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【25万PV感謝!】最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第二章 板橋区の猫

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18/65

第18話 猫と骸骨

「これこれ、骸骨さん」



できるだけ穏やかに。

できるだけ余裕があるように。

声が震えないよう気をつけながら、俺はボス部屋の中へ足を踏み入れた。


コツン、と靴底が石床を叩く。

たったそれだけの音が、異様に広い室内へ何重にも反響した。


その音に反応したのか。

猫へ向かって歩いていた骸骨将軍の動きが、ぴたりと止まった。

黒光りする全身鎧が、軋んだ音を立てる。


ギギギ……。


骸骨将軍が、ゆっくりとこちらを振り返った。

角の生えた兜の奥。

空洞であるはずの眼窩に、紫色の炎が揺らめいている。


視線というものが存在するのかは分からない。

それでも、確実に俺を見ている。

俺を、新たな侵入者として認識している。


怖い。

ものすごく怖い。

今すぐ回れ右をして、扉の外へ逃げ出したい。

身体能力が上がった今なら、全力で走れば逃げ切れるかもしれない。

いや、逃げ切れなかったら、そのまま背中から真っ二つである。


しかし、ここで引き返せば、目の前で倒れている猫を見捨てることになる。

さすがに、それは格好悪すぎる。


俺は握った小石を背中側へ隠しながら、骸骨将軍へ向かって人差し指を立てた。



「……ね、猫を虐めてはいけないよ?」



口から出たのは、小学校低学年向けの道徳教材にでも載っていそうな注意の文言だった。


自分で言っておいて、猛烈に恥ずかしい。

もっと他になかったのか。

『その剣を下ろせ』とか。

『次の相手は俺だ』とか。

そういう、少年漫画の主人公らしい台詞が。


いや、俺がそんなことを言ったら、声だけでなく膝まで震えているのが余計に目立つ。


今のでいい。

今ので精いっぱいだ。


俺は自分へそう言い聞かせながら、一歩ずつ骸骨将軍へ近づいていった。


その時──

石柱の根元で倒れていた猫が、勢いよく顔を上げた。

丸い顔に似合わない、鋭い金色の瞳。

その瞳が、信じられないものを見たように大きく見開かれる。



『人間……!?』


「…………え?」



はっきりと声が響いた。

高く、少し掠れた、妙に耳へ残る女の子のような声だった。


しかし、ボス部屋には俺と骸骨将軍と猫しかいない。

骸骨将軍が喋ったようにも見えない。

俺が硬直していると、猫が毛を逆立てたまま口を開いた。



『なんでここにいやがるにゃ!? この階層には、ニャーの人払いの結界が張ってあるはずにゃ!』


「うわぁぁぁっ!?」



俺は情けない悲鳴を上げ、二歩ほど後ろへ飛び退いた。


反射的に周囲を見回す。

誰もいない。

やはり、声の主は目の前の猫だ。

語尾に"にゃ"って付いてるし。

一人称がニャーだし!



「猫が喋った!?」



猫の三角形の耳が、ピクリと動いた。

今度は猫の方が、驚愕した様子で俺を凝視する。



「えっ!? ひょっとして、こっちもボスモンスター!?」


『誰がボスモンスターにゃ! こんなプリチーなボスモンスターがどこのダンジョンにいるのにゃ!』



猫は牙を剥き、尻尾を床へ叩きつけた。

バシンッ、と妙に力強い音が響く。



「だって喋ってるし! さっき魔法みたいなのも撃ってたし!」


『猫が魔法を撃っちゃ悪ぃのかにゃ!』


「いや、悪くはないけど……普通の猫は撃たないでしょ!」


『おみゃーがニャー達ネコのことをどれだけ知ってるっていうんだにゃ!』


「少なくとも、近所の猫が口からビームみたいなの吐いてるのは見た事ない!」



こんな状況だというのに、思わず言い返してしまった。


何だ、この猫。

喋ることも驚きだが、それ以上に口が悪い。

声だけ聞けば妙に可愛らしいのに、言葉遣いは完全にチンピラである。


猫はさらに何か言い返そうとして、ふいに金色の瞳を鋭く細めた。


その視線は、俺ではなく──

俺の背後へ向けられている。



『あぶねぇにゃッ!!』



猫が叫んだ。



「え──」



振り返るより早く。

灰色の小さな身体が、床を蹴った。

猫とは思えない勢いで俺の胸元へ飛び込み、前脚と頭を使って全力で体当たりしてくる。



「うわっ!?」



予想外の衝撃を受け、俺の身体が横へ弾かれた。

強化された身体でも踏ん張れず、肩から石床へ転がる。


直後。


先ほどまで俺の頭があった場所を、漆黒の長剣が横薙ぎに通過した。


ブォンッ!!


