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【25万PV感謝!】最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第三章 豊島区の配信者

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第24話 朱里の想い

東京都内。


高層ビル群の一角にそびえる、江戸川グループ本社。

その最上階にある会長室で、江戸川剛蔵は重厚な革張りの椅子へ深く腰掛けていた。


窓の外には、朝日に照らされた東京の街並みが広がっている。


だが剛蔵は、机の上に置かれた書類にも、眼下の景色にも目を向けていなかった。

向かい側に立つ娘──江戸川朱里を、鋭い目で見つめていた。



「……もう一度、聞こう」



低く、押し殺したような声が会長室へ響く。



「お前の現在レベルは、本当に二十八なのだな?」


「はい、お父様」



朱里は静かに答えた。

背筋を伸ばし、両手を身体の前で重ねている。

普段と変わらない、凛とした立ち姿だった。



「つい先日まで、お前のレベルは十九だった」


「はい」


「それが、たった一度の戦闘で……九も上がったと?」


「間違いありません」



レベルは、本人にしか確認できない。

ステータスウィンドウは、所有者の意思によってのみ表示される。

測定装置も存在せず、第三者が直接数値を確認することはできない。


だからこそ、レベルやスキルは本人の自己申告が基本となる。


無論、戦闘能力や実績から、ある程度の推測は可能だ。

だが、厳密な数値までは分からない。



「……お前に限って、そのような嘘を口にするとは思っておらん」



剛蔵は眉間へ深く皺を寄せた。



「だが、あまりにも信じ難い数字だ」


「私自身も、最初は見間違いかと思いました」



朱里も、昨夜から何度ステータスを開いたか分からない。

一度閉じ、もう一度開き。

目を擦り、それでも表示される数字は変わらなかった。



「恐らく……あの変異種との戦闘が原因かと思われます」


「赤黒いミノタウロスか」


「はい」



朱里の表情が、僅かに曇った。


練馬区第三ダンジョン。

地下三十階。

本来のボスを倒すために企画された、生配信付きの特別攻略。


そこへ突如現れた、正体不明の変異種。

赤黒い皮膚。

異常な巨体。

Bランク探索者である朱里ですら、まるで歯が立たなかった。



「私は、あの個体へ何度か攻撃を加えました。ほとんど有効打にはなりませんでしたが……戦闘への貢献そのものは、記録されたのだと思います」


「討伐時の経験値分配か」


「はい」



強力な魔物、とりわけダンジョンボスを複数人で討伐した場合──


経験値は、最後に攻撃を加えた者だけへ与えられるわけではない。


与えた損傷。戦闘時間。

敵の注意を引きつけた時間。

支援。その他の戦闘貢献。

それらをもとに、各自へ個別に経験値が加算される。



「私は……敗北しました。ですが、あの変異種へ先に攻撃を加えていたため……討伐時、僅かながら経験値を得たのだと思われます」


「僅かながら、だと……?」



剛蔵の口元が、僅かに震えた。



「僅かな貢献で、レベルが十九から二十八へ上がったというのか」


「はい」


「……九だぞ」


「はい」


「レベルが九も、一度に……!」



剛蔵は椅子から立ち上がった。

両手を机へつき、興奮を抑え切れない様子で朱里を見る。



「それにしても……二十八だと!?」


「お父様」


「高校生のうちに……しかも、スキルへ目覚めて一年にも満たぬうちに、レベル二十八へ到達するなど……前代未聞だ! ……いや、例外(・・)はあるか」



剛三の声が、広い会長室へ響いた。


江戸川朱里は、まだ十七歳。

高校生探索者として、すでに高い知名度を持つ。

容姿端麗。成績優秀。

若くしてBランク。

大企業グループ会長の令嬢。


そこへ、レベル二十八という肩書きが加わる。



「ただでさえ、お前は“見目麗しい高校生探索者”として、世間から注目されている」


「……その呼ばれ方は、あまり好ましくありません」


「世間が勝手に呼んでいるのだ。仕方あるまい」



剛蔵は口元へ手を当てる。

その目は、娘を案じる父親のものから、企業を率いる経営者のものへ変わっていた。



