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【25万PV感謝!】最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第二章 板橋区の猫

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第22話 結ばれた契約

青白い光が消える。


次の瞬間、俺は板橋第一ダンジョンの入口前へ立っていた。


外はすっかり暗くなっている。


街灯が道路を照らし、少し離れた大通りから車の走る音が聞こえた。


人の世界だ。

腐臭もしない。

普通の空気だ。

俺は胸いっぱいに夜の空気を吸い込んだ。



「ああ……生き返る……」



こんなに新鮮な空気をありがたいと思ったのは、生まれて初めてだった。


スマホで時刻を確認する。

午後十一時を少し過ぎたところだ。


帰宅が遅くなってしまったが、明日は学校が休みである。


今日は風呂に入って、すぐ寝よう。


世界の秘密は聞かなかった。

喋る猫も置いてきた。

何とか、日常へ戻れそうだ。


そう思った時。



『にゃ……にゃ~……』



足元から、か細い声が聞こえた。

恐る恐る視線を下げる。

そこには、俺の制服の裾へ爪を引っかけたままの猫がいた。



「ついてきてる!?」


『し……死ぬにゃ……』


「えっ?」



猫の様子がおかしい。

地面へ倒れ込み、身体をビクン、ビクンと痙攣させている。

先ほどまで逆立っていた毛は力なく寝ており、呼吸も激しく乱れていた。



「ど、どうしたの!?」


『にゃ、ニャーは……』



猫が苦しそうに顔を上げる。

その身体が、僅かに透け始めていた。

灰色の毛並みの向こうに、地面の模様が見える。



『ニャーは……妖精猫(ケット・シー)なのにゃ……』


「ケット・シー?」


『〝幻界〟からやってきた……ニャー達のような幻獣は……ダンジョンの中と違って……』



猫が苦しそうに息を吸う。



『魔導素(エーテル)の薄い人間の世界じゃ……身体を維持できねぇのにゃ……』


「ええっ!?」



俺は慌てて猫の前へしゃがみ込んだ。



「それって、死ぬってこと!?」


『このままなら……消滅するにゃ……』


「どうしよう!? 急いでダンジョンに戻せば間に合うのか!?」



立ち上がろうとする。

しかし、猫は前脚で俺のズボンを掴んだ。



『いや……もう間に合わねぇにゃ……一度こっちの世界へ完全に引き出されて、身体の崩壊が始まったら……ダンジョンへ戻っても止まらねぇにゃ……』


「そんな!」


『ニャーが助かる道は……ただ一つだけにゃ……』



猫の翠色の瞳が、一瞬だけカッと鋭く輝いた。

だが、すぐに苦しそうな表情へ戻る。



『ニャーと契約して……ニャーを、おみゃーの“従魔”にしてほしいのにゃ……』


「従魔……?」


『人間と契約を結んだ幻獣は……契約者から魔導素(エーテル)を供給してもらえるにゃ……この世界でも、生きていけるのにゃ……』



従魔契約。

探索者の中には、魔物や幻獣と契約し、戦闘の補助をさせている者がいる。

動画で見たことがある。


しかし、従魔を持つことができるのは、特別なスキルを持つ探索者だけだと思っていた。

俺にもできるのだろうか。


だが──



(嫌だ……)



