おうちパーティ、乾杯から
夕暮れの光が、レースのカーテンを透けて、部屋に柔らかく広がる。テーブルには準備された料理とカトラリー。そこに、にぎやかな夜が、そっと足音を立て始めていた。キッチンのカウンターには、色とりどりの前菜が並びはじめている。七海が手を伸ばし、そっとオリーブを器に足した。
「オリーブ、もう少し並べたほうがいいかな……」
ひとりごとのように、ぽつり。その少し奥では、瑞希が冷蔵庫の前でしゃがみこみ、プリンの容器を抱えていた。
「うん、わたしのデザートもいい感じ〜。ねぇ、これにミント飾ったら可愛くない?」
「それ、すごく映えると思います。さすが、瑞希さん」
七海が微笑む。その声だけでもう、部屋がすこしだけ華やかになるようだった。そんなふたりを、じっと見ていたのが飛鳥。キッチンの入口に立ち、腕を組んで眉をひそめている。
「……てか、これ絶対焦げてない?大丈夫なの?ねぇ」
「大丈夫です。火はもう止めてますから」
「ふーん……ほんとかな〜……」
そっけないふりをしながらも、気になるのかそっとフライパンを覗きこむ。熱のこもった匂いが、まだほのかに残っていた。
「……なんか、すごい匂いしてきたけど」
「それはわたしじゃなくて、瑞希さんのプリンの方かと」
「えっ、ほんと?ちょっと見せて!」
「だーめーっ、まだ内緒なのっ」
笑い声がはじける。瑞希が軽く飛鳥の肩を押すと、ちいさな物音とともに、三人の空気がひとつに溶けた。
***
駅前のデパートの自動ドアが背後で閉まる。誠は小さく息をついた。肩には紙袋。中には冷えたシャンパンと、コンビニじゃないちょっと洒落たチーズの盛り合わせ。気がつけば、足取りは少し早い。夏の夕方、アスファルトに照り返す残り陽のなかを歩いていく。――みんな、今頃もう始めてるかな。そんな思いが浮かぶと、自然と顔が緩んだ。脳裏に浮かぶのは、七海の優しい笑み。瑞希のきらきらした目。そして――飛鳥の、ツンとすました顔と、赤い耳。信号が青に変わる。誠はポケットからスマホを出して、位置情報を確認しながらマンションの方へ向かっていく。風が少し吹いて、紙袋の持ち手がカサリと鳴る。手のひらに冷たい瓶の感触がじわりと伝わった。エントランス前に着いたときには、もう夕焼けの色がガラスに映り込んでいた。階段を上る。彼は深呼吸をひとつして、ドアの前に立つ。そして――指先で、呼び出しボタンを押した。
「ピンポーン」
ドア越しに、遠くから何かが弾けるような声が聴こえた。
***
「ピンポーン」
乾いたチャイムの音に反応したのは、リビング側にいた瑞希だった。
「――あっ!まーくんきたっ!」
声を弾ませながら、トレイを持ったまま軽やかに踵を返す。ガラス越しの光が、ふわりと揺れた髪を照らして、白のワンピースに影を落とす。
「もうっ、ちょっと待ってね!」
笑いながら、キッチンカウンターにデザートを並べてから走り出す。その背中を、飛鳥が目で追っていた。
「……別に、大騒ぎするほどのことじゃなくない?」
そう言いつつも、無意識に足が玄関の方へ向いている。頬がほんのり色づき、唇の端がわずかに吊り上がっているのを、誰も指摘しない。でも――誰もが、気づいている。七海は最後に前菜の皿を整え終えると、ふぅ、と小さく息を吐いてから微笑んだ。
「……じゃあ、みんなで、迎えましょうか」
玄関へ続く廊下の向こう。ドアの影が、微かに揺れている。
***
一拍遅れて、カチャリと音がする。ドアが、ゆっくりと――内側から、開いた。そして、顔を覗かせたのは、瑞希だった。
「――まーくん、おかえりっ♡」
笑顔。全開。そのまま飛び込む勢いで抱きつこうとしたが、誠の手にある紙袋に気づいて寸止め。
「あ、あぶな……シャンパン落としそうだった……っ」