「十七歳にして、レベル二十八……。これを公表すれば、探索者業界だけでは済まん。政府も、海外企業も、お前を放ってはおかんだろう」


「……」


「これならば、張須(はりす)重工の連中も、お前へ下手なちょっかいはかけられまい」



剛三の口の端が、ゆっくりと持ち上がった。



「張須(はりす)の倅が、いかに“世界最強の高校生”などと持て囃されていようと……最早お前を一方的に格下扱いすることはできん」


「お父様」


「分かっている。今すぐ何かを決めるつもりはない」



剛蔵は手を上げ、娘の言葉を制した。



「だが、力は交渉材料になる。とりわけ、探索者が社会の中心に入りつつある今の時代ではな」


「……はい」



朱里は静かに頷いた。


だが、父の言葉はほとんど耳へ入っていなかった。

彼女の意識は、すでに父の話から離れていた。



(私は……あの変異種へ、ほとんど有効な損傷を与えられなかった)



剣でつけた傷はすぐに再生された。

渾身の一撃も、赤黒い皮膚へ浅い傷を残しただけ。

最後には為す術もなく地へ伏し、ただ死を待つことしかできなかった。


それでも──


朱里のレベルは、十九から二十八へ上昇している。

戦闘への僅かな貢献だけで、九ものレベルが上がったのだ。


ならば。

あの変異種を、ほとんど一人で討ち倒した人物には、一体、どれほど膨大な経験値が与えられたのだろう。



(ダイナマイト練馬(ねりま)様……)



その名を胸の内で呟くだけで、心臓が僅かに速くなる。


学ランで顔を隠した、謎の覆面探索者。

絶体絶命の窮地へ、何の前触れもなく現れ、

恐るべき変異種を前にしても怯む様子一つ見せず、

ただ小石を投げるという、あまりにも静かで、あまりにも圧倒的な一撃によって、赤黒いミノタウロスを爆発四散させた。


そして、称賛も報酬も求めず、

助けた朱里へ恩を着せることもなく、

己の名だけを残して、忽然と姿を消した。


朱里の記憶の中で、その背中はすでに、現実以上に大きなものとなっていた。



(あれほどのお力をお持ちでありながら……決して、それを誇示なさらない)



朱里には、そう思えた。

実際には、顔を隠していたのも、名乗った直後に逃げ去ったのも、正体の発覚を恐れていただけである。


だが、そんな事情を知る由もない朱里にとって、あの振る舞いは、力を誇らず、名声を求めず、ただ人を救うためだけに現れる、孤高の英雄の姿そのものだった。



(きっと、あのお方にとっては……あの変異種すら、取るに足らない相手だったのでしょうね)



そう考えると、胸が熱くなる。


自分が命を懸けても届かなかった怪物。

それを、あの人は一撃で葬った。

どれほど高いレベルなのだろう。

どれほど多くの死線を越えてきたのだろう。

あの学ランの下には、どのような素顔が隠されているのだろう。


年齢は。経歴は。

普段は、どこで何をしているのか。

考えれば考えるほど、知りたいことが増えていく。


それは命の恩人に対する、純粋な関心のはずだった。

感謝。尊敬。憧れ。

そうした感情に違いないと、朱里は自分へ言い聞かせる。


だが──


あの覆面姿を思い出すたび、胸の奥が微かに締めつけられる。

もう一度会いたい。

今度こそ、きちんと礼を伝えたい。

自分を救った理由を聞きたい。


そして願わくば──

あの人の隣へ立てるほど、強くなりたい。

そんな思いまで浮かんでしまう。



(こっ、これは……尊敬しているだけですっ……!)



朱里は、心の中で小さく否定した。

けれど、否定したはずなのに。

頬へ差した熱は、なかなか引いてくれなかった。


剛三は娘の変化に気づかず、今後の広報戦略について何事か話し続けている。


やがて朱里は一礼し、会長室を後にした。

重厚な扉が閉じる。

人気のない廊下へ出たところで、朱里は足を止めた。


胸元へ、そっと手を添える。

指先の下で、心臓が普段より少しだけ早く鼓動していた。



「ダイナマイト練馬様……」



口にすれば、少しだけ距離が近づく気がした。

もちろん、そんなはずはない。

それでも朱里は、僅かに睫毛を伏せる。


声には、憧れだけでは説明できない柔らかな熱が滲んでいた。



「貴方は今、どこで……何をなさっているの……?」



その問いに答える者はいない。

ただ朱里の胸の中で──

名も素顔も知らぬ英雄への想いだけが、静かに芽吹き始めていた。

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