ファミレスにて、パフェ集会
「……なんでここに集まるのよ」
ファミレスにて、飛鳥が不満そうに腕を組んでいる。今日はバイトは入っていないのに、どうして自分の職場を選ぶのかといった表情だ。
「いいじゃんいいじゃん。前から来たかったんだよね、このお店」
瑞希は軽いノリで笑いながらメニューをめくっている。やがて四人が揃って席につくと、七海が鞄から小さな紙袋を取り出した。上品なリボンで結ばれた箱が、テーブルの上にそっと置かれる。
「こないだのお礼です、瑞希さんへ。洋梨とチーズのケーキなんですけど」
「えっ、わたしに?やったー!」
瑞希は子どもみたいに目を輝かせ、すぐに袋を抱きしめた。
「あとで開けて写真撮ろっと」
と言いながら、嬉しそうに頬を緩めている。誠も続けて、もう一つの紙袋を差し出した。
「これは俺から。飛鳥に。マカロン、口に合うかなって」
「……まあ、ありがとう」
受け取った飛鳥は視線をそらし、どこか煮え切らない声を出す。
「なにその反応!もっと喜べよー!」
瑞希がすかさず突っ込みを入れると、飛鳥は肩をすくめた。
「なんだよもー。食べ物で調伏しようとすんなよ」
「じゃあ、いらない?」
誠がとぼけて言うと、飛鳥は慌てて声を張り上げた。
「いるよ!食べるよ!」
その勢いに、思わず全員が笑い出す。店内に明るい笑い声が響き、テーブルの空気は一気に和んでいった。
***
「……わたし、パフェ食べる!」
唐突に瑞希が宣言した。すでにさっきスイーツをもらって喜んでいたのに、飛鳥は呆れ顔でため息をつく。
「またそんなの……本当よく食べるよね……」
けれど流れで、
「じゃあみんなでパフェ頼もう」
となり、テーブルには色とりどりのパフェが並ぶことになった。誠が
「ちょっと、俺たち目立ってないかな、注目されてない?」
と小声で言うが、瑞希は意に介さず。
「はやく食べようよー、あと少しちょうだい?」
と呑気に言う。スプーンを手にした飛鳥が、ふいに口を開く。
「……ナイトプール、どうだった?」
七海は一瞬驚いた顔をしたあと、はにかみながら答えた。
「すごく……楽しかったです」
その声音に、飛鳥の胸がきゅっと鳴る。思わず小さな声で
「……羨ましい」
と漏らしてしまう。
「なに言ってんの、わたしたちだってデートしてビュッフェ満喫したじゃん!」
瑞希が元気よく声を上げる。
「……だからデートじゃねえし」
飛鳥が即座に否定する。そのやりとりに、七海と誠は思わず顔を見合わせ、微笑んだ。
***
「そのあとさー、夜のお台場を散歩して、飛鳥ちゃんと永遠の愛を誓い合ったわけよ」
瑞希がわざとらしく声を張る。
「愛はないから。友達だから」
「うんうん、永遠の友情を契り合ったんだよね。エモエモだったね」
「……ちぎってないから。むしろ有限性の話をしたんだよ」
冷淡なトーンの返しに、瑞希はめげずに続ける。
「でもさ、桃園で誓い合ったじゃん?生まれた時は違っても、死ぬ時は同じだ的なやつ。歴史にも残ってるんだよ?」
「してないから。それは三国志演義で、小説だから。歴史じゃないから」
「つめたいー」
「つめたくない」
瑞希のマシンガントークに、飛鳥の即ツッコミが重なる。そのテンポの良さに、七海と誠は堪えきれず、声を出して笑った。
***
パフェの上の苺をつついていた七海が、ふとスプーンを止めた。少しだけ迷うように唇を噛んでから、控えめに声を出す。
「……あの、実は……書いている小説のことなんですけど、皆さんに読んでもらってるだけでなく、最近はネットに投稿してるんです」
唐突な告白に、三人の手が一斉に止まった。