正直、ものすごく嫌だ。


喋る。魔法を使う。

世界の秘密を握っている。

明らかに、俺を何らかの面倒事へ誘(いざな)おうとしている。


そんな猫と契約するなんて、平穏な暮らしがさらに遠ざかる予感しかしない。


しかも……

うちのアパートは、本当にペット禁止なのだ。

従魔なら問題ないという理屈は、管理会社には絶対に通じない。


俺が迷っている間にも、猫の身体はどんどん薄くなっていく。



『も……もう、駄目にゃ……』


「ちょ、ちょっと待って!」


『短い付き合いだったにゃ……さようにゃら……』



猫がそっと目を閉じる。

身体が、さらにスゥーッ……と透けていく。

向こう側の地面が、完全に見えてしまっている。



「オワーーーーッ!?」



俺は頭を抱えた。



「分かった! 分かったから! 契約する!」


『ほ、本当かにゃ……?』



猫が薄く目を開けた。

一瞬だけ、瞳の奥へ喜色が浮かんだような気もする。

気のせいだろうか。

いや、今は疑っている場合ではない。



「どうすればいいの!?」


『ニャーに……人間界での名前を付けるのにゃ……』


「名前?」


『契約者に名前を与えられることで……幻獣は、この世界へ存在を固定できるにゃ……』


「分かった! 名前だね!」


『できれば……ヨーロッパの風を感じる、ファビュラスな名前にしてほしいにゃ……』


「半透明のくせに注文が多いな!?」



今にも消えそうなのに、妙な部分へこだわる猫だった。


名前。

名前を付けなければならない。

しかも、ヨーロッパの風を感じるファビュラスな名前。

そんなもの、急に言われて思いつくわけがない。



「名前……名前……!」



何だろう。

つい最近も、こんなことがあった気がする。

名前を聞かれ、何も思いつかず、目の前にあった単語を使い……

気づけば、ダイナマイト練馬になっていた。


駄目だ。

同じ失敗を繰り返してはいけない。

今回は、もっと格好いい名前を考えなければ。


ヨーロッパ。ファビュラス。

猫。灰色。女性名。……メスだよね、この子。


そんな事を考えてる間にも、猫はどんどん薄くなっていく。



『は、早くするにゃ……!』


「分かってる!」


『ニャーの身体が、もうほとんど見えなくなってるにゃ……!』


「分かってるって!」



フランスっぽい名前。

イタリアっぽい名前。

何かないか。


マリア。ソフィア。アンジェリカ。

フランチェスカ。

フランチェスカはいいな。ヨーロッパっぽい。

ファビュラスかどうかは分からないが、少なくともダイナマイトよりは上品だ。


いやでも、ひょっとしてフルネームが必要だったりするのか?

姓まで必要なのか?

そこらへんは聞いていない。


何か。

何か名字。


ふと、板橋区第一ダンジョンの看板が目に入る。


……違う。駄目だ。

それだけは駄目だ。

俺は何度同じ過ちを繰り返す気だ。

しかし、猫の身体はもうほとんど消えかけている。



『はや……く……』


「ふ……」



焦る。

頭が真っ白になる。


そして、俺の口は──

脳が止めるより先に、最悪の言葉を吐き出していた。



「フランチェスカ板橋……?」



直後。

頭の中へ、無機質な声が響いた。



『従魔契約が完了しました』


『従魔名:フランチェスカ板橋』


「…………」



猫の身体が、眩い光を放った。

半透明だった輪郭が、徐々に色を取り戻していく。


灰色と黒の縞模様。

丸い顔。青色の瞳。短めの脚。

完全に、元のアメリカンショートヘアーの姿へ戻った。


助かった。

どうやら、契約は成功したらしい。

よかった。

本当によかった。


しかし──


猫は地面へ座り込んだまま、わなわなと震えていた。



『お……』


「お?」


『おみゃあぁぁぁぁぁぁッ!!』



猫の絶叫が、夜の街へ響き渡った。



『なんなんにゃ、この名前ぇ!?』


「いや、その……」


『なんで最後に板橋付けたんにゃ!? フランチェスカだけでいいにゃろ!?』


「焦ってて……フルネームの方がいいのかなって思って……」


『ニャーは女子プロレスラーじゃにゃーぞ!?』


「それは、本当にごめん……」



ヨーロッパの風を感じるファビュラスな名前。

その希望は、前半部分だけなら叶っている。

後半から吹いているのは、完全に板橋区の風だった。


猫──フランチェスカ板橋は、地面を両前脚で何度も叩いた。



『やり直しを要求するにゃ! 今すぐ契約をやり直すにゃ!』


「どうやって?」


『知らねぇにゃ! おみゃーが考えるにゃ!』


「無茶言わないでよ……」



俺は深いため息を吐いた。


喋る猫。

妖精猫(ケット・シー)。

世界の秘密を知るらしい幻獣。

そして──俺の従魔。


助けるためとはいえ、とんでもない存在と契約してしまった。



「最悪だ……」


『それはニャーの台詞にゃーーー!!』

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― 新着の感想 ―
だんだん好きになってきたww
(もしあれば)次の名付けイベントが楽しみですな笑
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