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最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第二章 板橋区の猫

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第12話 誰これ?

学校へ到着した俺は、駐輪場へ自転車を止め、校舎へ向かった。


廊下でも、やはり視線を感じた。

すれ違う女子生徒が振り返る。

別のクラスの女子たちが、こちらを見ながら小声で話している。



(間違いない。制服の着こなしが変すぎるんだ)



疑念が確証に変わる。

正直、今すぐ帰りたい。

しかし、ここまで来て引き返す方が目立つ。

俺はできるだけ早足で教室へ向かった。


二年三組の扉へ手を掛ける。

大丈夫。入って席へ座ればいい。

俺は生粋の陰の者だ。

いつも通り、誰とも話さず、静かに授業を受ける。

それだけだ。


俺は教室の扉を開けた。



「おはようございま──」



教室内の会話が、ぴたりと止まった。

クラスメイトたちの視線が、一斉にこちらへ集まる。



「…………」



長い沈黙が流れる。

次の瞬間。



「えっ!?」


「誰!?」


「ちょ、待って!」


「きゃっ……!」



女子の数人が、小さな悲鳴を上げた。



(やっぱり!?)



俺は身体を固くした。

始業式に遅刻。

その翌日には、サイズの合っていない制服で登校。

7部丈のパンツに、だらしなく胸元の開いたシャツ。

さすがに引かれたのだ。

高校二年生のスタートとして、最悪すぎる。



「お、おはよう……ございます」



なるべく目立たない声で挨拶し、自分の席へ向かう。

歩くたび、周囲の視線がついてくる。



「誰だ……あれ?」


「え? マジ!? モデル!?」


「昨日、あんな奴いたか?」


「ていうか、背高っ……」



何か話している。

聞き取らない方がいい気がする。

制服のサイズが合っていないとか。

胸元を開けて格好つけているとか。

そういう陰口に違いない。



(違うんです。イキって格好つけてるんじゃないんです。何故かボタンが閉まらないんです)



心の中で必死に弁解する。

もちろん、誰にも伝わらない。

俺は席へ座ると、できるだけ小さくなって教科書を開いた。



 ◇◆◇



午前中は、地獄だった。


授業中も、何度も視線を感じた。

特に女子から見られている気がする。

休み時間になると、何人かがこちらを見ながら話していた。

絶対、陰口だ。


一年生の頃、俺は基本的に一人で過ごしていた。

休み時間は本を読むか、スマートフォンを見る。

昼食も一人。

放課後も寄り道せず、すぐに帰宅。


二年生のクラスには、一年の頃に同じクラスだった生徒もほとんどいない。

誰も俺の顔を覚えていなくても不思議ではない。

だからこそ。


もしかして、頭のおかしい新入生が、急にニ年教室へ入ってきたと思われてるのか……?

二年生の教室へ迷い込んだ一年生。

それなら、先ほどの「誰?」という反応にも説明がつく。


いや──

なんなら、胸元が開いているせいで、校則を守らない不良生徒に見えている可能性もある。

どう考えても貧弱なボディなのに、無理してイキってる、なんちゃってヤンキー的な。



(早く制服買い直そう……)



俺はそう決意しながら、なるべく誰とも目を合わせずに昼休みまで耐えた。


昼休み。

弁当を取り出そうとしていると、隣の席の女子がこちらを見ていることに気づいた。


肩まで伸びた茶色い髪。

可愛らしい子だ。

朝から何度か目が合っていたが、そのたびに慌てて逸らされている。



(やっぱり、何か言いたいことがあるんだ……)