「えっ!」
瑞希と飛鳥が同時に声を上げる。
「全然マイナーなんですけど……。でも、時々いいねとかブックマークをいただけるとすごく嬉しくて」
七海は頬を赤らめながら、恥ずかしそうに笑った。
「素敵じゃん。それ、めっちゃ励みになるよね」
瑞希が身を乗り出して頷く。飛鳥も驚いた表情のまま、口元をわずかにほころばせた。
「へえ……アカウント教えてよ」
誠が横から口を挟むと、七海は即座に顔を横に振った。
「ダメです」
「なんで俺だけ読めないの!?」
誠の抗議に、瑞希と飛鳥は同時に吹き出した。
「ぷっ……」
「ははっ……」
笑い声がファミレスに広がり、カラフルなパフェグラスが揺れた。和やかな空気の中で、甘い時間はまだ続いていく。
***
七海はスプーンを揺らしながら、少し言いにくそうに続けた。
「……それで。目にとまったみたいで、メールが来たんです。出版社の方から……会ってみたいって」
テーブルが一気にざわめく。
「なにそれ、デビューしちゃう?」
瑞希が目を輝かせる。
「ち、違いますよ。そういう話じゃなくて……。まだまだだけど、光るものはあるって。改善点とかアドバイスをさせてほしいって、書いてあって」
「……大丈夫それ?危なくない?」
飛鳥が眉をひそめる。
「もしなんかあったら、わたし着いていこうか?」
七海は慌てて笑って首を振る。
「大丈夫です。昼間の喫茶店でお会いする予定ですし。もし変な人だったら大声を出して、すぐ通報しますから」
「……俺も行こうか?」
誠が口を挟む。
「ほんと、大丈夫ですから」
口調ではきっぱり答える七海だが、柔らかく誠の手に自分の手を添える。飛鳥が口を尖らせる。
「っていうか、まことは頼りにならないからいいよ」
「ひどい言われよう……!」
誠が肩を落とすと、瑞希がすかさず突っ込む。
「てか七海ちゃん、さりげなくまーくんの手触らない!でたな正妻ムーブ!」
七海は
「えっ」
と顔を赤くし、慌てて手を引っ込める。瑞希はへらへらと笑い、飛鳥は横で呆れたように頬杖をつく。わちゃわちゃとした空気が、甘いパフェと一緒にテーブルを彩っていた。
***
ガラスの器に立つ生クリームをスプーンで崩しながら、瑞希と誠は軽口を交わしていた。
「このパフェ大きすぎでしょ」
「まーくんが食べてくれればいいじゃん」
──そんな調子で、笑い声がテーブルに広がる。その傍らで、飛鳥は少し声を落とし、隣の七海にだけ届くように言った。
「……こんどさ、思い切ってお兄ちゃんに会ってみようと思うんだ」
七海は驚いたように目を見開き、自然と前に身を乗り出す。
「連絡先、わかったんですか?」
「うん。お母さんとお父さんに聞いたから。別に……ケンカしたわけじゃなくて、ただ疎遠になってただけだから」
飛鳥の声はどこか慎重で、でも決意を帯びていた。七海はそっと微笑む。
「……会えるといいですね。応援してます」
「……ありがとう」
ほんの短いやり取りだったが、飛鳥の胸の奥に暖かさが広がった。
***
と、その空気を破るように、瑞希が口を突っ込んできた。
「ねーねー、なになに?なんの話?」
飛鳥はすぐに顔を背けた。
「瑞希には教えない」
七海もくすっと笑いながら加勢する。
「ひみつです」
「なんでだよー!」
瑞希は大げさに机に突っ伏す。
「盃交わした義兄弟なのに!シークレット共有しないのおかしいでしょ!」
「そんな仁義の覚えないから」
飛鳥のツッコミに、七海は笑いを噛み殺し、誠も思わず吹き出す。ファミレスのテーブルには、引き続き甘いパフェと賑やかな笑い声があふれていた。




