきたのは、やはり中止の連絡は受けていないという答えだった。


 それならばと、学園のほうに電話してもらい、確認する作戦に変更する。

 直接校舎へ向かうよりも、電話のほうが早いだろうという判断だ。


 電話に出たのは、教頭先生だった。

 もともとこの業者と連絡を取っていたのは教頭先生だったようなのだけど、その教頭先生には、中止の連絡はアンナ先生がするから大丈夫と伝えられていたらしい。

 とすると、アンナ先生が、中止の連絡を入れ忘れたということだろうか?


 教頭先生に代わって電話に出た学園長に事情を説明し、学園側としては中止という話になったとの確認が取れ、業者の人たちにはそのまま帰ってもらう手はずとなった。

 手違いによる連絡ミス。

 とはいえ、実際にショベルカーなども運んで学園まで来てもらったからには、取り壊しは中止で結局なにもしなかったとしても、違約金だとか、学園側になんらかの損害は発生することになりそうだけど……。


 それにしても……業者の人たちに取り憑いていた霊……。

 あれは、いったいなんだったのだろう?

 疑問が残る中、僕たちは業者のトラックや車が去っていくのを黙って見送った。


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