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最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第二章 板橋区の猫

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13/14

第13話 鏡の中の色男

「……誰これ?」



鏡の中に映る男を見ながら、俺はもう一度呟いた。

鏡の中の男も、俺とまったく同じタイミングで口を動かす。


背が高い。肩幅が広い。胸板が厚い。

顔も、昨日までとは明らかに違っていた。

慢性的な寝不足で腫れぼったかった瞼はすっきりとしており、輪郭もシャープになっている。

髪型はいつも通り寝癖が残っているはずなのに、不思議と無造作に整えたように見えた。


何というか……その。

自分で言うのは、本当に気持ち悪いのだけれど。



「……イケメン、だよな?」



鏡の中の俺は、どう見てもイケメンだった。

少なくとも、教室の女子たちが俺を見ながら口にしていた言葉は、集団幻覚でも新手のいじめでもなかったらしい。


俺は震える手で、自分の頬をつまんだ。



「痛い……」



夢ではない。

頬を引っ張れば、鏡の中のイケメンも間抜けな顔になる。

少し安心した。

どれだけ顔が変わっても、変顔をすればちゃんと俺だった。



「いや、安心してる場合じゃない」



俺は頬から手を離した。

昨日までの俺は、身長百七十二センチ。

平均より少し高い程度だった。


ところが、今の俺はどう見ても百八十センチを超えている。

制服のズボンが縮んだわけではなかった。

シャツの胸元が閉まらないのも。

自転車のサドルが低く感じたのも。

坂道を息切れせずに上れたのも。

すべて、俺の身体そのものが変わったからだ。



「まさか……」



思い当たる原因は、一つしかない。

スキル。そして、レベル。

昨日、俺の身に起きた、普通ではあり得ない出来事。


俺は男子トイレに誰もいないことを確認すると、小さな声で命じた。



「ステータス、オープン」



目の前の空間が、淡い光を放つ。

半透明の青いウィンドウが現れた。

これは、スキルホルダーにしか見えない自分自身の情報だ。

俺は一番上から、順番に視線を下ろしていった。



──────────────────

名前:門田露澪(かどたろみお)

性別:男

年齢:十七歳

LV:53

STR:224

AGI:238

INT:241

MAG:231


《固有スキル》【一撃必死(マストダイ)】残り使用回数:5/5リセットまで11:24:07

※注意:すべての使用回数を使い切らなかった場合、スキル所有者が爆発四散して死にます。


《称号》

格上殺し(ジャイアント・キラー)

【変異種討伐者】

【ダンジョン攻略者】

──────────────────




「…………」



一度、ウィンドウを閉じた。



「ステータス、オープン」



もう一度表示する。



──────────────────

名前:門田露澪(かどたろみお)

性別:男

年齢:十七歳

LV:53

STR:224

AGI:238

INT:241

MAG:231


《固有スキル》【一撃必死(マストダイ)】残り使用回数:5/5リセットまで

11:23:47

※注意:すべての使用回数を使い切らなかった場合、スキル所有者が爆発四散して死にます。



《称号》

格上殺し(ジャイアント・キラー)

