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【25万PV感謝!】最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第四章 練馬区の先輩達

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第49話 地下二十階層

練馬区第一ダンジョン、地下十三階層。


地下へ進むにつれて鍾乳洞の景色は少しずつ荒々しさを増し、壁から伸びる魔晶石も青や紫だけでなく、濁った赤や橙色のものが混じるようになっていた。


そんな薄暗い洞窟の一角で──


五メートル近い巨体を誇る一つ目の巨人──サイクロプスが、棍棒を振り上げながら俺へ突進してくる。



「グオオオオォォォッ!!」


「えー、それじゃあですね……次はアイツを倒していきたいと思います」



俺は地面を軽く蹴った。


一瞬でサイクロプスとの距離が縮まる。


巨人が俺の姿を見失ったように一つ目を大きく見開くより早く、ジャンプして身体を捻りながら右脚を突き出した。



「ダイナマイトキィーック!!」



ドゴォンッ!!


蹴り足が、サイクロプスの土手っ腹へめり込んだ。

いや、めり込んだ、では済まなかった。



「…………あ」



俺は、そのまま全身ごと巨人の腹部を貫通していた。


腹部に風穴の空いたサイクロプスの身体が大きく痙攣し、振り上げていた棍棒が手から落ちる。


次の瞬間には、五メートル近い巨体が地響きを立てて仰向けに倒れ込んだ。



「……まぁ、どのみち即死させなきゃだし、結果オーライ」



地面に着地した俺は、ゆっくり立ち上がる。


最近ようやく、レベル五十六になったこの身体の扱い方にも慣れてきた。


走る速度。跳躍の高さ。殴る時の力加減。


少なくとも、最初の頃みたいに何をするにも自分自身が驚くということは減ってきている。


その結果──



(五メートルの巨人を飛び蹴り一発で即死させるのに慣れてきた自分が、ちょっと怖いんだけど……)



人間というのは、どんな環境にも慣れる生き物らしい。

慣れなくていいことまで含めて。



『討伐対象の所有権を確認しました』


『アイテムチェストの自動解体機能を実行します』



頭の中に無機質な声が響く。


倒れたサイクロプスの身体が淡い光へ包まれ、そのまま消えていった。


代わりに肉や皮、角質化した爪などが解体され、【アイテムチェスト】の中へ収納される。


相変わらず便利な機能だ。


俺は近くでスマートフォンを構えているフランへ視線を向けた。


もちろんフラン自身は『透明化』をかけているので、配信画面には映っていない。


そのスマートフォンの画面では、物凄い勢いでコメントが流れていた。



《13Fのサイクロプス飛び蹴り一発!?》


《腹ぶち抜いてて草》


《ダイナマイトキック強すぎる》


《いや笑えねぇよ》


《人間の蹴りじゃない》


《化け物過ぎて草》


《これ流行るだろダイナマイトキック》


「…………」



俺は何かを諦めた顔で画面を眺めた。


もういい。好きにしてくれ。


配信を始めたばかりの頃なら、コメント一つ一つに一喜一憂……主に一憂、していた気がする。


今では流れていく文字列を見ても、精神が遠くへ逃げていくだけだった。


そんな中、いくつか同じようなコメントが目に入る。



《そういや爆発するやつ使わないの?》


《マストダイだっけ?あれ見たい》


《そろそろ爆発してくれ》


《爆発スキルまだ?》



どうやら視聴者は、ダイナマイト練馬によるモンスター爆殺シーンを所望しているらしい。

すると、念話でフランの声が聞こえてきた。



『確かに、そろそろ画的に爆発欲しいにゃ』


(お前まで言うの?)


『ずっと素手でモンスター引きちぎってるだけじゃ、画が地味になってくるにゃ。次に会ったヤツ、一丁爆殺しとくにゃ』


(いやいやいや)



俺は思わず眉を寄せた。



(五メートルの巨人の腹を飛び蹴りでぶち抜くのって、一般的に画が地味なの?)


