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最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第二章 板橋区の猫

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第14話 盛大にクラスバレしました

教室へ戻ると、先ほどまで俺を囲んでいた女子たちは、それぞれの席へ戻っていた。


何人かがこちらを見たが、もう駆け寄ってはこない。

どうやら、俺が逃げ出したことで気を使わせてしまったらしい。



(やってしまった……)



別に彼女たちは、俺をからかっていたわけではなかった。

見た目が急に変わった俺へ、ただ興味を持っただけだ。

それなのに俺は、新手のいじめだと疑い、逃げ出した。

我ながら、人間不信がひどい。


俺は項垂れながら、自分の席へ戻った。

椅子に座ると、隣の席から小さな声が聞こえた。



「門田くん」


「は、はい?」



顔を向ける。

先ほど最初に話しかけてきた、茶色い髪の女子だった。

彼女は眉を下げ、申し訳なさそうに両手を膝へ置いている。



「さっきは、急に話しかけてごめんね」


「え?」


「門田くんが、その……」



彼女は言いにくそうに口ごもった。

やがて、頬を赤くしながら続ける。



「あんまり格好よかったから、あたし、つい浮かれちゃって……。みんなで一気に質問したら、嫌だよね。気分を害したよね」


「そ、そんなことありません!」



俺は慌てて否定した。

勢いよく答えすぎて、彼女が目を丸くする。



「俺の方こそ、急に逃げたりしてすみません。ちょっと……トイレが緊急事態だっただけなので」


「緊急事態?」


「えー……か、かなり切迫してました」


「そ、そうなんだ……」



嘘である。

身体的には、まったく切迫していなかった。

でも、精神的には、人類史上最速記録が発覚してかなり切迫していたので、完全な嘘でもない。



「だから、気にしないでください。話しかけてもらえて……むしろ、嬉しかったです」


「本当?」


「はい」



彼女の表情が、ぱっと明るくなった。

春の日差しが差し込んだような、柔らかな笑顔だった。



「よかった!」



彼女は胸の前で手を合わせると、改めて俺の方へ身体を向けた。



「あたし、春日井咲良(かすがいさくら)。隣の席同士だし、これからよろしくね、門田くん!」


門田露澪(かどたろみお)です。よろしくお願いします、春日井さん」


「うん!」



春日井さんは、嬉しそうに笑った。



(いい子だ……)



自分たちが騒いだことで俺が傷ついたのではないかと、わざわざ謝ってくれた。

俺は勝手にいじめを疑っていたというのに。



(こんないい子に気を使わせてしまった……)



人類史上最速でレベル五十三になったことより、今はこちらの方が申し訳なかった。


俺が落ち込んでいると、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。

クラスメイトたちが、それぞれの席へ戻っていく。


午後最初の授業は、ロングホームルームだった。

ほどなくして、担任の男性教師が教室へ入ってくる。


四十代。

少し腹の出た、体育教師の八代先生だ。

先生は教卓へ出席簿を置くと、クラス全体を見回した。



「よし。全員いるな。新学期が始まって最初のホームルームだ。今日は、二年生になったお前たちへ、いくつか大事な話をしておく」



教室内が静かになる。

八代先生は黒板へ、大きく『進路』と書いた。



「お前たちは、高校二年生。今年で十七歳になる学年だ。そろそろ卒業後の進路についても、少しずつ考え始めてもらう」


 

