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【25万PV感謝!】最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第四章 練馬区の先輩達

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第59話 ボス戦:練高3年生 vs. 蝗竜アポリオン①

「皆さん! 落ち着いてください!」



江戸川朱里の声が、地下四十階層のボスフロアに響き渡った。



「あの変異種ボスの相手は、私たちが引き受けます! 皆さんはなるべく後方へ下がって、安全な場所に避難してください!」



恐怖に呑まれかけていた探索者たちが、次々と朱里へ視線を向ける。



「えっ……あれって……」


「高校生探索者の江戸川朱里じゃないか?」


「パーティメンバーの三人もいるぞ!」


「じゃあ、あっちは……」


「“練城高校の暴れ牛”、牧島丑雄!?」


「誰が暴れ牛だコラァ!!」



牧島が即座に怒鳴った。

そして何を思ったのか、両手の人差し指を自分の頭へ立てる。

さらに右足で地面をカッ、カッと蹴りながら前傾姿勢になった。



「突き殺すぞテメェらァ!!」


「…………」



探索者たちの間に、ほんの一瞬だけ沈黙が落ちる。

やがて──



「……ふっ」


「いや、自分から牛やってんじゃん……」



張り詰めていた空気の中から、小さな笑い声が漏れた。



「こういうお茶目なとこあるから、マッキーの配信けっこー人気なんだよねー」



トリッシュが苦笑する。



「これを天然でやってるからズルいんですよ、この人」



藤宮は心底嫌そうな顔をしていた。



「実際はただのアホなのに」


「んだとネクラ野郎!?」


「おふざけはそこまでにしておけ!」



神が銀白色の杖を構えた。



「来るぞ!」


「…………!」



五人が一斉に表情を引き締める。


前方では、蝗と竜を掛け合わせたような巨体が、こちらへ向かってゆっくり歩き始めていた。


そのさらに後方。

二メートルほどの蚊竜は、相変わらず腕を組んだまま動こうともしない。



「頑張って! 江戸川さん!」


「牧島、頼んだぞー!」


「絶対死ぬなよ!」



朱里の指示を受けた探索者たちが、声援を送りながらフロア後方へ下がっていく。

それを確認した朱里は長剣を構えた。



「フォーメーション!」



凛とした声が飛ぶ。



「タンク、藤宮! メレー、江戸川、牧島! レンジ、トリッシュ! サポート、神!」


「了解です」



藤宮が携帯ゲーム機を両手で構え、最前列へ立つ。


その斜め後方左右に朱里と牧島。


さらに後ろでは、トリッシュが派手に装飾された魔導杖を胸元へ引き寄せていた。



「じゃ、ウチも本気モードでいくよー」



トリッシュの笑みが消える。



「【蒼炎魔女(ブレア・ウィッチ)】!」



スキルを発動すると、杖の先から蒼い炎が灯った。

小さな火種だった炎が、周囲の魔力を取り込みながら徐々に膨らんでいく。



「チャージ開始! 時間稼ぎよろしく!」


「任せて!」



朱里が答える。



「藤宮! バフは!?」



神が短く問う。



「INTでお願いします」


「了解した!」



神が杖を掲げた。



「【神聖十字架(クリス・クロス)】!」



神がスキルが発動すると、銀白色の光が十字を描き、そのまま藤宮の身体へ吸い込まれる。


視界が澄んでいく。

思考速度が一段階跳ね上がり、目の前の情報が細かく認識できるようになる。



「……相変わらずエナドリより効きますね」


「比較対象がおかしい!」



神のツッコミを聞き流しながら、藤宮はゲーム画面へ視線を落とした。



「【操身遊戯(プレイヤー・ワン)】……レディ」



蝗竜が踏み込む。

五メートル級の巨体が一瞬で距離を詰めた。



「来ます!」



右拳、左拳、そして右腕を大きく振りかぶった三撃目。


藤宮の指が高速でボタンを叩く。



「ここ……!」



ドガァンッ!!


