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【過去】止められない気持ち、告白の行方(瑞希視点)

 【グループチャット】

 

 瑞希:ねえさ、結局わたしたちって……誰が最初にまーくんに告白したんだっけ?

 飛鳥:は?瑞希に決まってるでしょ。知ってて聞いてんの?

 七海:えっと……瑞希さんが最初でしたよね。わたし、あとから聞いて胸がぎゅっとなりました。

 瑞希:えへへ……そっか。ふたりに言われると、なんか照れるなあ。

 飛鳥:でも“最初だったから勝ち”ってわけじゃないからね?これからも普通に競争だし。

 七海:わ、わたしも……置いていかれる気はしませんから……。

 瑞希:ンムフフ。 でもね……ほんのすこしだけ神妙な話すると、みんなに負けたくなくて、先に言っちゃおう”って思ったところも……あったのかも。

 飛鳥:ほら出た。やっぱ瑞希ずるいじゃん。先駆け狙い〜。

 瑞希:ええっ!?そこは否定してくれるんじゃないのー!?

 七海:あの……それ、飛鳥さんなりの優しさ、ですよね?瑞希さんに“本音を言わせてあげてる”というか……。

 飛鳥:ちがーーう!!

 瑞希:ふふっ、飛鳥ちゃんかわいい〜。 でもまあ……改めてわたしが最初ってことで、ひとつよろしくっ。

 七海:はい。でも……順番より、大切なのは“気持ちそのもの”ですから。

 飛鳥:そうだぞー。出来レースじゃないからなー。大穴が勝つかもしれないんだぞー。

 瑞希:自分で大穴って言ってるじゃん!

 飛鳥:う、うるさいっ……!そういうとこ、ほんとムカつくんだから!!

 七海:まあまあ……。けんかはここまでにして、三人で仲良く、“これから”を楽しみましょう!

 

 * * *

 

 ──【過去】止められない気持ち、告白の行方(瑞希視点)


 学食の入り口で、ちょうど誠くんと目が合った。

「おつかれ」

「おつかれー」

 それだけで、昨日までの空白が埋まっていくような気がする。並んでトレーを持ちながら、何でもない話をする。唐揚げが今日は小さいとか、味噌汁がしょっぱいとか。ただそれだけなのに、胸の奥は妙に落ち着いていく。……と思ったら、斜め後ろから女子の声。

「誠ー、今日のゼミのレジュメさー」

 なんとなく、手が勝手に動いていた。彼の袖をつまんで、軽く引く。

「ほら、座ろ」

 あくまで自然を装って、そのまま窓際の席へ歩く。彼は何も気づかずに椅子を引いた。……よかった、こっちを選んでくれて。わたし、今──ただの“楽な友達”じゃなくて、誠くんの一番近くにいたいって、思ってる。

 

 * * *

 

 午後の講義が終わって、校門を出ると風が少し冷たかった。春なのに、夕方になるとまだ上着がほしくなる。腕をさすりながら歩いていたら──

「寒い?……これ、着る?」

 誠くんが、自分のパーカーを片手で差し出してきた。

「え、でも──」

「俺もう暑いし。もし嫌じゃなかったら」

 そう言って、ゆっくり肩に掛けてくれる。生地がまだ少しあたたかくて、ほんのり洗剤の匂いがした。……やばい、近すぎる。彼は何事もなかったみたいに前を向いて歩き出す。でも、わたしの耳の奥では、さっきの声がずっと残っていた。……別に、彼は優しいだけ。わかってる。わかってるのに、胸の奥では別の声がする。“これ、彼女扱いじゃない?”帰宅してパーカーを畳もうとしたら、袖口の糸が少しほつれていた。指でなぞると、なんでもないはずなのに心臓が跳ねる。今日の風の匂いも、彼の声も、まだ離れない。……やっぱり、わたし、この距離から戻れない。

 

 * * *

 

 昼休み。紙パックのジュースを二人で飲みながら、他愛のない話を続ける。ふと見上げた横顔が、妙に近い。誰のものでもないのに──いや、誰にも渡したくない。わたし、もうとっくに答えは出てるんだ。ただ、自分でそれを口にしていないだけ。

 

 * * *

 