空気そのものを叩き切るような、重い風切り音。

剣圧が頬を掠め、遅れて数本の髪が宙を舞った。



「ひっ……!」



喉から、潰れた声が漏れる。

冷たい汗が、一気に背中へ噴き出した。


骸骨将軍は、いつの間にか俺の背後まで移動していた。

鎧を身につけた巨体とは思えない速度だ。


もし、猫が俺を突き飛ばしていなければ。

今頃、俺の身体は腰から上と下に分かれていたかもしれない。

そう考えた瞬間、足の力が抜けそうになった。


俺へ体当たりした猫は、空中で器用に身体を捻る。

俺の胸を後脚で蹴り、くるりと一回転して床へ着地した。

前脚を低く構え、背中の毛を膨らませる。



『ボケッとしてんじゃねぇにゃ! 死にてぇのかにゃ!?』


「ご、ごめん……」



怒鳴られた。猫に。

初対面の猫に命を救われた上、盛大に説教までされた。

しかし、反論はできない。

完全に俺が悪かった。


猫は俺を庇うため、痛めていたはずの身体で無理をして飛び込んできたのだ。


この猫、間違いなく、ただの猫ではない。

まあ、喋って魔法を使う時点で、それはそうだ。

しかも、骸骨将軍と戦える。

性格はだいぶ荒んでいる。


だが、少なくとも悪い猫ではなさそうだ。



『おい、人間』



猫は骸骨将軍から目を離さないまま、低い声で俺を呼んだ。

先ほどまでの甲高い怒鳴り声とは違う。

警戒心と焦りが混じった、真剣な声だった。



『おみゃー、見たところスキルに目覚めたばっかりのガキにゃ?』


「あ、うん。昨日」


『昨日ぉ!?』



猫の声が盛大に裏返った。

一瞬だけ、骸骨将軍から俺へ視線を向ける。



『マジで覚醒したてじゃねぇかにゃ! こんな深層まで何しに来やがったにゃ!』


「いや、俺も来たくて来たわけじゃなくて……転移罠を踏んで……」


『転移罠!? そんなもん踏むやつ、滅多にいねぇにゃ!! ツイてないガキにゃ!』


「いや俺、二日連続で転移罠踏んだんだけど……」


『二日連続!? おみゃー、どんだけ運悪いんにゃ!?』



俺もそう思う。

猫は苛立ったように口を開き、カチッと牙を鳴らした。

舌打ちの代わりなのかもしれない。


視線の先では、骸骨将軍が再び長剣を構えていた。

兜の奥に宿る紫色の光が、一段と強くなる。



『……命が惜しかったら、とっとと失せるにゃ』



猫は骸骨将軍との間へ割って入るように立った。

俺を庇うような位置だった。



『コイツは、ただのダンジョンボスじゃねぇにゃ』



灰色の尻尾が、大きく膨らんでいる。

脚も、僅かに震えていた。

強がっているだけで、この猫も追い詰められているのだ。



『“尖兵(せんぺい)”にゃ。おみゃーみたいな人間の小僧が、首突っ込んでいい相手じゃねぇにゃ』


(センペー……?)



尖兵。たしか、軍隊の先頭に立つ兵士という意味だったはずだ。

ということは、この骸骨将軍は何者かの軍勢の一員なのだろうか。

それとも、変異種のボスを指す専門用語か何かか。

ダンジョンの最奥にいるボスなのに尖兵って、どういうことだろうか。


分からない。

スキルに目覚めてまだ二日目の俺には、ダンジョンの常識は、ネットで見たレベルでしかないのだ。


ただ一つ分かるのは。

この猫が、自分よりも俺を逃がそうとしていることだった。


命が惜しかったら逃げろ。

まったくもって正しい助言だ。

俺だって命は惜しい。

十七年しか生きていないので、できればあと七十年くらいは生きたい。


高校を卒業して。

大学へ行くか、公務員試験を受けて。

定時で帰宅して、夜はゲームをして。

そんな穏やかな人生を送りたい。


だからこそ。



(戦わないと、俺自身が爆発するんだよなぁ……)



