3人で出かけた休日(瑞希、飛鳥、七海それぞれの視点)
【グループチャット】
瑞希:ねえねえ!!次の土曜、三人でどっか行かない?まーくん忙しくてNGだって言うしさ。カフェでも映画でも、なんでもいいよ〜!ひさびさに“女子だけの日”やりたい!!
飛鳥:……は?なんで急に。行けなくはないけど。ていうか瑞希、テンション高すぎ。
瑞希:えっちょっと、飛鳥ちゃん今“行けなくはない”って言ったよね?はい実質OK〜!
飛鳥:言ってない。……いや、言ったけど。あんたに勝手に解釈されるのがイヤなだけ。
七海:ふふ。でも、わたしも賛成です。三人でゆっくり過ごす休日、ずっと作りたかったので……。とても楽しみですよ。
瑞希:ほらーーー!!七海ちゃんが乗り気ってことは正義なんだよ、飛鳥ちゃん!
飛鳥:うるさい。別に行くって言ってんだから、黙って決めなよ。
瑞希:はいはい、ツンツン発動きたーー。でも可愛いから許す。
飛鳥:許さなくていい、あと可愛いとか言うな!
七海:行き先はどうしましょうか?カフェ巡りでも、雑貨屋さんでも、音楽のお店も……三人ならどこでも楽しそうです。
瑞希:絶対楽しい!!昼はカフェ→雑貨→レコード屋→夜はどっかでご飯……どう?
飛鳥:悪くはない。……ちょっと、楽しそうだし。
七海:とても素敵だと思います。その……みなさんと一緒に過ごす時間、大切にしたいので。
瑞希:七海ちゃん、そういうことさらっと言うのズルいんだよ〜。飛鳥ちゃんは?
飛鳥:……まあ。別に、嫌じゃないよ。
瑞希:はい決定!!土曜は“女子会デー”ね!
飛鳥:女子会……まあいいけど。ただし、食べるもの選ぶのは任せないから。
瑞希:はーい、飛鳥ちゃんはすぐ味に厳しい〜。でもそこ含めて好き!
飛鳥:……っ(もう知らない)。
七海:ふふ。では土曜日、楽しみにしていますね。三人で素敵な一日にしましょう。
* * *
──視点:瑞希/午後・カフェにて
ああ、やっぱり好き。このテーブルの賑やかさも、皿の上に踊るベリーのソースも。そして、目の前にいるふたりの表情も──愛しくて、愛おしくて、たまらない。
「ねえねえ、見てこれ。期間限定の苺ブリュレパンケーキだって。ね?絶対頼むやつでしょ」
わたしはメニューを指で軽くトントンと叩きながら、ふたりの反応をうかがった。飛鳥ちゃんは案の定、少し眉を寄せて、
「甘すぎないといいけど……ここ、盛り付けだけ豪華なやつじゃなかったっけ」
それでもちゃんと目線はパンケーキの写真に吸い寄せられてる。そういうとこ、ほんと可愛いなって思う。七海ちゃんはふんわり微笑んで、
「でも、ふたりと一緒なら何食べてもおいしいです、わたし」
なんて、ほんとに天使みたいなこと言うんだから。わたしたちは3人分のスイーツと、飛鳥ちゃんの主張でしっかりジェノベーゼのパスタもひとつ頼んで、あっという間にテーブルはカラフルな世界になった。
「やっぱこういう時間、すきだなぁ……まーくんいたら、全部食べさせてって甘えてそうだけど」
なんとなく名前を出してしまってから、わたしはすぐに小さく唇を噛んだ。でも、ふたりは何も言わずに笑ってくれる。
「ま、たまにはこういうのも悪くないよ」
飛鳥ちゃんが小さなフォークでティラミスをすくいながら、目だけこちらを見た。
「……うん。ほんとに」
七海ちゃんも同じように、そっと目を細めた。ねえ、気づいてる?こうして3人だけでいると、まるで世界がここに完結してるみたいで──わたし、少しこわいくらいに幸せなんだよ。
* * *
──視点:飛鳥/夕方・レコード屋にて
ジャケットの棚を見つめる。その色の滲みや、角の欠け方、ラミネートの反射。触れたこともないレコードのくせに、なんだか懐かしいのが不思議。
「飛鳥ちゃん、それなに?可愛いジャケ」
瑞希がすぐ横から覗き込んでくる。ちょっと近いよ、って思いながらも、わたしは指先でタイトルを隠した。
「……別に。たまたま、目についただけ」