覚悟を決める。

制服の着方を注意されるのだろうか。

それとも、「胸元開けて格好つけるの、キモいからやめた方がいいよ!」とか忠告されるのか。

想像しただけで胃にスリップダメージが入る。


やがて女子は、意を決したように口を開いた。



「ね、ねえ!」


「は、はいっ」



思わず姿勢を正す。

女子の顔が、ほんのり赤くなっていた。



「門田くんって……転校生?」


「……え?」



意味が分からなかった。

俺の机の角には、ちゃんと名札が貼ってある。

それに彼女は今、「門田くん」と呼んだ。



「転校生ではないですけど……」


「えっ?」


「一年生の時から、この学校にいました」


「嘘っ!?」



女子が大声を上げた。

その声を聞きつけ、周囲の女子たちが一斉に集まってくる。



「何々?」


「この人、転校生じゃないんだって!」


「えっ!? ウソッ!?」


「一年の時からいたって!」


「嘘でしょー!?」


「こんなイケメン、去年いた!?」


「絶対いなかったよ!」


「いたら覚えてるもん!」



女子たちが、口々に騒ぎ始める。



「……イケメン?」



誰の話だろう。

俺は思わず周囲を見回した。

教室内に、新しい男子生徒でも入ってきたのだろうか。

しかし、女子たちは全員、俺を見ている。



「昨日の始業式もいた?」


「一応……遅刻して、後ろの方に」


「えー!? 見てない!」


「こんなに背が高かったら気づくでしょ!」


「モデルみたい!」


「ねえ、身長何センチ?」


「彼女いる?」


「部活やってるの?」



次々と質問が飛んでくる。



「えっ……いや……」



何だこれ。

怖い。


一年生の頃、女子からこれほど話しかけられたことは一度もない。

むしろ、必要な連絡事項以外で会話した記憶すらほとんどなかった。


ははーん。なるほど。

これは……新手のいじめか?


最初は褒めておいて、こちらが調子に乗ったところで梯子を外す。

そういう手口なのかもしれない。

だとしたら恐ろしい。

高校生の集団心理を甘く見てはいけない。


俺は鞄から出しかけていた弁当を、静かに机へ戻した。



「あの……ちょっと、トイレに行ってきます」


「あっ、待って!」


「まだ話したいことが──」


「すみません。も、漏れそうなので!」



俺は椅子から立ち上がると、女子たちの隙間を抜けた。

そのまま逃げるように教室を飛び出す。



「速っ!」


「足長っ!」


「やっぱり格好いい……!」



背後で何か聞こえたが、振り返る余裕はなかった。



 ◇◆◇



男子トイレへ駆け込む。

幸い、中には誰もいなかった。



「何なんだよ、昨日から今日にかけてずっと……」



俺は洗面台へ両手をつき、大きく息を吐いた。

通行人から見られ。

学校中で見られ。

教室へ入れば悲鳴を上げられ。

昼休みには女子に囲まれた。


やはり、昨日の事件で、俺の人生の何かが狂ってしまったのだろうか。



「制服、そんなに変かな……」



洗面台の正面には、大きな鏡がある。

そういえば、今朝は部屋の鏡が割れていたため、自分の姿をきちんと確認していない。


俺は顔を上げた。


鏡の中に、一人の男子高校生が映っていた。

高い身長。広い肩幅。

制服越しでも分かる、引き締まった身体。

首元の開いたシャツからは、これまで自分には存在しなかったはずの胸板が覗いている。

寝癖気味だった髪は自然に整い、ぼんやりしていた顔立ちは、輪郭も目鼻立ちもくっきりとしていた。


どこかの若手俳優か。

探索者の広告に出てくるモデル。

少なくとも、昨日までの俺とは別人だ。

いや、ベースは俺なんだけど、バリバリに修正された詐欺写真みたいだった。



「…………」



俺は後ろを振り返った。

誰もいない。

もう一度、鏡を見る。

鏡の中のイケメンも、同じように正面へ向き直った。


俺は右手を上げる。

鏡の中の男も右手を上げた。

頬へ触れる。

鏡の中の男も、自分の頬へ触れる。



「…………」



間違いない。

鏡の中にいるのは、俺だった。

俺はしばらく無言で、自分とは思えない顔を見つめた。


そして──


心の底から困惑しながら、呟いた。



「……誰これ?」

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