進路。

俺は、真剣な表情で黒板を見つめた。


俺の進路は、すでに決まっている。

そこそこの大学へ進学。

公務員試験へ合格。

安定した職場で定時まで働く。

有給休暇をきちんと消化する。

完璧な人生設計だ。



「大学、専門学校、就職。進路は色々あるが、この学年からは、もう一つ大きな選択肢が加わる」



八代先生は黒板の『進路』の横へ、別の文字を書き足した。



『探索者』



俺は、嫌な予感がした。



「十七歳になった時、約二十人に一人の割合でスキルが発現する。スキルホルダーになれば、探索者を目指す者も多いだろう」



先生はチョークを置き、急に真面目な表情になった。



「そこで、重要な連絡だ。今後、スキルへ目覚めた者は、必ず速やかに学校側へ申告するように」


「えっ?」



思わず声が漏れた。

しまった。

八代先生がこちらを見る。



「どうした、門田?」


「い、いえ。何でもありません」



俺は慌てて首を横へ振った。

隣の春日井さんが、俺の方へ少しだけ身を寄せる。



「スキルホルダーになると、身体能力も上がったりするでしょ?」


「え?」


「だから、体育の授業とか部活動で、普通の生徒と同じ扱いにはできないんだって」



春日井さんは、先生に聞こえない小声で教えてくれた。



「スキルの種類によっては、校内で事故が起きるかもしれないし。体育の成績も一般の生徒とは別の基準でつけるらしいよ」


「なるほど……」



確かに。

今の俺が、昨日までと同じ感覚でボールを投げたら、どこまで飛ぶか分からない。

ドッジボールとかやったら、相手チームに怪我人が出るかもしれない。

握力測定器も壊すかもしれない。

スキルを使わなくても、レベルによる身体能力の上昇は無視できない。



(学校への申告まで必要なのか……)



市役所へ届け出た時点で、完全に隠し通せるとは思っていなかった。

それでも、学校内ではできるだけ普通の生徒として過ごしたかった。


俺は机の下で、そっと拳を握った。

スキルホルダーであることは申告するしかない。

だが、レベル五十三は隠す。

スキルの本当の効果も隠す。

まだ大丈夫。

秘密の核心部分は守れる。



「まあ、今日はまだ四月六日だ」



八代先生が、少し冗談めかした声を出した。



「新学期が始まって二日目だし、このクラスで、もう十七歳になった奴なんて……いるか?」



俺の肩が、ビクッと震えた。

教室内を見回す。

誰も手を上げない。



(どうする……?)



誕生日は、学校にも登録されている。

ここで隠したところで、名簿を確認されればすぐに分かる。

俺は観念し──



「……はい」



そーっと右手を上げた。

クラスメイトたちの視線が、一斉に俺へ集まる。



「おっ、門田か」



八代先生は、少し驚いた顔をした。



「そうか。お前、昨日が誕生日だったのか」


「はい……」


「十七歳おめでとう」


「ありがとうございます……」



全然めでたくない。

十七歳になった瞬間、俺の平穏な人生は木っ端微塵になった。

八代先生は、少しだけ身体を乗り出す。



「それじゃあ、一応聞いておくが……」



教室内の空気が変わった。

スキルホルダーへ目覚める確率は、約二十人に一人。

一クラスに一人、二人はいる、くらいの確率だ。

誰もが興味を持っているのだろう。


先生もどこか緊張した面持ちで、俺を見つめる。



「まさか、スキルまで発現してたりは……しないよな?」



最後は、冗談っぽい口調だった。

俺は手を下ろしたまま、固まった。


隠すべきか。いや──

市役所には、すでにスキルホルダーとして届け出ている。

探索者登録も済ませている。

学校が調べれば、すぐに分かる。

ここで嘘をつけば、かえって怪しまれる。



(スキルホルダーだってことだけなら……)



レベル五十三とは言わない。

一撃必死(マストダイ)】の事も言わない。

ダイナマイト練馬の正体でもない。

ただの新人スキルホルダー。

その設定で通せばいい。


俺は覚悟を決めると。

再び……そろーりと、右手を上げた。



「…………」



教室が静まり返った。

八代先生の口が、ぽかんと開く。



「……マジで?」


「はい……」



次の瞬間。



「うおおおおおおっ!?」


「マジかよ、門田!」


「スキルホルダー!?」


「すごーい!」


「昨日覚醒したばっかりってこと!?」


「ねえ、どんなスキル!?」


「もう市役所には登録した!?」


「探索者になるの!?」


「門田くん、有名人になっちゃうじゃん!」



教室中が、一気に沸いた。

席を立ったクラスメイトたちが、俺の周囲へ押し寄せてくる。



「ちょ、ちょっと待って!」


「スキル見せてくれよ!」


「ステータスどうなってんの!?」


「写真撮っていい!?」


「駄目です!」


「ねえねえ、テレビとか出るの!?」


「出ません!」



男子に肩を組まれ。

女子に質問され。

前後左右から身体を揺さぶられる。

隣では春日井さんも、目を輝かせていた。



「すごいよ、門田くん! スキルホルダーだったんだ!」


「すごくないです! 全然すごくないです!」



俺はもみくちゃにされながら、必死に否定した。

絶対に目立たない。

秘密を守る。

静かな学校生活を取り戻す。

そう決意してから、まだ十分も経っていない。


俺は騒ぎの中心で、力なく項垂れた。



「最悪だ……」

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