そこにあったのは、昔、何度も夜に聴いたやつ。低いノイズのあとに、深く沈む声。夜の道路と、湿った髪と、思い出したくもない夏といっしょに、全部こすれて染みついた音だった。
「でもその、いいジャケットですね」
七海が、少し遠慮がちに言う。あの子はたぶん、わかってる。音楽って、聴いてた時の自分ごと、全部ひっくるめてくるから。
「わたしね、音楽って、戦ってるときにしか必要じゃなかった」
誰に言うでもなく、わたしはそう口にしていた。
「ひとりでいる夜に、強くなりたくて、そういう音を耳に入れてた」
「強くなれた?」
瑞希が、半分ふざけて聞いてくる。わたしは首を振った。
「なれてない。だからまだ、聴いてる」
少し笑って言うと、ふたりは何も言わずに、そばにいた。目に見えない距離感が、なんとなくやさしかった。
* * *
──視点:七海/夜・部屋にて
3人並んで、ひとつのベッド。小さなスピーカーから、静かな音が流れている。
「これ、わたしが最近よく聴いてるやつです」
手元の端末をそっと差し出す。水面に小石を落としたような音。それは、ほとんど気づかれないまま空気に溶けていく。──ピアノ、弦、わずかなノイズ。いまこの空間と、わたしの呼吸と、ちゃんと重なってくれる音。
「七海って、こういうの聴いてるんだ」
瑞希の声は、どこかうれしそうだった。
「たぶん、わたし……現実の音よりも、頭の中の音を聴くのが好きなんです。ピアノとか、環境音とか、そういう今ここから“遠い世界”を想像していたくて」
「遠い、か」
飛鳥さんがぽつりと返す。でもその声は、責めでも呆れでもなく、たぶん理解だった。
「でも……」
わたしはゆっくり、リストをスクロールする。
「ほんとうは、こういうのも……ずっと好きで」
指が止まる。そこには、色褪せたキラキラのジャケット。ツインテールの女の子。星のシルエット。ピンクと水色。瑞希さんと飛鳥さんが、同時に声を上げた。
「え、なにこれ可愛い!」
「……ってか、これ知ってるやつじゃん」
「す、すみません……これはその、昔からずっと好きで……」
わたしはちょっとだけうつむいた。
「歌詞が、すごく乙女なんです。誰かを想うだけで胸がいっぱいになったり、ひとりで鏡の前で練習したり……わたし、そういうのに……ずっと憧れてて」
「七海……」
瑞希さんが肩に寄りかかってくる。飛鳥さんはクッションで顔を隠しながら、笑ってた。
「だいじょうぶ。あたしたちも、そうだったから」
夜のスピーカーから、懐かしいイントロが流れる。ありふれた音。けど、胸が鳴る。誰にも見せなかった「わたしの世界」を、ふたりと分け合えた気がした。
* * *
【グループチャット】
瑞希:ねえ、昨日さ……めっちゃよかったよね?
飛鳥:なにが。
瑞希:なによ~。音楽の話、あんなにできたのって初めてじゃない?
七海:ふふ……わたしも、ちょっとどきどきしてました。
飛鳥:七海があんなの好きだなんて、反則でしょ。
瑞希:あれはズルい。完全にやられた。
飛鳥:あたし、あのピンクのジャケ見た瞬間、ふきそうになったし。
七海:……恥ずかしいです……。
瑞希:でもわかるよ。わたしも、小さい頃ずっと歌ってたなぁ。
飛鳥:部屋で髪とか巻きながら、歌詞口ずさんでそう。
七海:それ、まさにわたしです……。
瑞希:いやでも本当に、なんかさ。こういうのって、誰かと話すとまた好きになれるね。
飛鳥:あとさ、たぶん、あたしたちけっこう相性いいよ。
七海:えっ?
飛鳥:だって、ジャンル全然違うのに、ちゃんと聴き合えるじゃん。
瑞希:たしかに……!ねえ、今度それぞれのプレイリスト交換しない?
飛鳥:いいけど、ちゃんと覚悟しといてよ。
七海:ふふ……わたしのも、きっとまた笑われちゃう。
瑞希:笑わないよ~。大事なものって、ぜんぶちょっとダサくて、だけどキラキラしてるんだって思ったもん。
飛鳥:……そういうとこ、ほんと主人公っぽいよね瑞希。
瑞希:え~もう、褒められたってことでいい?
七海:ふふ……。なんだか、昨日の夜は、ずっと思い出に残りそうです。