『慣れって怖いにゃ』


(お前が言うなよ)



配信者側まで感覚がおかしくなってきている。

俺は小さくため息を吐いた。



(それに、【一撃必死(マストダイ)】はまだ使うつもりないよ、俺)


『なんでにゃ? さっきまでサッサとノルマ消化したがってたにゃろ』


(状況が変わったんだよ)



俺は周囲を見回す。

今のところ、フランの『探査』に他の探索者らしい反応はない。



(俺たちより先に進んだはずの生徒会の皆さんも、牧島先輩もまだ見かけてないだろ? ここまで追いつかないってことは、結構先まで進んでるのかもしれない)


『まあにゃ』


(だけど、もし一つ二つ下の階層にいたら、爆発音を聞いて戻ってくるかもしれないじゃん。わざわざ自分の居場所を知らせるようなことしたくないよ)



それに、もう一つ理由がある。



(この後、最下層まで行くんでしょ? だったら最低一発くらいはボス戦用に残しておきたい。ここで無駄撃ちするのは怖いよ)



そう言っている間にも、前方の通路から新しいサイクロプスが三体現れた。


俺を見つけるなり、一斉に棍棒を構えて突進してくる。



「グオオオオォォォッ!」


「あ、また来た」



俺は軽く地面を蹴った。

一体目の正面へ跳び上がり、顔面めがけて平手を振る。



「ダイナマイト……ええと……ビンタッ!!」



パァンッ!!

首から上が吹き飛んだ。



「…………」



自分でやっておいて何だが、ビンタの威力ではない。



《今ビンタで頭飛んだ?》


《ダイナマイトビンタwww》


《怖すぎ》


《サイクロプス逃げて》



逃げる間もなく、残った二体もこちらへ棍棒を振り下ろしてくる。


俺はその間へ滑り込み、そのまま身体を回転させた。



「ダイナマイトタイフーン!!」



両腕を伸ばし、高速回転。

手刀がサイクロプスたちの身体を次々と切り裂く。


ズバッ。ズババッ。


数秒もしないうちに、二体の巨体がバラバラと地面へ崩れ落ちた。



《もうこれこっちの方が怪物だろ》


《サイクロプスってこんな弱かったっけ?》


《13Fで素手で無双してて草》


《ダイナマイト練馬怖すぎる》


《モンスター側の配信だったら悲鳴上がってる》



俺は見なかったことにした。



『……おみゃーが苦戦する相手なんて、そうそういねぇと思うけどにゃ』



フランが呆れたように念話を飛ばしてくる。



(いやいや、そうとも限らないって!)


『なんでにゃ』


(また変異種のボスとか出たらどうするんだよ!)



俺は真剣だった。



(俺、今までダンジョン潜ったら三回中二回の割合で変異種ボスに遭遇してるんだからね!? 普通に考えておかしいでしょ!)


『それはまあ、運悪すぎにゃ』


(でしょ!? 今度も何か予想外に強いやつ出るかもしれないじゃん!)



だからこそ、【一撃必死(マストダイ)】は最低一発残しておきたい。


どれだけ身体能力が上がっても、絶対に相手を倒せる切り札が手元にある安心感は大きい。



『……まあ、そこまで心配なら安心するにゃ』



フランが少しだけ声の調子を変えた。



『このダンジョンには、尖兵……おみゃーの言う変異種ボスってヤツは来てねぇ(・・・・)にゃ』


(…………え?)



俺の足が止まった。



(今、なんて?)


『だから、変異種ボスはいねーにゃ』


(いや、そこじゃなくて)



引っかかったのは、別の部分だった。



(“来てない(・・・・)”って言ったよね?)



フランが黙る。



(それって……どういう意味?)



普通なら……変異種のボスがダンジョン内部で自然に発生するものなら、「いない」と言えば済む。


だがフランは「来ていない」と言った。


まるで──


あの異常なモンスターたちが、ダンジョンの外からどこかへ送り込まれているような言い方だ。



(フラン……変異種ボスが、このダンジョンにいるかどうか分かるの?)



しばらく返事がなかった。


やがて──いつもの軽口とは少し違う、静かな念話が届いた。



『──聞きたいかにゃ?』


(…………)



思わず言葉に詰まる。


知りたい。

と言えば、たぶんフランは話してくれる。


変異種。尖兵。幻界。


フランがどうしてあの地下深くにいたのか。


意識的に避け続けてきた、この世界の裏側に繋がる何か。


少しだけ考えて、俺は答えた。



(……いや。やっぱり聞かないでおく)


『……にゃ』



フランが小さく笑った。



『ロミオならそう言うと思ったにゃ。聞きたくねーなら無理には話さねーにゃ。ニャーは口の硬い猫にゃ』


(そうしてくれると助かる)



ただ、一つだけ分かった。


やはりと言うか、フランは変異種について明らかに俺の知らない何かを知っている。


たぶん、その話はこの世界そのものに関わっている。



(……まあ、だからといって今すぐ知りたいかって聞かれたら、断固ノーだけど)