最初の拳を、藤宮の右脚が横から蹴り払った。

続く左拳へ身体を滑り込ませ、今度は足裏を合わせる。


ドンッ!!


二撃目。さらに──



「っ……!」



最後の一撃。

振り下ろされる拳に対し、藤宮は寸分違わぬタイミングで回し蹴りを合わせた。


ガァァンッ!!


凄まじい衝撃がボスフロアに響く。

だが──藤宮は立っていた。



「『ジャストガード』……成功」



額から汗が流れ落ちる。



「さすがに、タイミングかなりシビアですね……これ」


「やるじゃねェか、ネクラ野郎!!」


「ナイスよ、藤宮君!」



藤宮が蝗竜の攻撃を引き受けた、その一瞬。

朱里と牧島が左右から飛び出した。



「【紅蓮加速(クリムゾン・アクセル)】!」



紅い魔力が朱里の全身を包む。



「【赤腕百面相《ハンドレッド・レッドハンド》】!!」



牧島の右腕が巨大な杭打機へ変形した。

二人が蝗竜の左右を交差するように駆け抜ける。



「はぁぁぁッ!!」


「ブチ抜けやァァァ!!」



朱里の長剣が胴を斬り裂き、ほぼ同時に反対側から牧島のパイルバンカーが脇腹へ叩き込まれる。


ガギィィンッ!!


硬質な音が響いた。



「っ……!」


「クッソ……!」



二人が距離を取る。


蝗竜の外骨格には僅かな傷こそ入っていたものの、致命傷どころか深手にすら届いていない。



「かってェな、オイ!!」



牧島が牙を剥く。

朱里も息を整えながら蝗竜を睨んだ。



「焦らないで! このパーティの最大火力は、最大までチャージしたトリッシュの一撃よ!」



後方を見ると、トリッシュの周囲では蒼い炎が少しずつ勢いを増している。



「チャージが終わるまで、私たちで時間を稼ぐ!」


「上等だァ!!」



朱里は視線だけをさらに奥へ向けた。


蚊竜はまだ動いていなかった。

腕を組んだまま、まるで自分たちの戦いなど見る価値もないと言わんばかりに、無感情な目で朱里たちを眺めている。



(……今なら)



朱里は目を細めた。



(あいつが私たちを侮っている今のうちに、大きい方だけでも倒す!)



長剣へ紅い魔力を集中させると、【紅蓮加速(クリムゾン・アクセル)】の出力をさらに引き上げる。


次の瞬間、朱里の姿が残像を引いた。



「はぁぁぁぁッ!!」



高速の斬撃が一閃、二閃、三閃と続けざまに蝗竜の外骨格へ叩き込まれる。


ギギィンッ!ガギィッ!!ザシュッ!!



「ギギャァァァッ!!」



初めて蝗竜が苦痛を訴えるような声を上げた。


肩口の外骨格に亀裂が走り、そこから粘つく緑色の体液が飛び散る。



「入った!」



朱里が叫ぶと、その姿を見ていた牧島がニィッと歯を剥いた。



(江戸川朱里……やっぱ強ェじゃねェか!!)



自分より五つ高いレベル。

数日前までは一つしか違わなかったはずなのに、今は見ただけでも分かるほど強くなっている。


悔しさがないと言えば嘘になる。

だが、それ以上に血が滾った。



「ギィィィィァァァッ!!」



蝗竜が怒りに満ちた咆哮を上げると、背中を覆っていた外骨格が左右へ大きく開いた。


その内側から現れたのは、巨大な半透明の翅だった。



「なっ……!」



神が目を見開く。



「あの体格で、空中戦までこなすというのか!?」


「来るわ!」



朱里が叫んだ直後、翅が激しく震えた。


ブゥゥゥンッ!!


耳をつんざく羽音とともに、五メートルもの巨体がふわりと宙へ浮かぶ。


そして次の瞬間──


ドンッ!!