 午後の空きコマ。キャンパスのカフェで、七海ちゃんと向かい合って座っていた。窓際の席、春の光がやわらかく差し込む。

「そういえば、瑞希さんって最近、誠さんと一緒にいること多くないですか?」

 ストローを口に運びながら、七海ちゃんが何気なく言った。

「え?……まあ、講義とかかぶってるだけだよ」

 笑って返したつもりだったけど、自分でも声が一瞬詰まったのがわかった。

「そうですか?でも……この前、ゼミの帰りに見ましたよ。すごく楽しそうに話してました」

 七海ちゃんの笑顔は、責めてるわけじゃない。ただ、ほんのり探るような目。

「……だって、楽しかったもん」

 あ、と思ったときにはもう口から出ていた。心臓が一拍、強く鳴る。そこへ、向こうの席から飛鳥ちゃんが合流してきた。

「何の話?」

「誠さんの話です」

 七海ちゃんがさらっと言う。

「……ふーん」

 飛鳥ちゃんはそれ以上何も言わず、ストローで氷をカランと鳴らした。話題はすぐ別のことに移ったけれど、胸の奥がじわじわと熱くなっていく。隠してるつもりだった。でも、もう全部、顔に出てるのかもしれない。

 

 * * *

 

 夕方、キャンパスの端のベンチ。講義の合間に寄ったカフェからの帰り道、なんとなく足が止まった。誠くんは自販機で買ったお茶を半分ほど飲んで、隣に腰を下ろす。

「今日、珍しく空いてたな」

「うん。……たまには静かでいいね」

 風が髪を揺らす。沈黙が、なぜか心地いい。それなのに、胸の鼓動だけは落ち着かない。

「……瑞希ってさ」

「ん?」

「なんか、会うとホッとするね」

 さらっと、いつもの声で言う。多分、本人は何も深く考えてない。それでも、その言葉が胸に突き刺さって、息が少しだけ止まった。“今、言えば”この距離、この時間、この沈黙。言ってしまえば、きっと全部変わる。でも、変わってしまったら、今みたいに笑えなくなるかもしれない。

「……誠くんはさ」

「うん?」

 視線が重なる。口の中で、言葉が熱く渦を巻く。――好き。あと一歩で、声になりそうなその音を、ぎゅっと飲み込んだ。

「……なんでもない」

 誠くんは不思議そうに笑って、お茶をもうひと口。わたしはただ、その横顔を見ていた。

 

 * * *

 

 週明けの夕方。講義終わりのキャンパスは、人影がまばらだった。オレンジ色の光が長い影を作って、二人の足元を並べる。

「このあと、どこ行く?」

 誠くんが、いつもと同じ調子で聞く。ほんとうなら「コンビニ寄ろ」とか「帰る」 とか、軽く答えるところだけど――今日は、違った。

「……ちょっと、歩かない?」

「いいよ」

 並んで校門を出る。通りの向こうに夕陽が沈んでいく。その光の中で、心臓の音だけがやけに大きかった。沈黙を切ったのは、わたしだった。

「ねえ、誠くん」

「ん?」

 足が自然に止まる。彼もつられて立ち止まる。“今言わなきゃ、また飲み込む”そんな予感が、背中を押した。……声に出して伝えた瞬間、胸の奥の熱が一気に外に流れ出すような感覚がした。怖さもあったけど、それ以上に――やっと言えた、という安堵が大きかった。誠くんは少し驚いたように瞬きをして、それから息を吐いた。

「……ありがとう」

 その笑顔は、いつもの自然体のまま。でも、どこかあたたかくて、やさしかった。

「……返事は?」

 わたしがそう聞くと、彼は少しだけ目を細めて、

「……考えさせて欲しい」

 正直で、誠くんらしい答えだった。胸はまだざわついていたけど、後悔はなかった。この夕陽の色も、風の匂いも、ぜんぶ刻まれた気がしたから。

 

 * * *

 

 あの日の告白から、一週間。返事はまだ。でも、誠くんはいつも通りに話してくれるし、隣にも座ってくれる。だからこそ、時々思う。“この時間がずっと続けばいい”と。けれど――昼休み、学食の奥の席で見た光景に、胸がざわついた。誠くんと、向かいに座る飛鳥ちゃん。二人とも真剣な顔で話している。笑顔はない。でも、その距離感が、やけに近く見えた。その日の帰り道、七海ちゃんからのDM。

> 誠さんって、ほんと優しいですよね。

> そういうところ、好きになってしまうのも無理ないです。

 指が止まった。七海ちゃんも?動揺している自分が嫌だった。

 

 * * *

 

