第20話「出発」
翌朝。
地下研究施設。
ルーカスはバッグを背負い、最後にブレイカーの状態を確認していた。
「問題なし」
ジェイクも準備を終えている。
「こっちも大丈夫だ」
ミリアは端末を確認する。
「工場までのルートはこれで行ける」
画面には街の地図が表示されている。
「なるべく大きな道路は避けるわ。ロボットと遭遇する可能性が高いから」
「分かった」
三人は地下研究施設を出る。
地上へ続く階段を上がる。
扉の前でルーカスが立ち止まった。
「……行くか」
ジェイクが頷く。
「おう」
扉を開ける。
ギィィ……
朝の街が目の前に広がった。
しかし、そこには以前の光景はなかった。
道路には放置された車。
割れた窓。
倒れた信号機。
店のシャッターは閉まり、街には人の姿がほとんどない。
ルーカスは黙って周囲を見る。
「……昨日まで、普通だったのにな」
ジェイクも黙り込む。
ミリアが小さく息を吐く。
「ロボットの暴走が始まってから、街全体が止まってしまったみたい」
三人は歩き始める。
しばらく進んだところで、遠くから音が聞こえてきた。
ガシャン。
ジェイクが足を止める。
「今の……」
「ロボットかもしれない」
三人は近くの建物の陰へ隠れる。
道路の向こうから、一体のロボットが歩いてくる。
人間を助けるために作られたはずの機械。
しかし今は、腕に血が付いている。
ジェイクが拳を握る。
「……あいつ、何をしたんだ」
ルーカスが小声で答える。
「分からない。でも、見つからない方がいい」
ロボットは周囲を確認している。
三人は息を潜める。
やがてロボットは別の通りへ進んでいった。
足音が遠ざかる。
ジェイクが息を吐く。
「行ったな」
「今のうちに進もう」
三人は再び歩き出す。
だが、少し進んだところでミリアが立ち止まった。
「待って」
「どうした?」
「この先……通信信号が強くなってる」
ルーカスが工場の方向を見る。
「近づいてるってことか」
「そう」
ジェイクが周囲を見る。
「じゃあ、工場が近いんだな」
三人は歩く速度を少し上げる。
すると、前方から声が聞こえた。
「誰かいる!」
ルーカスたちが振り返る。
道路の先。
建物の陰から、一人の少年が走ってくる。
その後ろには――
二体のロボット。
「助けて!」
少年が叫ぶ。
ジェイクが動こうとする。
「ルーカス!」
ルーカスは一瞬、足を止めた。
昨日までなら、逃げていた。
ロボットに襲われるのが怖かった。
今だって怖い。
それでも――
ルーカスは拳を握る。
「……ジェイク」
「分かってる」
ジェイクが走り出す。
ルーカスもブレイカーを起動する。
カチッ。
青い光が腕を包む。
ミリアは少年の方へ走る。
「こっち!」
少年がミリアのもとへ駆け込む。
ロボットがこちらへ向きを変えた。
一体が腕を振り上げる。
ルーカスが前へ出る。
「させるか!」
拳を叩き込む。
ドゴン!
ロボットの腕が弾かれる。
しかし、もう一体が横から迫る。
ジェイクが飛び込む。
「こっちは俺がやる!」
ジェイクが金属棒を振る。
ガンッ!
ロボットの頭部に当たる。
だが、ロボットは倒れない。
「硬すぎるだろ!」
ルーカスが振り返る。
「ジェイク、離れろ!」
「分かった!」
ジェイクが後ろへ下がる。
ルーカスはロボットの動きを見る。
昨日の訓練を思い出す。
相手だけを見るな。
周囲の動きを感じる。
ロボットが腕を振る。
ルーカスは横へ避ける。
そのまま懐へ入り込む。
「ここだ!」
拳を叩き込む。
ドゴォン!
ロボットの胸部が大きくへこむ。
動きが止まる。
もう一体が迫る。
ルーカスは振り返る。
「今度は……!」
しかし、そのロボットの動きが突然止まった。
「……?」
ミリアが端末を見る。
「待って!」
ロボットの身体から、小さな電子音が鳴る。
ピッ……ピッ……
そして――
二体とも、突然こちらに背を向けた。
「逃げる?」
ジェイクが驚く。
ロボットはそのまま走り去っていく。
ルーカスは拳を下ろす。
「何だったんだ……?」
ミリアは端末を確認する。
「通信信号が変わった」
「工場から?」
「ええ」
三人はロボットが去っていった方向を見る。
少年が震えながら口を開く。
「……あいつら、あの工場の方から来た」
ルーカスたちは顔を見合わせる。
第七自動化工場。
その内部で何かが起きている。
そして、その何かは街のロボットたちにも影響を与えている。
ルーカスは工場の方角を見る。
「急ごう」
三人は再び歩き始めた。
第七自動化工場は、もう遠くない。
第20話 完




