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最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第二章 板橋区の猫

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第11話 変わりゆく日常

四月六日。

朝から、テレビでは同じ映像が繰り返し流れていた。



『正体不明の覆面探索者、その名も──ダイナマイト練馬(ねりま)!』



画面いっぱいに、俺の出来立てホヤホヤの黒歴史が映し出される。


学ランを頭から被った怪しい男が、小石を投げる。

ダンジョンボスの赤黒いミノタウロスが大爆発する。

吹き飛ばされた覆面男が、石床の上をゴロゴロと転がる。


そして──



『お名前を教えていただけますか?』


『ダ……ダイナマイト練馬です』



朝の情報番組は、わざわざその場面を何度も再生していた。

一回でいいだろ。

悪意しか感じない。

いや、一回も放送しないでほしい。



『ダイナマイトという言葉には、自身の爆発系スキルに対する絶対的な自信が表れているのでしょうか』


『さらに練馬という地名を背負うことで、地域を守る強い決意を示している可能性もありますね』


「ありません……」



俺は半分焦げた床の上に座り、テレビへ向かって呟いた。

絶対的な自信なんてなかった。

地域を背負った覚えもない。

目に入った文字と、爆発から連想した単語を、三秒で適当に悪魔合体させただけだ。



『また、女子高生探索者の江戸川朱里(えどがわじゅり)さんは、命の恩人であるダイナマイト練馬さんとの再会を強く望んでいるとのことです!』


「やめてください……」



俺は両手で顔を覆った。

昨日から何度、この姿勢になっただろう。


十七歳の誕生日にスキルへ目覚め。

ゴキブリを爆破して警察沙汰になり。

嫌々ダンジョンへ入り。

最深部へ飛ばされ。

全国生放送で変異種ボスを爆殺した。


そして現在。

日本中が、存在しない覆面探索者を探している。



「最悪だ……」



何度口にしても、状況は良くならない。

むしろテレビをつけるたび、悪化している気がする。


俺はリモコンを手に取り、テレビの電源を切った。

急に部屋が静かになる。

その部屋も、かなりひどい状態だった。

窓ガラスは割れ、応急処置として貼ったブルーシートが春風にパタパタと揺れている。

壁紙は黒く焦げ、床の一部も陥没していた。

テレビが生きてたのも、奇跡だ。


ゴキブリ一匹を叩いただけで、どうしてここまでの被害になるのだろう。

改めて考えてみても意味が分からない。



「……学校、行かなきゃ」



時計を見る。

いつまでも落ち込んではいられない。

今日は普通に授業がある。

昨日は始業式へ遅刻し、その後すぐに早退してしまった。

高校二年生になって二日目から欠席すれば、担任に余計な心配をかけることになる。

今日出席すれば、明日は早速日曜日で休みだ。

目立ちたくないなら、いつも通り学校へ通うべきだ。



「普通にしよう。普通に」



俺は自分へ言い聞かせ、立ち上がった。


ダイナマイト練馬のことなど知らない。

昨日、全国を騒がせた覆面探索者とも無関係。

俺はただの高校二年生、門田露澪(かどたろみお)

