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最強スキル【一撃必死】を授かったけど、一日五発撃たないと俺が死にます ~爆死回避のため、今日も現代ダンジョンに潜ります~  作者: 難波一@『真祖竜転生』発売中!
第一章 伝説の始まり

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第10話 伝説が生まれた日

都内某所。

江戸川グループ本社最上階。


巨大なモニターに映し出された中継映像を、一人の男が険しい表情で見つめていた。


江戸川グループ総帥。

江戸川剛蔵(えどがわごうぞう)

朱里の父親であり、国内有数の財界人でもある。


画面の中では、何度目かの再放送として、覆面の人物が石を投げる場面が流れていた。


石が命中した途端、変異種が爆発。

そして、巨大なクレーターだけが残る。



「……ダイナマイト練馬(ねりま)



剛蔵は低い声で、その名を口にした。

娘を救ったことには、心から感謝している。

だが──


最深部へ突然現れ。

未知の変異種を一撃で討伐し。

素性を隠したまま、名誉も報酬も求めず立ち去った。


偶然迷い込んだ一般探索者とは、到底思えない。

しかも、娘のダンジョン攻略が全国放送される日に現れた。

娘の晴れ舞台を狙い、意図的に乱入した可能性も否定できない。



「何者だ……?」



剛蔵は背後に控えていた秘書へ視線を向ける。



「調べろ」


「ダイナマイト練馬について、でしょうか?」


「そうだ。所属、経歴、目的、すべてだ」


「しかし、本人の申告した名前が本名とは……」


「本名なわけがないだろう」



剛蔵は即答した。

秘書も眼鏡の位置を直し、静かに頷く。



「かしこまりました」


「娘の命を救った恩人ではある。無礼な真似はするな。だが、正体不明のまま放置することもできん」


「必ず見つけ出します」


「ああ……必ずだ」



モニターの中。

学ランを頭から被った怪しい男が、情けない走り方で逃げていく。

剛蔵は鋭く目を細めた。



「ダイナマイト練馬……。お前は、いったい何者だ」



 ◇◆◇



同じ頃。


救護班による治療を受けながら、朱里は何度もボス部屋の出口へ視線を向けていた。


もちろん、そこに覆面の青年の姿はない。

護衛の探索者たちが追いかけたものの、結局、彼を見つけることはできなかったらしい。



「江戸川さん、少し染みますよ」


「あ……はい」



救護班の女性が額の傷を消毒する。

普段の朱里であれば、痛みなど顔に出さず、治療が終わるまで静かに座っていただろう。


だが今は、まるで集中できなかった。

頭の中に浮かぶのは、先ほどの出来事ばかりだ。

ほんのわずかな時間しか話していない。


顔も見ていない。

声も、学ランの覆面越しにくぐもっていて、はっきりとは覚えていない。


分かっているのは、巨大な変異種を小石一つで倒したこと。

そして、自分を助けたあと、名誉も報酬も求めずに立ち去ったことだけだった。



「ダイナマイト練馬(ねりま)さん……」



小さく、その名前を口にしてみる。

少しだけ変わった名前だと思う。

いや、正直に言えば、かなり変わった名前かもしれない。


だが、朱里にとっては不思議と格好悪く聞こえなかった。

むしろ、その名前を思い浮かべるだけで、胸の奥がくすぐったくなる。



「……どうしたのかしら、私」



自分の胸元へ、そっと手を当てる。

心臓が、まだ速く脈打っていた。


戦いの直後だから。

怪我をしているから。

きっと、そういう理由なのだろう。

朱里はそう考えようとした。


けれど──


あの青年が変異種の前へ立った瞬間を思い出すたび、心臓はさらに強く跳ねた。


江戸川グループ総帥の娘。

練城学園の生徒会長。

高校生でありながら、スキルホルダーに目覚めてから僅か一年でB級へ昇格した、将来有望な探索者。


朱里は、幼い頃からずっと「強くあらなければならない」と教えられてきた。

人前で弱音を吐かない。