【変異種討伐者】

【ダンジョン攻略者】

──────────────────




「…………」



目を擦る。

何度も瞬きをする。

数字は変わらない。



「ごじゅう……さん?」



膝から力が抜けた。

俺は洗面台の下へ、ゆっくりと崩れ落ちた。



「五十三って……五十三?」



昨日、ダンジョンへ入った時の俺はレベル一だった。

ゴブリンを何体か倒して。

コボルトやらウルフやらを爆破して。

地下三十階へ転移した時点で、レベル八。


そこまでは覚えている。


そして最後に、あの巨大なミノタウロスの変異種を倒した。


いや──

倒したというより、石を一つ投げただけだ。


それだけで、レベルが八から五十三まで上がった。



「一気に四十五も上がってる……」



馬鹿げている。

いや……普通なら、格上の魔物を倒した時ほど、得られる経験値は多くなる。

初心者が上級者向けの魔物を倒せば、大量の経験値が入る。

ゲームでもよくある仕組みだ。


あの変異種は、本来なら地下三十階のボスを倒すために用意された生放送の特別企画へ、突然出現した異常個体。

Bランク探索者である江戸川朱里先輩ですら、まったく歯が立たなかった。

レベル八の人間が倒すなど、想定されていなかったのだろう。誰の想定かは知らないが。


その結果──


格上撃破による大量の経験値が、俺へ流れ込んだ。



「だから、身体まで変わったのか……」



レベルが上がれば、基本能力も上昇する。

筋力。俊敏性。知力。魔力。

スキルホルダーはレベルを上げることで、一般人を大きく超える身体能力を得る。


長年探索者を続けている者は、年齢に比べて若々しく見えたり、引き締まった体格になったりするらしい。

それが普通は、何年もかけてゆっくり起きる。


俺の場合。

一日で五十二レベルも上がった。

身体の成長が、一気に反映されたのだ。



「なるほど……」



俺は床へ座り込んだまま、静かに頷いた。


理由は分かった。

分かったけれど。



「最悪だ……」



俺は両手で頭を抱えた。


人類がスキルへ目覚めるようになって、まだ二十年。

ダンジョンやレベルについては、今も分かっていないことが多い。

それでも、世界的に有名な高レベル探索者の情報くらいは、テレビやインターネットで何度も見たことがある。


確か──

現在、公式に確認されている人類の最高レベルは七十四だったはずだ。


七十四。

それに対し、俺は五十三。

別に世界最強になったわけではない。

レベルだけ見ても、俺より上の探索者は何人もいるだろう。


だから問題ない。

目立たない。

平穏に暮らせる。



「……わけないだろ」



俺は自分で自分へ突っ込んだ。


重要なのは、レベルそのものではない。

そこへ到達するまでの期間だ。


世界最高レベルの探索者だって、二十年近くダンジョンへ潜り続けた結果、レベル七十四になったはずだ。

国内でレベル五十を超えている探索者も、ほとんどが十年以上の経験を持つ大ベテランだろう。


それを俺は……



「スキルに目覚めて、一日……」



正確には、一日半くらいだろうか。

スキルホルダー登録から、半日程度。

探索者登録をしてから数時間。

その間にレベル五十三、だ。



「ギネス記録じゃん……」



間違いなく、人類史上最速だ。

下手をすれば、世界中の研究機関が俺を調べに来る。

テレビ局も来る。

探索者ギルドも来る。

政府も来る。

アメリカとかからも来るかもしれない。


そして、昨日突然現れた謎の覆面探索者。

ダイナマイト練馬。

学ランを顔面に巻いた変質者。

あいつは変異種を一撃で倒した。


同じ日に、同じ地域で、覚醒直後にレベル五十三まで上がった高校生が見つかる。

誰だって疑う。



「ダイナマイト練馬の正体、俺じゃんってなる……!」



いや、実際に俺なのだけれど。

それを知られるわけにはいかない。

知られた瞬間、俺の人生は終わる。


平穏な高校生活も。

将来の公務員生活も。

定時退庁して、家でゲームをする夢も。

全部、全部吹き飛ぶ。

変異種より派手に爆散する。



「うん、隠そう」



俺は立ち上がった。

レベル五十三であることは、絶対に誰にも言わない。

幸い、ぼっちだった俺は一年生の頃の姿をあまり誰にも認識されていない。

身体が変わった理由も誤魔化せそうだ。

ダイナマイト練馬との関係も、当然隠す。


市役所に登録したスキルは【接触爆破】だ。

あくまで、触れたものを爆発させるだけのスキル。

それ以上でも、それ以下でもない。


俺は普通の高校生。

少し変わったスキルへ目覚めただけの、普通の新人スキルホルダー。



「よし」



方針は決まった。

絶対に目立たない。

秘密を守る。

今からでも、静かな学校生活を取り戻す。


俺はステータスウィンドウを閉じると、鏡の中のイケメンを睨みつけた。



「お前も、余計なことするなよ」



鏡の中の俺は、神妙な顔で頷いた。

当然だ。

俺なのだから。

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