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七海、小説を発掘される(七海視点)

 

【グループチャット】


 瑞希:ねえ、七海ちゃんの部屋でさ……見つけちゃったよ?古いノートPCの「鏡の夜に咲く人.txt」ってやつ……。

 飛鳥:うわ、それ絶対やばいやつじゃん。ほうほう……。地味主人公が、魔法で美少女になって舞踏会行くと?

 七海:ちょっと!なんで開いたんですか!?あれ……高校のときの黒歴史で……。

 瑞希:いやいや、これはもうね、発掘レベルよ。これを七海ちゃんが書いたんだと思うとね……。

 飛鳥:シンデレラまんまではあるけどね……。七海がキーボード打ってる姿を想像するとさ……。

 七海:ほんとやめてくださいっ……!もう恥ずかしくて消したかったのに……。

 瑞希:でも、わたし、ちょっと泣きそうになった……。「わたしそのものを、誰かに見つけてほしい」ってところ。

 飛鳥:……うん、実はちょっとわかる。名前を名乗るところいいよね。

 七海:……ううう、そういうのが一番照れます……。

 瑞希:じゃあ、これで決まりだね?来週のグループ発表は「鏡の夜に咲く人、全文朗読会」

 七海 :ほんとにやめてくださーーーーーーーーいっ!!!


 * * *


 『鏡の夜に咲く人』


 月は、ひっそりと白い涙をこぼしていた。王都の屋根の上で、光は薄い霧のように流れて、その下を歩く少女の外套を淡く照らした。リオラ──灰色の髪、色のない瞳、地味な裾。物語に出てくる誰よりも目立たず、彼女自身もそれを望んでいた。

「わたしみたいな子は……誰にも選ばれないのが、自然なんです」

 そう呟いた夜、ひとりの魔女が彼女の前に現れた。

「ねぇ、本音では、選ばれたいでしょう?」

 魔女の声は、夜の飴のように甘く、とける。リオラの胸の奥まで滑り落ちていった。少女は言葉を失う。否定できなかった。本当は──誰かに、ただひとりに、見つけてほしかった。魔女は指先でリオラの頬に触れた。白い光が、花のように咲いた。

「一夜だけよ。あなたの“本当の美しさ”を形にしてあげる」

 そして、月鏡の魔法は静かに開いた。灰色の髪は夜明け前の銀へ変わり、瞳には複雑な星の光が宿る。影のようだったドレスは、月光を纏った薄布へ姿を変え、歩くたび、静かな水面のように揺れた。鏡の中には、可憐で美しい少女がいた。

「……これが、わたし……?」

 魔女が微笑む。

「違うわ。これは“あなたを誰かが見つけるための姿”。美しさはね、見つけてくれる人がいて、初めて芽を出すものなのよ」


 その夜、舞踏会──王宮の大広間は星の海のようだった。足を踏み入れた瞬間、空気がひとつ、小さく震えた。楽士たちの弓がわずかに遅れ、踊っていた貴婦人たちは振り返り、周囲の視線が、まるで磁石に吸い寄せられるかのようにリオラへ集まった。誰もが息を呑んだ。銀糸の髪が揺れるたび、月光をすくったような光が滴る。

「……あれは誰だ……?」

「見たことのない娘だ……妖精のようだ……」

 囁きが花びらのように広がり、大広間の時間が、ほんの一瞬止まった。そして。王子セヴランは彼女を見つけた瞬間、息を止めた。

「……あなたは……」

 その声は祈りと錯覚するほど静かで、触れれば壊れてしまうほど繊細だった。

「すべての光が……あなたを中心にしている」

 リオラは信じられず、うつむいた。王子は手を差し出す。

「名を教えて。たとえ魔法が解けても……たとえ姿が変わろうとも……あなたを探すために。あなたの声も、話す言葉も、もっと知りたいんだ」

 胸の奥が強く震えた。魔法が終わったら、ただの地味な自分に戻ってしまう。見た目だけで愛されては意味がない。そのはずなのに、彼の言葉はどこまでもまっすぐだった。月鏡の魔法は、いずれ終わりを告げる。けれど、リオラは気づく。選んでほしかったのは、外見ではない。この胸の奥の「わたしそのもの」を誰かに見つけてほしいと願っていたのだ。

「……わたしは……リオラです」

 その名を聞いた王子の瞳が、溶けた。まるで長い旅路の果てに探し続けた者をやっと見つけたように。手が触れ合う。光が結ばれる。そしてリオラは思った。もし明日、もう一度会えたなら。


 ***


 ──視点:七海


 スマートフォンの画面を閉じ、わたしは夜の暗がりのなかで、そっと自分の左手を見つめた。指にはめられたEmopulseのリングが、持ち主のひそかな動揺を検知したように、熱を帯びて小さく明滅している。王子様に見つけてほしかった灰色の少女は、もう、おとぎ話のなかにだけいるわけじゃない。わたしは、ベッドのなかで小さく膝を抱えた。

(誠さん……)

 一度知ってしまったぬくもりを、もう、手放せるはずがなかった。思い切って、誠さんに向けてメッセージを打つ。逡巡して、書いては消して、でも最後はこれだと言うものを送って。送信した後も動悸が止まらず、スマートフォンをしばらく抱きしめていた。


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