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【25万PV感謝!】最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第四章 練馬区の先輩達

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55/65

第55話 予定変更

間違いない。


練馬区第一ダンジョンで配信していた探索者たちが、軒並み姿を消している。


ほんの少し前まで地下二十三階でグランドタートルを解体しながら配信していた牧島先輩も、今では撮影用ドローンだけを残して消えてしまった。


配信をしていなかった江戸川会長たちの安否は確認できない。


だが──


同じダンジョンの中にいた以上、無事だと楽観視する理由もなかった。



《これヤバくない?》


《マジでみんな消えてる》


《まさかダンジョン災害?》


《那覇の時と同じじゃね?》


《洒落にならなくて草》


《いや草じゃねえよ》


《牧島どこ行ったんだ》


《俺のジュリたんが……》


《管理局にはもう通報入ってるらしい》


《ダイナマイト練馬は無事なのか?》



配信画面を埋め尽くす文字を眺めながら、俺はスマートフォンを握る手に力を込めた。

背中を冷たい汗が伝っていく。


そんなコメントの中、一つの短い文章が、目に留まった。



《どうすんの? ダイナマイト練馬》


「…………」



肩がびくりと震えた。



(どうするって……)



そんなことを俺に聞かれても困る。


俺は探索者になりたくてここにいるわけじゃない。

人助けを生業にしているわけでもない。

ただ今日中に【一撃必死(マストダイ)】を五発使い切らないと自分が爆発するから、仕方なくダンジョンへ来ただけだ。


それなのに──



(──フラン)



念話で呼びかける。

俺の声が自分でも驚くほど低くなった。



(教えてほしい)


『……なんにゃ』


(先輩たちは……探索者の皆は、死んじゃったのか?)



フランはすぐには答えなかった。

少しだけ視線を伏せる。


やがて──



『……死んではいねぇはずにゃ』


(本当!?)


『少なくとも──まだ、にゃ』



最後の二文字が、胸へ重く落ちた。



(じゃあ、どこに……? 皆が飛ばされた先って、普通の転移魔法陣と同じで最深部のボスフロアなのか?)


『恐らくにゃ』



フランが地下深くへ続く通路を見る。



『にゃけど──そこで待ってんのは、いつものダンジョンボスじゃねぇにゃ』


(……え?)



フランの翠色の瞳が細くなる。



『おみゃーら人間が“変異種”って呼んでるヤツがいるはずにゃ』


「…………」



思わず息を呑んだ。



(変異種……)



やっぱり。

フランは分かるのだ。

変異種がダンジョンにいるのかどうか。


十三階で俺が聞いた時、フランは確かに言った。

このダンジョンには、変異種は"来ていない"と。


つまり──


俺たちが練馬区第一ダンジョンへ入った時にはいなかった。

だが、さっきの異変と同時に、何かが起きた。



(……来たんだ)



変異種が。

このダンジョンへ。



(だったら!)



俺はフランへ顔を向けた。



(皆が最深部に飛ばされたっていうなら、今すぐ俺が向かえば間に合うかもしれないじゃん!)



残っている【一撃必死(マストダイ)】は一発。

相手がどれだけ強くても、攻撃さえ成立すれば倒せるはず。


今の俺はレベル五十六だ。

地下四十階まで十階層。

本気で走れば、それほど時間はかからないはずだ。


だが──



『ロミオ』



フランの声が、俺の思考を遮った。



『おみゃーが欲しいのは、地味で目立たねぇ生活にゃろ?』


(……え?)


