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サッカーなどをして遊んでいる生徒の姿もある校庭の端っこを回り、校舎へと入った僕たち。そのまま廊下を抜けて、一路、特別教室棟の一階にある保健室へと向かう。
いまだに引っかき傷のせいで目が開けられない友雪は、響姫に手を引かれて歩いている。
さらに僕のすぐそばには、肩に手を乗せながら桜さんが寄り添い歩く。
僕に触れていれば歩けるのは桜さんだけ。0コンで操れば華子さんも連れてくることができたのだけど、桜さんを操る必要が生じた場合に困ってしまう。
というわけで、華子さんにはお留守番として旧体育倉庫に残ってもらった。
コンコン。
「失礼しま~す」
ノックをして小さめに声をかけ、僕たちは保健室へと足を踏み入れる。
中は静まり返っていた。養護教諭の里中先生はいないようだ。
今は昼休みだし、昼食にでも出ているのだろう。
「あら? これじゃあ、手当てはしてもらえないわね。でも、いないなら好都合だわ」
平然と言ってのける響姫に、
「だったら俺、なんのためにこんなケガしたんだよ……」
と、友雪はぶつくさ不平不満を漏らす。
その気持ちは、よくわかるけど。
「うるさいわね。そんな傷、舐めときゃ治るわよ」
「顔面をどうやって舐めろと……。響姫が舐めてくれるのか?」
「いっぺん死ね!」
ドガッ!
一蹴。
どうやら友雪のケガは、またひとつ増えてしまったようだ。
☆☆☆☆☆
ピコン!
不意に桜さんのツヤツヤの黒髪のてっぺんから、ひと房の髪の毛が垂直に伸び立つ。
「霊気を感じますの!」
……幽霊アンテナ?
といったツッコミを入れたい思いは、とりあえず置いておくとして。
桜さんは、僕のそばに寄り添ったまま、きょろきょろと保健室の中を見回し始めた。
保健室にはベッドが三つ設置されていて、それぞれがカーテンで仕切られる構造になっている。
そのうちのふたつはカーテンも開け放たれ、ベッドの上には枕と畳まれた状態の薄手のかけ布団が整然と置かれているのが見て取れた。
そして残るひとつのベッドは、カーテンが閉じられている。
カーテンは床に届くほどの長さがあるため、身を屈めてのぞき込んだとしても、ベッドの下の状況すら確認することができない。
目の高さを完全に床と同じくらいにまで下げられれば、少しくらいなら見えなくもないかもしれないけど、そこまでするには、自分の身が床のホコリなどで汚れる覚悟が必要だった。
そこまでする必要なんて全然ないし、そもそもベッドの下を見ても意味がない。
様子を知りたければ、カーテンを開ければいいだけだ。
でも……。
桜さんの髪の毛は、まだピンと立ったままだ。近くに幽霊がいるのは確かなのだろう。
危険があるかもしれない現状では、慎重にならざるを得ない。
「ここは慎重に行くべきよね……」
響姫ですら、冷や汗を垂らしながら、震える声をこぼしていた。
「そうだね……」
僕も頷く。
「慎重に……友雪を突っ込ませましょう」
「なぜじゃっ!?」
続けて提示された響姫の作戦に、友雪がどういうわけだか反論を返してくる。
「なぜって、友雪なら危険にさらされたって、なにも問題ないじゃん?」
「そうそう」
「なるほど、そういうものですのね」
僕がきっぱり言い放つと、響姫と桜さんも同意してくれた。
「お……お前ら……!」
ようやく目を開けられるようになったらしい友雪が、かなり歪んだ表情で睨みつけてくる。
「もちろん、冗談だよ?」
そろそろからかうのにも飽きてきた僕は、そう言って友雪を解放してあげることにしたのだけど。
「え? そうだったの?」
「あら? そうでしたの?」
響姫と桜さんのふたりは、思いっきり本気だったようだ。
さすがは、友雪。扱いが最悪だった。
この状況で友雪に任せるのはかわいそうなので、僕は自ら、閉め切られたカーテンへと歩み寄った。
僕に寄り添っている状態の桜さんも一緒にカーテンへと近づき、そんな僕たちの様子を見て、響姫も仕方ないといった顔で近づいてくる。
ひとりで取り残されるわけにはいかない、とでも考えたのか、友雪もカーテンのそばまで足を進めた。
ベッドのある空間を遮っている薄いカーテンの前に、四人で並ぶ。
危険があるかもしれない。もしそうならば、一蓮托生。なにがあっても、僕たちは一緒だ。
もっとも、本当に危険ななにかを確認したら、無言のまま友雪をオトリにして、僕たち三人は逃げるだろうけど。
そっと、カーテンの端に手をかける。
こくり。
黙って見つめる響姫たちと頷き合い、僕は覚悟を決めて、カーテンを思いっきり横に引き開けた。
シャーーーーーーーッ!
小気味のよいスライド音が響く。
ベッドの上には、小学校低学年くらいだろうか? 飾り気のないショートカットの女の子が、すーすーと規則正しい寝息を立てて眠っていた。
「……なんでこんな小さな子が、ここで寝てるのかな……?」
僕の問いに、答えられる人はいなかった。
その声で目を覚ましてしまったのか、女の子は「ん……」と小さな吐息を漏らし、ふぁさりと布団を持ち上げて上半身を起こす。
まだ寝ぼけたままなのだろう、こしこしと両手の甲で目をこする仕草が、とても可愛らしい。
「お嬢ちゃん、どうしたのかな~?」
ニコッと笑みを浮かべながら、やたらと楽しそうな口調で友雪が話しかける。
どうやら僕の親友は、こんなに小さくても、女の子なら全然お構いなしでオッケーらしい。
やっぱり危ないヤツなのかも……。
寝ぼけているからか、それとも本能的に危機を察知したのか、女の子は右手のこぶしを鋭く繰り出し、
「お嬢ちゃんじゃな~い!」
という言葉とともに、友雪のみぞおちの辺りに見事なストレートを炸裂させていた。
「うぐぉぉぉ……!」
おなかを押さえてうずくまる友雪。
「だが、これはこれで、なかなか快感かもしれん……」
なんというか、さらに変な方向にも目覚めてしまったようだけど……。
ま、友雪はこの際、放置で。
「はいはい、まだ寝ぼけてるんだね? でも、このお兄ちゃんならいいけど、他の人を殴ったりしたらダメなんだよ? わかったかな? お嬢ちゃん」
僕は笑顔で女の子を諭す。
だけど、なかなかに頑固なようで、
「うう~、お嬢ちゃんじゃないもん! るなは大人なのだ~!」
と大声で叫ぶ。
なんというか、駄々っ子のようで、見ていて微笑ましい。
「はいはい、早く大きくなれるといいでちゅね~」
響姫までもが、緩みきった笑顔を見せながら、まるで赤ちゃんをあやすように接する。
「ねぇ、お嬢ちゃん。保健の先生、どこに行ったか、知らない?」
微笑ましく眺めながらも、どうにか当初の目的を思い出した僕は、女の子に尋ねてみた。
すると……。
「ここにいるぞ! るなが、ほけんのセンセーなのだ!」
えっへん、と、まだ発育し始めてもいなさそうな胸を張って、そうのたまう。
「あはは、先生ごっこにつき合ってる暇はないんだよね。ごめんね、今度遊んであげるから」
「うう~、ごっこじゃないのに~……」
ぐすん。
涙を目にいっぱい溜めながら、女の子はぷく~っとほっぺたを膨らましていた。