奥から声が飛ぶ。
「ていうか、ここ、七海の家だし」
飛鳥が顔を出す。白シャツの袖をまくり、ふてくされたような声。でも、目はしっかり誠を見ていた。そして最後に、七海が一歩下がって微笑む。
「ようこそ。おかえりなさい、誠さん」
やわらかなトーン、穏やかな視線。それだけで、部屋の空気がふわりと変わった気がした。
「ただいま」
誠も、微笑みながら返す。するとすぐさま――
「なに、その“正妻感”出してんのー!?ずるいーっ!」
「わたしの方が早く迎えたしっ!」
「落ち着いてください、ほら、手を洗ってもらいましょう」
三人三様の声が重なり合い、玄関には、ちいさな喧騒と、甘い再会の匂いが漂っていた。
***
玄関のドアが閉まると、ほんのり甘い香りが鼻をくすぐった。足元のフローリングは磨かれていて、靴音が少しだけ響く。視線を上げると、瑞希が笑顔で、近い。
「ねぇ見て〜、わたしのデザート、めちゃくちゃ可愛くできたんだよ♡」
手を引かれる。紙袋を抱えたまま、誠は少しバランスを崩しながら廊下を進む。視界の先、リビングに続くドアが開かれていて――照明に照らされたテーブルの上、色とりどりの料理が並んでいた。
「ほら、これ!プリンにラズベリーとミントのせたの!映えじゃない!?」
瑞希がテーブルの端に飾ったガラス容器を指さす。横にはキャンドル風の間接照明。反射でゼリーがきらりと光っていた。奥のソファにいた飛鳥が、手を腰に当てて言う。
「……でも、メイン料理は七海じゃん」
「えーっ、飛鳥ちゃん、わたしのデザート見て言ってる〜!?」
「見てるよ。でもほら、作ったって言っても、冷やしてただけでしょ?」
「ひどーい!飛鳥ちゃん今日、なーんにもしてないくせにっ」
「わたしは……あれだよ、空気づくり?場の……盛り上げ?」
「それ、さっきまでキッチンの壁に寄りかかってただけじゃん……」
わちゃわちゃ。軽い応酬。笑い声がリビングに跳ね返る。七海はキッチン側から近づいてきて、誠の紙袋を受け取った。
「ありがとうございます、誠さん。シャンパン冷やしておきますね」
微笑みながら、自然と距離が近い。指先が紙袋に触れたとき、ほんの一瞬だけ、視線が交差した。
「手、洗ってくださいね」
柔らかな声。彼女が言うと、どこか“儀式”みたいになる。すかさず、背後から瑞希の声が跳んだ。
「うわ、また出た!その“正妻感”!」
「えっ、出てました?」
「だいぶ」
「出まくりだったよね」
「ふふ……そんなつもりはなかったんですけど」
七海はくすっと笑いながら、袋を持ってキッチンへ戻る。
「ねぇ、まーくん、やっぱりデザート可愛いでしょ?」
「でも誠、メイン料理の方がテンション上がってたっぽくない?」
「ちょっと飛鳥ちゃん!今はデザート褒めるターンでしょ〜!」
笑い声、追いかけるような足音、誰かがクッションに突っ伏している音。玄関から洗面台へと歩きながら、誠は思った。――ああ、来てよかったな。
***
洗面台で手を洗っている間にも、リビングからは、小さな声や笑いが聞こえてくる。シャーッという水音の向こうで、グラスが触れ合う澄んだ音。
「そちらはそちらで盛りつけ直して頂ければ」
という七海の声に、
「まーくんが戻ってくる前にセッティング完璧にしよ!」
と応じる瑞希の声。
「なにそれプレッシャーじゃん」
と呟く飛鳥の声。――ふと、胸の奥がじんとする。手を拭いて戻ると、テーブルの上はもう完成していた。小さなプレートに並ぶ前菜、真ん中に七海の手によるラザニア、その隣には、瑞希のミントとベリーのプリンが花のように並んでいた。飛鳥が、グラスを慎重に並べている。……割らないように、そっと。
「はい、完璧っ!」