『公務員になって、決まった時間に仕事終わらせて、帰ったらゲームして、休みの日はゴロゴロする。そういう人生が欲しいって、ずっと言ってたにゃ』


(それは……そうだけど)


『なら帰るにゃ』



いつになく真剣な声だった。



『余計なこと気にしてねーで、残り一発どっかの雑魚に使って地上へ戻るにゃ』



フランは少し間を置いた。



『“力があるヤツには責任が伴う”とか、どっかの映画で聞いた気もするけどにゃ。そんなもん知ったこっちゃねーにゃ』



尻尾がゆっくり揺れる。



『責任なんてもんは、力が強ぇから勝手に背負わされるもんじゃねぇにゃ。自分で選んだことに、自分で背負うもんにゃ』


「…………」


『アイツらは自分で探索者って道を選んだにゃ。危険だって分かった上でダンジョンに潜ってるにゃ。それで何かあったからって、おみゃーが全部背負う必要なんかねーにゃ』


(でも……)


『せっかく転移魔法陣を避けられたんにゃぞ』



フランは俺を真っ直ぐ見上げた。



『帰るにゃ、ロミオ。ネカフェ戻って、カレーでも食って、シャワー浴びて寝るにゃ。それでいいにゃ』


「…………」



……何でだよ。


さっきまでは、俺が嫌がっているのに無理やり配信を始めさせて、勝手に地下四十階まで攻略する予定を立てて、撮れ高がどうとか、技名叫べとか、あれだけ好き放題言っていたくせに。


何で──

今になって、こんなに帰れ帰れと言うんだ。



(…………)



いや。

本当は少しだけ分かっていた。



(……もしかして)



今回のこれは、恐らく……

本当に洒落にならないのだ。


レベル五十六になった俺でも、【一撃必死(マストダイ)】を一発残している俺でも、危険な目に遭うかもしれない。


だからフランは──俺を遠ざけようとしている。



(……優しいところあるじゃん)



短い付き合いだ。

まだ、こいつのことなんてほとんど知らない。


それでも──


そのくらいは何となく分かった。



(……ごめん、フラン)



俺はスマートフォンの画面へ視線を戻した。

コメントは今も流れ続けている。



《管理局まだ?》


《絶対行くなよ》


《那覇の件知らんのか》


《でも中にいる奴らどうすんだ》


《ダイナマイト練馬ならいけるんじゃ》


《無茶言うな》


《崩壊グラフィティ助けてくれ》


《ジュリたん……》


《頼むから誰か助けて》



俺は一度、大きく息を吸った。

それから、カメラへ向かって、ゆっくり口を開く。



「えー……どうやらですね」



自分でも分かる。

声が少し震えていた。



「この練馬区第一ダンジョンで、かなり大変なことが起きてしまっているみたいです」



コメントの流れが少しだけ変わる。



「正直、俺もまだ状況をちゃんと理解できてません。どうやら"ダンジョン災害"ってヤツみたいで……皆さんの方が詳しいかもしれないですけど」



一度言葉を止めた。

フランがこちらを見る。

俺は続けた。



「それでですね……」



喉が乾く。


怖い。

普通に怖い。


五年前の那覇第一ダンジョンでは、大勢の探索者が消えたまま帰ってこなかった。


それと同じようなことが今起きている。


それでも──



「まあ……不幸中の幸いと言いますか」



俺は自分自身を指差した。



「このダンジョンには、たまたま今、この私──ダイナマイト練馬が居合わせているわけです」


『……ロミオ?』



フランの念話が届く。

俺はカメラへ向かって、ぎこちなく笑った。



「ですので──」



少し考える。

どう言えばいいんだろう。



「えー……通常のダンジョン攻略配信から予定を変更しまして」



そして──



「『ダンジョン災害に巻き込まれた探索者を救ってみた』配信に切り替えていきたいと思うんですけど……どうでしょう、みなさん?」


『ちょっ──ロミオ!?』



フランが目を見開いた。



《うおおおおおおお!!》


《マジか!!》


《行くの!?》


《いや待て危険すぎる》


《管理局に任せろって!》


《那覇と同じなら洒落にならんぞ》


《行くなダイナマイト》


《でも今その場にいるのダイ練だけだぞ》


《崩壊グラフィティ頼む!!》


《牧島助けてやってくれ》


《ジュリたんを頼む!!》


《頼むダイナマイト練馬!!》


《これは熱い》


《絶対生きて帰れよ!!》



画面が一瞬で文字の洪水になった。

俺はそれを見ながら、念話で小さく謝る。



(ごめん、フラン)