蝗竜の姿が弾けるように消えた。


空中を弾丸のような速度で駆け抜け、一直線に朱里へ迫る。



「速いっ……!」



朱里も【紅蓮加速(クリムゾン・アクセル)】を使って後方へ飛んだ。


それでも蝗竜の方が速い。

みるみる距離を詰められ、巨大な右手が朱里の身体を掴もうと伸びてくる。



「くっ……!」



あと少しで届く──

そう思われた瞬間。


ガクンッ!!


蝗竜の巨体が不自然に空中で止まった。



「ギ……!?」



怪物が足元を見る。

左脚には金属製のワイヤーが何重にも巻きついていた。



「ブンブンブンブンって小蠅みてェによォ……」



地上では、牧島の右腕が三本爪のワイヤーアンカーへ変形している。



「飛び回ってんじゃねェよ──」



さらに左腕が展開し、無数の銃身が回転を始めた。



「カトンボがァァァァッ!!」



ドドドドドドドドッ!!


ガトリングガンから放たれた魔力弾が、一斉に蝗竜へ殺到した。


蝗竜は鬱陶しそうに左腕で顔を庇いながら弾丸を受け止める。



「へっ! どうしたァ!? 降りてこいやァ!!」



牧島がさらにワイヤーを引いた。


だが蝗竜は、自分の脚へ巻きついた金属線へ視線を落とすと、太い右手でそれを掴んだ。



「……あ?」



グンッ!!



「うおおぉッ!?」



逆だった。

蝗竜を地上へ引きずり下ろすはずだった牧島の身体が、いとも簡単に宙へ持ち上げられる。



「おいおいおいおい!!」



ワイヤーに引かれた牧島は、凄まじい勢いで蝗竜へ近づいていく。


その先では、蝗竜がすでに右拳を引いていた。



「……やべェな、こりゃ」



言葉とは裏腹に牧島は笑っていたが、その額には大粒の汗が浮かんでいる。



「牧島ッ!!」



神が叫びながら杖を振り上げた。



「【神聖十字架(クリス・クロス)】──AGI強化!!」



銀白色の光が藤宮の身体へ吸い込まれる。



「……っ!」



藤宮の視線が跳ね上がり、ゲーム機を操作しながら地面を蹴った。



「だからアンタは……!」



一度壁へ飛び移ると、そのまま斜め上へ跳躍。

さらに反対側の壁を蹴り、三角跳びで一気に高度を稼ぐ。



「バカだって言うんですよ!!」



牧島と蝗竜の間へ飛び込んだ藤宮に向かい、怪物の拳が振り抜かれた。



「藤宮ァ!?」



ゲーム機を握る藤宮の指が動く。



(今!!)



空中で身体を捻り、回転の勢いを乗せた右脚を蝗竜の拳へ正確に重ねた。


ガァァァァンッ!!



「『ジャストガード』!!」



攻撃そのもののダメージは完全に無効化される。

だが、拳に込められた凄まじい運動エネルギーまでは消せない。



「ぐっ……!」


「うおおおおッ!?」



藤宮と牧島の身体がまとめて吹き飛ばされ、そのまま壁へ叩きつけられた。


ズガァァンッ!!


咄嗟に身体を入れ替えた牧島の背中が先に石壁へ激突する。



「ぐふっ……!」



口元から血が零れた。

藤宮は牧島をクッションにする形で地面へ落ちる。



「牧島さん、アンタ……」



顔をしかめる藤宮に対し、牧島は壁に背を預けたまま無理やり笑った。



「こ……これで貸し借り無しだ、ネクラ野郎……」


「そもそもアンタがヘマしなきゃ、こうなってないんですけど」



藤宮も脇腹を押さえる。

着地の衝撃で痛めたのか、呼吸するたびに肋骨の辺りがズキズキと痛んだ。



「……でもまあ、いいですよ。チャラで」



携帯ゲーム機を握り直す。



「へっ……!」



二人が再び立ち上がるのを確認し、朱里は蝗竜へ長剣を向け直した。



(やっぱり……次元が違う)



藤宮が完璧に防ぎ、牧島が拘束し、自分が全力で斬ってもまだ倒し切れない。


荒くなった呼吸を整えながら、朱里は後方へ視線を向けた。



(まだなの、トリッシュ……!?)



