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【25万PV感謝!】最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第三章 豊島区の配信者

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第26話 春日井咲良

家を失った。

財布の中身は、ろくにない。

頼れる親戚も、泊めてもらえるような友人もいない。


そんな俺が次に向かった場所は──



「…………」



近所の公園だった。


休日の午前中。

暖かな日差しの下、親子連れが芝生の上でボールを追いかけている。

少し離れたところでは、小さな子供たちが遊具ではしゃぎ、その様子を両親が微笑ましそうに眺めていた。

実に平和な光景である。


一方、俺はというと。

ボロボロに焦げた学ラン姿のまま、公園のベンチに座って肩を落としていた。

隣には、爆風で全身の毛がチリチリになった喋る猫。


なんだろう。

俺たちの周囲だけ、文明が滅びた後みたいになっている。



『ロミオ……』



隣に座っていたフランが、こちらを見上げた。



「なんだよ」


『おみゃー、あんだけ強ぇんにゃから、ダンジョンでモンスター狩って、素材を売って現ナマ作りゃあいいんじゃにゃーか?』


「…………」



言い方はともかく、至極まっとうな意見だった。


この世界における探索者の主な収入源は、ダンジョンで得られる素材だ。


モンスターの牙や爪、皮、骨。

鉱石や薬草。

宝箱から発見される魔道具。

希少な素材であれば、たった一つで数百万円以上の値がつくこともある。


現在の俺はレベル五十六。

そこらの低級モンスターなら、まず負けることはないだろう。


普通に考えれば、金を稼ぐ方法としては最適だ。

普通に考えれば。



「いや……それが、そんなに簡単でもないんだよ」


『にゃんでにゃ?』


「モンスターを倒すつもりで攻撃したら、【一撃必死(マストダイ)】が誤発動するかもしれないだろ」


『おみゃーのクソスキル、殺意を持って攻撃したら勝手に出るのかにゃ?』


「まだ正確な発動条件は分からないけどな。少なくとも、ゴキブリを叩いた時も、ミノタウロスに石を投げた時も、スケルトンを殴った時も、全部『倒す』つもりで攻撃してた」


『ふむふむ』


「だから、普通にモンスターを狩るなら、その日の五回を全部使い切った後じゃないと危ないんだ」


『だったら、さっさと適当な雑魚を五匹爆発させればいいだけじゃにゃーか。なんなら、そこら辺の虫とかでもいいにゃろ』


「だけどさ……」



俺が続きを口にしようとした、その時だった。



「おい! 今度は板橋第一ダンジョンのボスが、何者かに倒されたらしいぞ!」


「マジかよ!?」



公園の入口付近から、騒がしい声が聞こえてきた。

見ると、数人の探索者らしき男女が、カメラを抱えた撮影スタッフと共に歩いてくるところだった。

腰には剣。背中には盾。

そのうち一人は、手持ちの端末で何かの情報を確認している。



「板橋第一って、あのアンデッドだらけの?」


「ああ! あのクッセえ不人気ダンジョンだ!」


「ボスが倒されたのなんて、何ヶ月ぶりだよ!?」


「それが、ボス部屋には爆撃でも受けたみたいな痕跡が残ってたらしいぜ!」


「爆撃……?」



一同の足が止まった。



「まさか……ダイナマイト練馬か!?」


「練馬だけじゃなく、板橋にも出たっていうのか!?」


「活動範囲が広がってやがる!」


「いや、待て。板橋で出たなら、ダイナマイト板橋っていう別人なんじゃないか?」


「その可能性もあるな!」


「爆発系の謎の探索者が二人もいるってことか!?」


「こうしちゃいられねえ! 先を越される前に探すぞ!」


「おおっ!」



彼らは一斉に駆け出し、板橋第一ダンジョンの方向へ走っていった。

撮影スタッフも、カメラを担いだまま、その後を必死に追いかけていく。



「…………」


『…………』



俺とフランは、その背中を無言で見送った。



「……まあ、今のを見て分かっただろ」


『にゃるほど……』


「俺、今めちゃくちゃ正体を探られてるんだよ。【一撃必死(マストダイ)】を使えば、モンスターだろうが虫だろうが、ド派手に爆発する。そんなことを一日に五回も繰り返してみろ」