「シャンパン、もういい感じに冷えてますよ」
「まこと、座れば?グラスそこ」
三人がそれぞれのポジションに座って、誠もテーブルの一辺に腰を下ろした。照明が少し落とされて、グラスの縁がきらりと光る。
「じゃあ……」
「乾杯、だね」
瑞希が言った。けれど、すぐに飛鳥が小首を傾げる。
「……でもさ、なにに?今日って記念日とかじゃないし」
一瞬、言葉が詰まりそうになる。けれど、七海がやさしく笑った。
「なんでもいいんじゃないでしょうか。この、四人に」
「……四人に、か。いいね」
誠がそう返すと、グラスがふたつ、三つと掲げられた。
「この四人に――乾杯!」
軽やかに、グラスが合わさる音。シャンパンの泡が弾けて、その音に、笑い声が混ざった。
「ラザニア、すっごい香り」
「瑞希、これデザートっていうより作品だね」
「……いや、飛鳥ちゃんがそれ言うの反則じゃん」
「うわ、これちゃんとパリッとしてる……」
テーブルを囲む四人の会話が、さざめきとなって広がっていく。フォークの音、笑いの切れ端、視線のぶつかりと、照れくさい表情。誠は、その中心で、静かに胸を震わせていた。――ずっと、こうしていられたらいいのに。シャンパンの泡が、グラスの縁を登る。それがまるで、時間の粒みたいに思えた。
***
ラザニアの切れ目から、ふわっと湯気が立ち上る。七海がカトラリーをそっと差し入れて、ひとつずつ取り分けていく。瑞希が小皿にプリンを並べながら、つまみ食いしそうになるのを、飛鳥がつっつく。テーブルの上には、色とりどりの料理と、四人の笑い声があった。
「……ねえさ、まーくんと最初に話したのって、誰が一番早かったんだっけ?」
瑞希が、フォークでプリンをつつきながらふと問いかける。
「んー……たぶん、七海さん?」
「いえ、たしか……飛鳥さんが、一番最初だったかと」
「えっ、あたし?」
飛鳥がグラスを持ったまま眉を上げた。その顔に、瑞希がすかさずツッコミを入れる。
「もうっ、忘れてるし〜!」
「いや、だって……最初はあんまりいい感じしなかったから……」
「ひどい!」
「印象変わったのは……あー……あれかも」
ラザニアを一口食べて、ほんの少し間が空く。
「資料室の前でさ、ダンボール持ってたとき……」
自然と、空気が落ち着いた。
「──これ、あたしだけじゃ重いって」
飛鳥の声が、静かにテーブルの真ん中に落ちる。
「手伝ってって言ったわけじゃないのに、まことが、後ろから……スッて。無言で持ってくれてさ。『今から戻るとこだったから』って」
誠は、そうだったっけ?と少し照れたように笑った。
「……そのとき、なんか思ったんだよね。いつもの調子乗ってる感じじゃなくて、妙に静かな横顔で」
フォークを置いて、飛鳥はゆっくりとグラスを揺らした。
「段差でつまずきそうになったら、手首、掴んで支えてくれて。……そのときの手の感触が、なんか、懐かしかった」
「懐かしい?」
「うん。……家族じゃないけど、なんか昔のお兄ちゃんっぽいっていうか」
笑いながら、でも目線はテーブルの端に落ちていた。
「いや、なに考えてんだあたし、って思ったよ?でも、そのあと無言で歩いてく彼の背中、なんとなく目で追っちゃってて」
ぱちん、と瑞希が軽く手を叩く。
「え、それってもう好きになってたってことじゃん!」
「ち、ちがっ……!まだ、その頃は“前よりマシ”ってくらいでっ……」
「うわ〜、それもう始まってるやつだ〜〜!」
「黙れデザート女!」
「ひど!?」
笑い声が一気にテーブルを包む。飛鳥の頬はすこし赤く、でも口元にはちゃんと笑みが浮かんでいた。七海がそっとグラスを満たしながら、穏やかに頷いた。
「……そういうの、素敵ですね」
「なにが」
「何も言わない背中を、誰かが見ていたっていうのが」