そして、その姿を見て目を見開く。


トリッシュを中心に、凄まじい蒼炎が渦巻いていた。

最初は杖の先へ小さく灯っていただけの炎が、今や人の背丈を優に超え、ボスフロアの天井近くまで舞い上がっている。

その熱量で周囲の空気すら歪んでいた。


トリッシュは両手で杖を握り、目を閉じたまま魔力を一点へ集中させている。


やがて──



「──よしっ!」



カッと目を開いた。



「オッケー! ウチの最大火力──チャージ完了だよー!!」


「間に合った!」



朱里の表情が明るくなる。


蝗竜の爪を長剣で逸らしながら、仲間たちへ叫んだ。



「皆! 敵の周囲から離脱して!! 距離を取って!!」


「了解!」


「やっとかァ!!」


「巻き込まれたら洒落になりませんね」



藤宮と牧島も一気に後退する。



「トリッシュ! 撃って!!」


「まかせて!」



トリッシュが杖を構えると、その先端へ凄まじい密度の蒼炎が集まっていった。



「これなら……!」



神も思わず声を上げる。

最大までチャージされた【蒼炎魔女(ブレア・ウィッチ)】。


まともに命中すれば、あの異常に硬い外骨格すら焼き切れるかもしれない。



「ギィ……?」



ここへ来て、蝗竜もようやくトリッシュの存在に気づいた。


膨れ上がった蒼炎へ視線を向け、ほんの一瞬だけ動きを止める。


そして──



「ギ……ギギ……」



ガパァッ、と大きく口を開いた。



「…………え?」



朱里の動きが止まる。


笑っている。

あの怪物が、また人間を嘲笑うような仕草を見せた。


その直後──


ボコッ、と蝗竜の腹部が不自然に膨らんだ。



「……何?」



トリッシュが眉を寄せる。


さらに一度、二度と腹部の外骨格が内側から脈打ち、腰の後ろから節くれ立った細長い管状の器官が伸びてきた。



「……まさか」



朱里の顔が引き攣る。

それが何なのか理解した時には、もう遅かった。


ポンッ!!


ポポポポポンッ!!


ボウリング球ほどの大きさをした白濁色の物体が、次々とフロアへ放り出される。



「た……卵!?」



神が叫んだ。

蝗竜が身体を振るたびに、一つ、二つと数を増やしながら大量の卵が床へばら撒かれていく。



「ちょ、ちょっと待ってよ……!」



トリッシュの声が震えた。


ミシッ。


最初に落ちた卵へ亀裂が走る。

続けて白い殻が内側から押し広げられ、やがてバキッと音を立てて割れた。



「ギィィィ……!」



中から這い出してきたのは、小型の蝗竜だった。


親とは比べ物にならないほど小さいとはいえ、それでも全長は一メートル近くあり、鋭い爪と牙を備えている。


さらに一匹。また一匹。

次々と卵が割れ、十を超える幼生がボスフロアへ姿を現した。



「ギィ!」


「ギギィィ!」


「ギャァァ!」



そして幼生たちは、まるで示し合わせたかのように一斉に同じ方向へ顔を向ける。



「……っ!」



朱里が息を呑んだ。


幼生たちが見ているのは、自分たちではない。

その視線の先にいるのは、後方へ避難したE級からC級の探索者たちだった。



「ひっ……!」


「こ、こっち見てるぞ……」


「何だよアレ……」


「来る……!」



幼生たちがゆっくりと身体の向きを変え、低ランク探索者たちへ狙いを定める。


朱里たち五人は、その光景を前に言葉を失った。


ようやく見え始めた勝ち筋。


トリッシュの最大火力を本体へ叩き込むために、全員が身体を張って稼いだ時間。


だが蝗竜は、その勝ち筋そのものを嘲笑うかのように、新たな絶望を大量にこのボスフロアへ産み落としていた。

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