知識には責任が伴う。


知ったせいで「お前も関係者だから」とか言われるのが一番困る。


知らなくて済むなら、今のところはそれでいいのだ。



 ◇◆◇



それから俺たちは、十四階、十五階と順調に下へ進んでいった。


途中で現れたモンスターは、ほとんど物理攻撃だけで仕留めた。


巨大なトカゲ。

鎧のような甲殻を持つ虫。

岩を投げつけてくるオーガ。


どれも今の俺にとっては大きな脅威にはならず、少しずつ力加減を試しながらそれぞれを一撃で即死させながら倒していく。


もちろん配信は続いていた。


俺がモンスターを殴るたびコメント欄が騒ぎ、蹴るたびに誰かが技名を勝手につけ、やがて俺も面倒になって適当な名前を叫ぶようになった。


人間、慣れとは恐ろしい。


そして──地下二十階層。



「……ん?」



階段を下りたところで、俺は足を止めた。


そこは今までの階層とは違い、巨大な円形の広場になっていた。


天井も高い。

壁一面に生えた魔晶石が、闘技場のような空間をぼんやり照らしている。


練馬区第一ダンジョンのちょうど中間地点。


この階層には、中ボスが出現する。


そしてダンジョンのボスや中ボスは、一度倒されても一定期間が経過すると再出現する。


特に中ボスは再出現までの間隔が短く、攻略途中の探索者が経験値や素材目的で狙うことも多いらしい。


その広場の中央にいたのは、普通のサイクロプスより二回りほど大きな、七メートル近い巨人。


練馬区第一ダンジョンの中ボス、メガサイクロプスだ。


そして──



「…………うわ」



その巨人と向き合っている四人組を見た瞬間、俺は即座に身を引いた。



(生徒会の皆さんじゃん!)



江戸川会長。

神先輩。

藤宮先輩。

トリッシュ先輩。


俺は慌ててフランへ合図する。



(配信切って! 配信切って!)


『はいはいにゃ』



フランがすぐに配信を止める。

俺たちは広場の入口脇にある大きな岩陰へ身を隠した。



(でも、さすがだな)



俺は岩陰から広場を覗く。


俺たちより先に六階を通過し、そのまま二十階まで進んできたということになる。

学生だからと侮れない。

江戸川会長率いる生徒会パーティは、やはり普通に強い探索者集団らしい。



(……というか)



俺はメガサイクロプスを見る。



(牧島先輩、まだいないんだよな)



ここまで来ても姿を見ていない。

ということは、すでに中ボスを倒してさらに下まで進んでいる可能性がある。


目の前にいるメガサイクロプスは、牧島先輩が倒したあとに再出現した個体なのかもしれない。



(ソロで中ボス倒して、さらに先行ってるのか……)



あの人、言動はめちゃくちゃだけど、やっぱり相当強いんだな。

フランの腹パン一発で沈んでたけど。



「グオオオオォォォッ!!」



広場の中央で、メガサイクロプスが巨大な棍棒を振り上げる。


その正面には、神先輩。


少し離れた位置にトリッシュ先輩と藤宮先輩。


だが──江戸川会長だけは、なぜか三人より少し後方へ下がっていた。



「……練馬区第一ダンジョンの中ボス、メガサイクロプス」



神先輩が眼鏡をクイッと押し上げた。



「経験値効率の良いモンスターです。会長、ここは我ら三人に譲っていただきたく」


「そうだよねー」



トリッシュ先輩が、いつもの棒付きキャンディを舐めながら呑気に続ける。



「ジュリにゃん、一人だけウチらよりかなり上のレベル行っちゃったからねー。ジュリにゃんまで混ざると、ウチらに分配される経験値かなり減っちゃうしー?」


「……僕もそれでいいですよ」



藤宮先輩は相変わらず、手元の携帯ゲーム機らしきものへ視線を落としている。



「この程度なら僕ら三人でも何とかなると思います。危なくなったらフォローだけお願いしますよ、会長」


「分かったわ。無理だと思ったらすぐ下がって。私が入るから」


「承知しました」


「りょーかい」


「……了解です」



三人がそれぞれ構える。



(…………)



俺は岩陰で目を細めた。



(いや、この期に及んで藤宮先輩まだゲームしてるんだけど)



中ボス戦が始まろうとしている。

目の前には七メートルの巨人。

なのに、この人だけ画面からほとんど目を離していない。



(本当に大丈夫なの……?)



そんな俺の心配をよそに、メガサイクロプスが咆哮を上げる。



「グオオオオオオォォォッ!!」



巨大な棍棒が振り上げられ。


練城高校生徒会三名と、地下二十階の中ボス。

その戦いの火蓋が切って落とされた。

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