誠は苦笑しながらグラスを持ち上げた。
「なんか、こそばゆいな……」
「まーくん、かっこよかったってことだよ。素直に褒められなさいっ♡」
***
「……じゃあさ、瑞希は?」
瑞希がプリンを口に運ぼうとしたそのとき、飛鳥がさらっと振ってきた。
「え、なにが?」
「最初にまーくんのこと“ちょっと好きかも”って思った瞬間」
「それ、わたしも聞きたいです」
七海も、やわらかく乗ってくる。
「え〜……なにそれ〜……」
フォークを止めたまま、瑞希は目線を逸らした。けど、すこしして――静かに、笑った。
「……たしか、新歓コンパ、だったかな」
グラスの中のシャンパンが揺れる。氷は入っていないのに、カラン、と音がした気がした。
「“瑞希ちゃんって、モテるよね”とか、“彼氏いないの?意外〜”とか、ああいう空気ってあるじゃん?」
「あるある」
「はいはいってやつ」
飛鳥と誠が、ほぼ同時に口を挟む。瑞希はくすっと笑った。
「でしょ?そういうの、流すの慣れてたし、“みんなの理想の瑞希ちゃん”でいるのも、別に苦じゃないんだけど――あの日は、ちょっと疲れてたんだと思う」
フォークの背で、プリンの表面をなぞる。跡が残った。
「ふと、手元のグラス見てたらね。向こうから、“唐揚げ、食べなよ”って」
誠が
「あー……」
と低く声を漏らした。
「“ひとつも取ってないじゃん”って、そう言って、勝手に小皿に乗せて、目の前に置いてきて」
「うわ、食べろ圧つよ……」
「で、なんて名乗ったんでしたっけ」
七海の問いに、瑞希が一拍置いて笑った。
「“唐揚げの守護神”」
「ちょ、それ、初耳なんだけど!?」
飛鳥が吹き出す。誠は顔を覆ったまま俯いた。
「“は?”って言っちゃったよ、ほんとに。なんか、変な人だなあって思って……」
「……でも、ちょっとだけ、笑っちゃって」
瑞希はそう言って、すこしだけ首を傾げた。
「笑うつもりなんてなかったのにね。なんかこう、唐揚げしか見てない感じとかさ、褒めてもこないし、連絡先も聞いてこないし、なにそれ、って思ったけど――」
フォークを置いたその指が、すこしだけ震えていた。
「……なんか、“すごいな、この人”って。変な意味じゃなくてね?」
「もう好きじゃん、それ」
「ですよね」
飛鳥と七海が、同時に言った。
「もー……やだ、そういうとこだよふたりとも……」
頬をふくらませながら、でも瑞希は笑っていた。誠はグラスを持ったまま、黙ってその笑顔を見つめていた。部屋の照明が、彼女の髪に光を落として、グラスの中で泡が、ゆっくりと上がっていく。それはまるで――最初の一瞬、心が揺れたときの記憶みたいだった。
***
「じゃあ、七海さんは?」
飛鳥がポテトをつまみながら、ふと口にした。その問いに、テーブルの空気がすこしだけ整う。七海は、グラスを持っていた手を一度置いて、すこしだけ笑った。
「……わたしは、たぶん……寝坊した日、ですね」
「えっ」
「……そこから始まるの?」
瑞希と飛鳥が声を揃える。誠は、口を開きかけて――でも何も言わず、黙って見つめていた。七海は、ゆっくり話し始める。
「大学デビューって、ちょっと頑張ってたんです。毎朝メイクして、服も調べて、髪も巻いて……“かっこいい自分”を作ってたつもりでした」
「うんうん、わかるよそれ」
「七海さん、いつも綺麗だもんね」
瑞希がそう言って微笑む。七海は目線を落としたまま、指先でグラスの縁をなぞった。
「でも、ある日、寝坊してしまって。メイクも中途半端で、服も適当に掴んだ白シャツとワイドパンツ。コンタクトも忘れて……昔使ってた黒縁のメガネをかけて」
「わ、それはレア」
「見たかったかも」