期待を裏切らない。

誰かに守られるのではなく、自分が皆を守る。

それが当然だと思っていた。


学校でも。

探索者としても。

いつだって自分は、誰かの前に立つ側だった。


だから──



「初めて、だったかもしれないわ……」



自分を守るために、誰かが前へ立ってくれたこと。

倒れて動けない朱里を守るため、恐ろしい怪物を自分へ引きつけた。

あの背中を思い出す。


格好いい装備を身につけていたわけではない。

立派なマントを翻していたわけでもない。

頭から学ランを被った、とても不思議な姿だった。


なのに──

朱里には、これまで見たどんな探索者の背中よりも、頼もしく見えた。



「大丈夫ですか、って……」



助けた直後、彼が最初に口にした言葉。

自分が起こした爆発に驚き、全国放送に慌てながらも、真っ先に朱里の怪我を心配してくれた。

それを思い出すと、頬がじわりと熱くなる。

朱里は誰にも気づかれないよう、そっと俯いた。



「江戸川さん? お顔が赤いようですが、熱でも?」


「い、いえ! これは、その……戦闘直後だからです」



思わず、いつもより大きな声が出た。

救護班の女性が不思議そうに瞬きをする。

朱里はますます顔を伏せた。


おかしい。

こんなことで動揺する自分など、今まで知らなかった。


もう一度会えたら、何を話せばいいのだろう。

まずは、きちんとお礼を伝えたい。

怪我はなかったのか確かめたい。

どうして最深部にいたのかも聞きたい。


それから──

あの覆面の下に、どんな顔が隠れているのかも──少しだけ気になった。



「ダイナマイト練馬(ねりま)さん……」



もう一度、名前を口にする。

今度は先ほどよりも、ずっと優しい声になった。



「もう一度、お会いしたいわ……」



朱里は胸元へ手を置き、まだ収まらない鼓動を感じながら、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。



───────────────────



翌朝。


半分焦げた六畳一間の部屋で、俺はテレビを見ていた。

割れた窓にはブルーシート。

壁紙は黒焦げ。

昨日のゴキブリ爆発の傷跡が、まだそのまま残っている。


テレビでは、朝からどの局も同じ映像を流していた。



『昨日、練馬区第三ダンジョンの最深部にて、未確認の変異種が出現しました』


『絶体絶命の江戸川朱里さんを救ったのは、突如現れた謎の覆面探索者!』


『変異種を一撃で爆破した、驚異のスキルとは!?』


『そして、本人が名乗った名前は──』



画面いっぱいに、太い文字が表示される。



【謎の覆面探索者 ダイナマイト練馬(ねりま)


ババァーーン!!



「…………」



俺はリモコンを握ったまま、固まっていた。



『現在、SNSでは“ダイナマイト練馬”がトレンド一位!』


『正体は有名なS級探索者ではないか、海外から来たエージェントではないかなど、様々な憶測が飛び交っています!』


『専門家は、ダイナマイトという名前に、爆発系スキルへの絶対的な自信が表れているのではないかと──』


「違う……」



苦し紛れに考えた名前だ。

自信なんて1ミリもなかった。

むしろ、言った直後から猛烈に後悔している。



『江戸川朱里さんは、命の恩人であるダイナマイト練馬(ねりま)さんとの再会を強く望んでいるということです!』


「やめて……」



テレビには、昨日の映像が繰り返し流れている。


学ランを頭から被った俺。

石を投げる俺。

爆発に吹き飛ばされる俺。

ダイナマイト練馬と名乗る俺。

叫びながら逃げる俺。


全国に。全部。流れている。



「最悪だ……」



俺は両手で顔を覆った。


こうして──

十七歳の誕生日に探索者になった俺は、わずか一日で……


日本中から正体を追われる、謎の覆面探索者になってしまった。

第一章終了です。

明日からは、第二章を1日1話ペースで更新予定です。

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