 数日後、偶然三人とも同じ教室にいた。講義が終わって人が引いていく中、誠くんが残ったわたしたちを見渡す。

「……話したいことがある」

 声は静かで、でも逃げられない響きがあった。

「俺……正直、誰か一人を選べない」

 誠くんは視線を落とし、少し間を置いてから続けた。

「三人とも、大事なんだ。誰かを選ぶことが、他の二人を傷つけるって思うと……できない」

 沈黙。机の上の光が、窓からの夕陽で柔らかく揺れている。飛鳥ちゃんは目を伏せ、七海ちゃんは静かに誠くんを見つめていた。わたしは息を吸って、吐いた。

「……じゃあ、わたしが一番ってことで」

 自分でも驚くくらい、軽く言えた。笑顔もつけた。でも胸の奥では、熱と痛みがせめぎ合っていた。飛鳥ちゃんが呆れた顔していた。

「……バカじゃないの」

 でも、席は立たない。七海ちゃんは小さく鼻を鳴らして、

「……それでも、誠さんが好きです」

 とだけ言った。こうして、形だけ見れば不思議な関係が始まった。でも本当は――ここからが、わたしたちの試される時間だった。

 

 * * *

 

 誠くんの隣に座るのは、もう当たり前になった。講義の合間に一緒に学食に行き、くだらない話をして、帰り道も並んで歩く。それだけで充分――そう思ってたのに。ある日の放課後。校門の近くで、誠くんと飛鳥ちゃんが話しているのを見かけた。飛鳥ちゃんは軽くパンチする素振りのあと、何かを渡している。誠くんも笑って受け取っていた。……あの距離、近くない?そう思った瞬間、笑顔を作って手を振った。二人とも「おつかれ」 と言ってくれたけれど、胸の奥がすこし冷んやり沈んだままだった。

 

 * * *

 

 夜、スマホの画面に七海ちゃんからの裏垢投稿。白いカップに入ったカフェラテの写真。「#隣で笑ってくれるだけでいい #それが毎日じゃなくても」タグを見た瞬間、心臓がざわついた。それ、誠くんのことじゃないの?違うって言われても、もう遅い。頭の中で、勝手に想像してしまう。三人で一緒にいるときは、楽しい。グルチャでは笑い合って、ふざけた話もできる。でも、どこかで探してしまう。“誠くん、いま誰を見てた?”“その笑顔、わたしにも向けてくれる?”笑ってるのに、胸の奥だけ、ずっときゅっとしてる。わたし、こういうのは欲張りっていうのかな。

 

 * * *

 

 夕方のカフェ。窓の外から射し込んだ光が、テーブルの上でカップの影をゆらしてる。季節限定のラテを見つけて、なんとなく口に出した。

「これ、今季の限定らしいよ」

 飛鳥ちゃんは、わたしの声に反応しながらも、そっけなく返す。

「飲むの?」

 だけどその指先は、ストローで氷をくるくる回してて、なんだか落ち着かなさそうだった。

「……わたしは、これが好きです」

 そう言って、七海ちゃんがカップを持ち上げる。その横顔が、ほんの少しだけ遠かった。三人の視線が、一瞬だけ重なって、それから――沈黙が落ちた。空気が、わずかにきしむ音がした気がした。だから、わたしが口を開いた。

「……最近、ちゃんと寝てる?二人とも」

「……寝てるし」

「眠れない日も、ありますけど」

 返ってきた言葉はバラバラで、それでも――似ていた。笑顔をつくるのが、ちょっとだけぎこちないのも、おんなじだった。

「ねえ」

 飛鳥ちゃんがぽつりと呟いた。

「わたし、あんたたちのこと、好きだよ」

 唐突だった。でも、なんか……真剣だった。

「え、なにそれ。急にどうしたの」

 わたしは笑って返したけど、内心ではちょっと、胸がきゅってなった。

「別に……でも、ちゃんと、言っとこうかなって」

 そう言って目をそらす飛鳥ちゃんの声は、ほんの少しだけ震えてた。

「……わたしも」

 七海ちゃんが、穏やかに言葉を継ぐ。

「瑞希さんも、飛鳥さんも……大切な人です」

 わたしは、一瞬だけ言葉を飲み込んで、笑った。

「うん。わたしも。……好き」

 でも、正直に言うなら――

「でも……しんどいよね」

 わたしの声が、テーブルの上に落ちた。

「誠くんのことになると、みんな“本気”だから……誰かに勝ちたいとか、そんなことじゃないのに……それでも、時々……負けたくなくなるんだよね」

「……わたしも」

「わたしも」

 二人の声が重なる。それは、誰かを否定しないために選んだ、苦しい選択肢だった。

「ねえ」

 もう一度、わたしは言った。

「わたしたち、嫌いにならないでいようね」

「……なりたくない」

 飛鳥ちゃんは、少しだけ顔を背けたまま、かすかに答えた。七海ちゃんは、小さく微笑んで言った。

「誠さんを、好きになってよかったって……思いたいです」

 誠くんは、いまこの場にはいない。だけど――彼の存在が、ちゃんと三人の真ん中にあるのは、全員が分かってた。でも、それだけじゃない。それより少しだけ手前に、「わたしたち」がいた。ちゃんと、ここにいたんだ。


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