『すぐバレるにゃ』


「そういうこと」



ダンジョン内だろうが近所の空き地だろうが、五回も爆発を起こせば、噂になるに決まっている。

しかも俺は、練馬第三ダンジョンに続き、板橋第一ダンジョンのボスまで爆破してしまった。

すでに複数のダンジョンを渡り歩く、謎の爆発系探索者として認識され始めている。

これ以上目立つ行動を取れば、正体が露見するのも時間の問題だ。



『そうは言ってもにゃあ……』



フランがチリチリの尻尾を揺らす。



『正体隠してたら、金稼げねーにゃ。けど、金稼がねーと家も飯も手に入らねーにゃ』


「そうなんだよ」


『しかも、今日もあと五回、何かを爆発させねーと、おみゃーが爆発するにゃ』


「そうなんだよ……」



八方塞がりだった。

最強の即死スキルを手に入れたはずなのに、その力を使えば使うほど生活が詰んでいく。

家を失い、金を稼ぐ手段まで制限されるとは。


このスキル、敵を殺す前に俺を社会的に殺しにきていないだろうか。



「…………」


『…………』



再び二人で項垂れる。

すると。



「門田くん?」



背後から、聞き覚えのある声がした。



「え?」



振り返る。

そこに立っていたのは、見覚えのある女子生徒だった。


肩にかかる程度の柔らかな茶色い髪。

大きな瞳。

親しみやすい、明るい表情。

俺のクラスメイト。

そして教室では隣の席に座っている、春日井咲良さんだった。



「春日井さん……?」


「やっぱり門田くんだ!」



春日井さんは一瞬嬉しそうに笑った。

だが、すぐに俺の姿を見て、目を丸くする。



「ど、どうしたの、その格好!?」


「あー……」


「制服、あちこち焦げてるよ!? 袖も破れてるし、髪にも煤がついてるし……!」



春日井さんの視線が、俺の隣へ移った。



「そっちの猫ちゃんも、毛先が全部チリチリになってるし……!」


『…………』



フランが、露骨に嫌そうな顔をした。

ただし普通の猫のふりをしているため、何も言い返せない。



「あっ! ひょっとして、ダンジョン帰りとか……!?」


「は、はい。まあ、そんなところです」


「やっぱり! まだ覚醒して2日しか経ってないのに、もうダンジョンに潜ってるんだね!」



嘘はついていない。

制服がボロボロになった理由の半分くらいは、ダンジョンで戦ったせいだ。

残り半分は、帰宅後にゴキブリを部屋ごと爆破したせいだが。



「えっ、制服のまま潜ったの?」


「他に装備を持っていなかったので……」


「危ないよ! いくらスキルに目覚めたからって、制服でダンジョンに入るなんて!」


「返す言葉もございません……」



今日は色々な人に怒られる日らしい。

春日井さんは、焦げた制服を改めて見回した。



「と、とにかく、一度家に帰って着替えた方がいいよ。この格好じゃ、風邪引いちゃうし」


「いやー……それがですね」


「うん?」


「今、ちょっと……帰る家がなくなってしまいまして」


「えっ!?」



春日井さんの顔色が変わった。



「い、家がないって、どういうこと!?」


「あ、でも、心配しないでください。大したことじゃありませんので」


「だいぶ大したことあるよ!」



即座に否定された。

そりゃそうか。


ボロボロの服を着た同級生が、公園で「帰る家がない」と言っているのだ。

どう見ても、事件性のある光景である。



「何があったの? ご家族と喧嘩したとか……?」


「いえ、そういうわけでは」


「じゃあ、家に何かあったの?」


「まあ……少々、事情がありまして」



俺が曖昧に笑うと、春日井さんは口を閉じた。

しばらく俺の顔を見つめる。

無理に事情を聞くべきか、迷っているようだった。


やがて──

春日井さんは大きく頷いた。



「分かった!」


「はい?」


「ちょっとついてきて!」


「どこへですか?」


「いいから!」



春日井さんが、俺の右手を掴んだ。



「えっ」


『にゃっ』



そのまま強引に引っ張られる。


突然、女の子に手を握られた。

柔らかい。温かい。

どうすればいいのか分からない。



「か、春日井さん?」


「門田くん、このまま公園にいたってどうしようもないでしょ!」


「それはそうですけど……」


「だったら、早く行くよ!」


「あの、せめて行き先くらいは……」


「すぐ近くだから!」


『ニャーを置いていくんじゃねーにゃ!』



普通の猫のふりを忘れかけたフランが、慌ててベンチから飛び降りる。

俺は春日井さんに手を引かれ、フランはその後ろを追いかける。


こうして俺たちは、目的地も告げられないまま、公園を後にした。

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