視界の端へ、スキルの表示を呼び出す。



──────────────────

《固有スキル》

【一撃必死(マストダイ)】

残り使用回数:4/5

──────────────────



残り四回。


ここで逃げたとしても、今日中にどこかで四発撃たなければならない。

しかもボスを倒さなければ、地下三十階から地上まで、腐臭の満ちた通路を二十九階分も歩くことになる。


道中には、ゾンビやグールも出る。

そいつらを爆破すれば、先ほどの悪臭地獄が再現される可能性が高い。


骸骨将軍と戦うか。

二十九階分、腐った魔物たちと付き合うか。

どちらがましか。


考えるまでもない。


俺は肺に溜まっていた空気を、大きなため息と共に吐き出した。



「……まぁ、スケルトンだし」


『にゃ?』



猫が怪訝そうに片耳を傾ける。



「爆散しても、そこまで臭くはない……はずだよな」


『おみゃー、何言ってんだにゃ?』



ゾンビのように、腐肉を撒き散らすことはない。

骨と鎧が飛び散るだけだ。

昨日のミノタウロスのように、赤黒い煙にはなるかもしれない。

しかし、少なくとも腐った肉片が顔へ飛んでくることはないだろう。


たぶん。きっと。

そうであってほしい。


俺は床へついていた手へ力を込め、ゆっくりと立ち上がった。

まだ膝が少し震えている。

それでも、骸骨将軍へ正面から向き直る。



『なっ……!?』



猫が驚いたように俺を見上げた。



『お、おみゃー、まさかアイツと戦う気かにゃ!?』


「戦うっていうか……爆発四散させてやろうかと思ってるだけだけど……」


『何言ってんにゃ!? 頭沸いてんのかにゃ!? ここはニャーが引きつけてやるから、その隙にさっさと逃げるにゃ!』


「でも、君もさっき吹き飛ばされてたよね」


『あれはちょっと足を滑らせただけにゃ!』


「空中で盾に叩かれてビターン!ってなってたじゃん……」



俺は右手の中の小石を、ぎゅっと握りしめた。



「それに……子猫に命を救われて、そのまま逃げるとか、流石にないでしょ」


『誰が子猫にゃ! ニャーは立派な成猫にゃ! 人間で言えば、おみゃーより年上にゃ!』


「そうなの?」


 

俺は改めて猫を見た。

小柄な身体。丸い顔。短めの脚。

どう見ても、子猫とは言わないまでも、若い猫にしか見えない。


しかし、くだらないやり取りをしたおかげで、胸を締めつけていた恐怖が僅かに薄れた。


俺は改めて骸骨将軍を見据える。

黒い全身鎧。巨大な盾。

俺の胴体くらいなら簡単に両断できそうな、漆黒の長剣。

鎧の隙間からは、紫色の靄が漏れ出している。


怖い。どう考えても、怖い。

今すぐ逃げ出したいという気持ちは、少しも消えていない。


それでも──

猫を見捨てて逃げるよりは、一度だけでも試した方がいい。


どうせ俺の攻撃は、当たりさえすれば終わるのだ。



「とりあえず、やってみるから」



俺は手の中の小石を、親指と人差し指で摘まみ直した。



「ちょっと離れててくれる?」


『やってみるって……』



猫の金色の瞳が、俺の指先へ向けられる。



『おみゃー、その石ころで何する気にゃ? 投げて気を逸らすつもりかにゃ?』


「いや……アイツを、爆発四散させる」


『さっきから何言ってんにゃ!?』



骸骨将軍が、巨大な盾を正面へ構えた。


ガァンッ!


盾の縁が石床へ叩きつけられ、蜘蛛の巣状の亀裂が広がる。

その陰で、漆黒の長剣がゆっくりと持ち上げられていく。

骸骨将軍の眼窩に宿る紫炎が、こちらを射抜いた。


全身を押し潰すような威圧感。

それを受けただけで、逃げろと本能が叫ぶ。

俺は震える足へ、無理やり力を込めた。


大丈夫。

手順は昨日と同じだ。

スキルを発動して、石を投げる。

それだけ。



「大丈夫、大丈夫……」



小石を持った右手を、肩の横へ構える。

赤い光が、指の隙間から僅かに漏れ出した。

猫の瞳が、驚いたように細められる。

骸骨将軍が、長剣を振り上げた。


俺は小石を握ったまま、静かに息を吸い──

自分に言い聞かせる様に、言う。



「俺は……謎の英雄……ダイナマイト練馬だ」

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― 新着の感想 ―
>「俺は……謎の英雄……ダイナマイト練馬だ」 おお、なかなかカッコいい! でも自分で謎とか言ったらダメでしょ せめて覆面の〜とか 笑
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