平穏な公務員生活を目指す、ごく普通の男子高校生だ。


床に置いていた制服へ手を伸ばす。

昨日、ダンジョンの土埃や煙で汚れてしまったため、帰宅途中にコインランドリーへ寄って洗濯しておいたものだ。

学ランには少し焦げ跡が残っていたが、着られないほどではない。

俺はまず、制服のズボンへ足を通した。



「……ん?」



何かがおかしい。

腰まで引き上げ、ベルトを締める。

サイズは合っている。

いや──

腹回りは、むしろ以前より少しゆるい気がする。

だが、問題はそこではなかった。



「短くない?」



ズボンの裾が、足首よりかなり上にある。

くるぶしどころか、脛の下の方まで見えていた。

制服というより、七分丈のパンツだ。



「なにこれ……」



洗濯前は、普通に足首まで届いていたはずだ。

少なくとも、こんな季節を先取りした涼しげなデザインではなかった。



「乾燥機って、こんな縮むの?」



昨日使ったコインランドリーの乾燥機が、かなり強力だったのだろうか。

制服を乾燥機へ入れるべきではなかったのかもしれない。

洗濯表示なんて確認していなかった。

こういう時、一人暮らしは困る。

聞ける相手がいない。



「まあ……今日だけ我慢するか」



新しい制服を買うにしても、今すぐには無理だ。

俺はシャツを着て、ボタンを下から留めていく。

だが、胸元まで来たところで手が止まった。



「……んん?」



ボタンが届かない。

無理に引っ張れば、布が破れそうになる。

腹回りは問題ないのに、胸と肩だけが妙にきつい。

袖も短くなっており、手首が完全に見えていた。



「シャツまで縮んでる……」



恐るべし、業務用乾燥機。

制服をここまで別物へ変えてしまうとは。


最後のボタンを留めることは諦め、胸元を少し開けたまま学ランを羽織る。

しかし、学ランも肩がきつい。

ボタンを閉めると息苦しくなるので、前は開けておくことにした。



「……確実に、ダサいな」



窓ガラスへ目を向ける。

正確には、窓ガラスがあった場所だ。

昨日の爆発で粉々に割れ、今はブルーシートが貼られている。

部屋にあった小さな姿見も、爆発の衝撃で倒れ、細かくひび割れて処分したばかりだった。

そのため、全身を確認することはできない。


まあ、見なくても分かる。


裾の短いズボン。

袖の短いシャツ。

胸元は開き、学ランの前も閉じられない。

完全に制服のサイズ選びを間違えた人だ。



「学校で笑われそう……」



気が重くなる。

だが、休む理由にはならない。

俺は少し窮屈になった靴へ足を押し込み、鞄を持って部屋を出た。



 ◇◆◇



アパートの駐輪場から自転車を引き出す。

サドルへ跨がった瞬間、また違和感があった。



「……低くない?」



膝が妙に窮屈だ。

これまではちょうど良い高さだったのに、今日は足を動かしにくい。



「……昨日の爆発で、サドル下がった?」



爆発の時、自転車は駐輪場にあった。

さすがに部屋の中の爆風が、屋外の自転車まで歪ませることはないだろう。


でも、他に理由が思い浮かばない。


俺はサドルを少し高く調節してから、学校へ向かって走り出した。

ペダルを踏む。



「おっ……?」



自転車が、勢いよく前へ飛び出した。



「うわっ!」



予想以上の加速に、慌ててハンドルを握り直す。

昨日までより、ペダルが異様に軽い。

坂道へ入っても速度がほとんど落ちなかった。

いつもなら息を切らしながら上る坂を、平地と変わらない感覚で進んでいく。



「この自転車、こんな性能よかったっけ……?」



長年使っている安物のママチャリだ。

突然、電動アシスト機能が生えるはずもない。

昨日のダンジョンで足腰が鍛えられたのだろうか。

それにしたって、効果が早すぎる気がする。



「レベルが上がった影響かな……」



そう考えかけて、すぐに頭から追い出した。

今は学校へ向かうことに集中しよう。

レベルやスキルのことは、帰ってからゆっくり確認すればいい。

昨日から色々ありすぎたせいで、俺の頭はもう処理能力の限界だった。



「……ん?」



信号待ちで自転車を止める。

歩道に立っていた女子大生らしき二人組が、こちらを見ていることに気づいた。

片方が俺と目を合わせる。

すぐに友人へ顔を寄せ、何かを囁いた。

二人が、またこちらを見る。



(やっぱり制服、変なのかな……)



七分丈のズボンで自転車に乗っている男子高校生。

確かに目立つ。

胸元も開いているし、学ランの袖も短い。

イキって着崩し過ぎた制服を着ているイタい男子高校生に見えるのかもしれない。



(朝から恥ずかしいな……)



俺は顔を伏せ、信号が変わるのを待った。

やがて青になり、急いで自転車を発進させる。


だが、その後も視線を感じた。

通学途中の女子高校生。

犬の散歩をしている若い女性。

コンビニの前にいた女性店員。

やけに女性から見られる。



「俺、そんなにダサい……?」



制服が縮んだだけで、ここまで注目されるものだろうか。

別の可能性が頭をよぎる。



(まさか、ダイナマイト練馬(ねりま)の正体が……バレた……?)



いや──

昨日の俺は、学ランを頭から被っていた。

顔は映っていないはずだ。

声だって覆面越しでくぐもっていた。

そもそも、俺がダイナマイト練馬だと分かる証拠はない。


でも、学ラン姿だった。

練馬区内。高校生らしい体格。

その条件から、近隣の男子高校生が疑われている可能性はある。



(もし俺の学校まで特定されてたら……)



急に怖くなってきた。

通行人の視線が、すべて正体を見抜いた人のものに思えてくる。

俺はなるべく目立たないよう、背中を丸めて自転車を走らせた。

もっとも、今の俺が背中を丸めても、あまり小さくは見えなかったのだが。


この時の俺は、まだそれに気づいていなかった。


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