「……ほんとに、全部崩れた気がしたんです。鏡に映った自分が、高校生みたいで、せっかく作ってきた“大学のわたし”が、全部なくなった気がして」
声は静かだったけれど、テーブルの空気がしんと静まっていた。
「教室に入って……誰にも見られたくないって、思ってたんです。そしたら、誠さんが」
誠がわずかに眉を動かす。
「“メガネ、似合ってるね”って、言ってくれて。“いつもはかっこいいけど、今日の感じも、すごく似合ってる”って」
七海の指先が止まった。小さく、微笑む。
「“今日の感じも”――その言葉に、救われたんです。……崩れた自分も、誰かに“いい”って言ってもらえるんだ、って」
「うぅ……やっぱまーくんズルい……」
瑞希が身を乗り出して、軽く文句っぽく呟く。
「わかる……なんか、自然に心に入ってくるんだよな」
飛鳥もどこか遠い目でうなずく。誠は少しだけ、気恥ずかしそうに笑った。
「……なんか、そんなつもりはなかったんだけどね。ただ、ほんとにそう思っただけで」
「そういうところ、です」
七海が、まっすぐに言った。その目は、柔らかくて、でも少しも逸らさなかった。
「そういう、まっすぐな言葉が、いちばん、嬉しかったんです」
その言葉に、食卓にふたたび静けさが落ちる。だけど、それは沈黙ではなくて、あたたかな“間”だった。四人のあいだに漂う、泡みたいな感情。それはきっと、言葉では説明できない何か。そして誠の胸には、またあの想いがじんわりと膨らんでいた。――ずっと、こうしていられたら。
***
静かな“間”のあと、唐突に飛鳥がフォークをくるくる回しながら口を開いた。
「……てかさー、でも聞いてると、まことって、たいしたことしてなくない?」
「えっ!?」
誠のグラスが揺れる。飛鳥は真顔。だけど、ちょっとだけ唇が笑ってる。
「いやほら、瑞希は唐揚げだし。七海さんも、寝坊の日に“似合ってる”って言われただけじゃん?」
「ちょ……あすかちゃん!?」
瑞希が慌てて止めに入る。けれど、すでにスイッチは入っていた。
「……言われてみればそうかも……唐揚げって……」
「ちょ、瑞希まで!?!?」
「え、だってさ〜、彼氏になるには“世界を救う”くらいのことしてないと!」
「もしくは“お姫様を助ける”とか」
「最低限、塔に登るくらいはしてほしいですね」
「ストーリーの規模感!!」
誠が両手をあげて抗議するが、三人は完全にノリノリ。
「エビで鯛を釣るって言葉、ありますしね」
「鯛すぎる〜〜」
「わたしたち、鯛!?」
「それ、フォローになってないからね!?」
誠が崩れ落ちそうになったその瞬間、瑞希がにこにこと言う。
「でも、ずるいよね?まーくん。何にもしてないのに、こんな可愛いみんなにモテてるとか」
「うわ出た、自画自賛」
「でもほんとにそうじゃない?飛鳥ちゃんも、わたしも、七海さんも――ね?」
「……まあ、ね」
飛鳥が小さく呟く。視線は逸らしてるけど、耳がほんのり赤い。
「“何にもしてない”なんて、嘘です」
七海が穏やかに言う。
「ちゃんと、言葉にしてくれたこと。ちゃんと、見てくれたこと。それって――すごく大きいことだと思います」
一瞬、空気がすっと落ち着く。でも次の瞬間、瑞希がまた笑顔で跳ねるように言った。
「……まあでもやっぱり、ずるい〜!」
「結局そうなるの!?!?」
笑いが弾ける。フォークがカチンと鳴り、誰かの笑い声に重なって。四人の笑顔が、テーブルの光に包まれる。その中心にいる誠は、呆れたような顔をしながら、けれど――胸の奥に、温かい何かを噛みしめていた。ほんとに、たいしたことはしてないのかもしれない。けど、それでもこんなふうに笑ってくれる人たちがいて。こんなふうに、名前を呼んでくれる人たちがいる。それだけで、世界はじゅうぶん尊かった。