『おみゃーなぁ……!』



フランが頭を抱えた。



『せっかくニャーが気ぃ遣ってやったのに、よくも全部台無しにしてくれたにゃ!』


(マジでごめん……でも)



別に俺の責任じゃない。

フランが言ったことは正しい。


崩壊グラフィティの人たちも、牧島先輩も、江戸川会長たちも……

皆、自分で探索者という道を選んだ人たちだ。


俺が助けなければならない義務なんてない。



(でも……)



もし今ここで帰ったとして。

明日、学校へ行って。

生徒会室の前を通って。

第二体育館の前を通って。

顔見知りになってしまったあの人たちが、もう二度と戻ってこないと知ったら──



(……たぶん、俺は後悔する)



それだけだった。


正義とか、責任とか、そんな立派な理由じゃない。


ただ──


目の前で助けられるかもしれない人を見捨てて、そのことを引きずらずに平然と生きていけるほど、俺は強い人間じゃないんだ。



『……ロミオ』



フランが、低い声で言う。



『おみゃーが──死ぬかもしれにゃーぞ』


(…………)



やっぱり。

そこまで危険なんだ。



(怖いなぁ……)



本当に……

何で俺がこんなことをしているんだろう。


それでも、だ。


俺はなるべく軽い調子を作って答えた。



(レベル八で変異種ミノタウロスと向かい合った男だよ、俺)


『…………』


(もう今さらじゃない?)



少しの沈黙。

やがて──



『はぁぁぁぁぁ……』



フランが、今日一番長いため息を吐いた。



『しょーがねぇにゃ』


(……え?)


『付き合ってやるにゃ』



フランは俺の足元へ歩いてくる。



『どうせおみゃー、ニャーがいなきゃ道にも迷うし、敵の場所も分かんねーし、配信すらまともにできねーにゃ』


(最後のは今いらなくない?)


『本当にロミオは、ニャーがいなきゃ何も出来ねぇんだからにゃー』



いつもの調子が、ほんの少しだけ戻った。

俺は小さく笑う。



(ありがとう、フラン)


『礼は生きて帰ってから言えにゃ』


「……うん」



俺はカメラへ向き直った。



「えー、それではですね」



肩を回し、首も左右へ倒す。

膝を軽く曲げて、アキレス腱を伸ばす。



「ちょっと急ぎ足で、最深部まで行ってみたいと思います」


《急ぎ足って》


《散歩みたいに言うな》


《頼んだぞ》


《絶対無茶すんな》


《頑張れダイナマイト練馬》


《救ってくれ》



俺は息を吸った。


地下四十階まで、残り十階。

ここから先は、隠れる必要もない。

誰かを避ける必要もない。


むしろ──


一秒でも早く行かなければならない。



(フラン)


『にゃ』


(最短ルートお願い)


『任せろにゃ』



フランが『探査』を広げる。



『三十メートル先を右。その後すぐ左にゃ。モンスターは全部無視して突っ切るにゃ』


(了解)



俺は腰を落とした。



「それじゃ──行きます」



地面を蹴る。


ドンッ!!


景色が弾けた。

今まで配信中に見せていた速度なんて、比べ物にならない。

洞窟の壁も、魔晶石も、一瞬で後方へ流れていく。



《!?》


《はっや》


《消えたw》


《カメラ追いついてない》


《待って今まで全然本気で走ってなかったの!?》


《速すぎて背景見えねえ》


《ダイナマイト練馬いけええええ!!》



コメントが猛烈な勢いで流れる。

だけど、もう見る余裕はなかった。



(待ってて、皆)



俺は、今日初めて、人から逃げるためではなく、誰かのところへ駆けつけるために──


本気でダンジョンを走った。

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