表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王女の従者  作者:
PR
17/27

第17話 霧丸を求めて パートⅠ

 姉ちゃんが異世界にやってきたその日、俺は久しぶりに夕飯を実家で食べた。

 久しぶりに食った姉ちゃんの料理は本当にうまかった。

 実はソフィアも招待しての夕飯だった。

 姉ちゃんとしては一国の姫様を呼ぶほどの料理はできないと言いながらも、ものすごい豪華な料理が出てきた。

 ソフィアはそんな姉ちゃんの料理をフォークとナイフ、スプーンを使って優雅に食べていた。おかげで姉ちゃんの料理が高級に見えてきたから不思議だ。

 まぁ、とにかくこれで俺は自由に日本に帰れることになり本当によかったと思う。


 次の日は次の日で理美を実家に送ることになった。

 理美も久しぶりの街に感動しつつ帰ってきたという実感を味わっていた。

「懐かしい、やっと帰ってこれたんだ、私」

 理美は久しぶりの街の空気を味わっていた。

「そうだな、俺も同じことを感じている」

 俺自身も街を歩くのは久しぶりだった。

 それから理美の実家に向かった。

 理美の実家にたどり着いたところで理美は感極まっていた。

「あっ、わ、私の家、あははっ、変わってない、変わってないよ」

「ああ、そうだな」

 俺はそれしか言えなかった。

 すると理美は駆け出した。

 そして門の前に立ち、呼び鈴を押そうと指をあてたところで手を止めた。

 俺はその様子を黙ってみていた。それがいいと思ったからだ。

 そして少しの時を経て理美はついに呼び鈴を押した。

 すると中から理美の母親の声がして、理美はさらに感極まっていた。

「お、お母さんの声」

 そして扉が開きそこに理美の母親が立っていた。

「どなた……」

 そこで動きを止めた。

「り、理美、理美なの」

「お、お母さん、お母さん」

 少しの間見つめあい、理美は母親の胸に飛び込んだ。

 するとそのとき様子が変なことに気が付いた父親も出てきた。

「お、お父さん」

「理美」

 父親も理美と母親を抱え込むように抱きしめた。

 それを見た俺は身をひるがえしその場を離れようとした。

 すると、後ろから呼ばれた。

「松堂君、ありがとう」

 それは理美の父親からのお礼だった。

 俺はその言葉を聞いて小さくうなずいてから再び歩き出した。


 理美を家に送ってから次の日、俺はもう理美は異世界には戻らないと思っていた。

「ま、俺の仕事が増えるだけだし、まぁ、何とかなるだろう」

 俺はそう言いながら自宅の車に乗りこもうとしていた。

 今日は旅の準備のために姉ちゃんと買い物にことにした。

 するとそこにおれを呼ぶ声がした。

「ユキ、沙織さん」

 俺が振り向くとそこにいたのは理美だった。

「あれ、理美、どうしたんだ、こんな朝っぱらに」

「うん、今日旅の買い物に行くんでしょ」

「ああ、そういえば昨日話をしているとき近くにいたよな」

「うん、それでさ、私も行ってもいい」

「行くって、どこに」

 俺は間抜けな質問をした。

「ユキ、あなたが行くのってバルノールでしょ、元バルノール貴族令嬢の私が案内するわ。それに、カスパル公爵の令嬢とは親友でもあるのよ。だから私が一緒に行ったほうがいいと思うわよ」

「あっ、いや、確かにそうかもしれないけど、これは完全にうちの問題だし、なぁ、姉ちゃん」

「ええ、そうね」

「わかってる、でも、二人には感謝してもしきれない恩があるし、それに、昨日両親と相談して決めたことなの、まぁ、迷惑ならやめるけど」

 確かに俺としても案内をしてくれるのはありがたいし、カスパル公爵の令嬢と親友ならもしもの時も助かると思う。

「わかった、でも、本当にいいのか、まぁ、姉ちゃんがいるから安全面も道中も快適だとは思うけど、せっかく両親と会えたし、こっちに帰ってこれたのに」

「うん、そのことも両親と相談してね。私は向こうで生活が長いでしょ、だからこっちに今帰ってきても、たぶん生活しづらいと思う」

「確かにだいぶ違うからな」

 俺もそれは実感していた。

「でしょ、だから、私も今まで通り姫様の従者をやりながら向こうで生活していこうと思うの、まぁ、でも基本的に夜はこっちに帰ってくることになると思うけど」

「そっか、わかったそれなら頼むよ。正直助かるしな、理美がいなかったら俺の仕事が増えるし、そもそも俺の仕事を二人に分けたはずなのにたぶん俺一人に戻しても俺じゃ無理だからな」

「そうでしょ」

 というわけで俺と姉ちゃんと理美の三人で買い物に行くことになった。

 ちなみに旅の資金はかなり潤沢だった。その理由は従者としての給料をこっちの世界で換金した金が大量にあったからだ。

 それから俺たちは午前中キャンプ用品や保存食など野宿を何日でもできそうなくらい買いそろえることになった。

 午後は、俺はソフィアの従者の仕事があり、理美は田中たちと遊ぶということで別れた。


 理美はあれから両親や田中たちと遊んでいたようで俺たちが次に会ったのは出発の日だった。

「理美ちゃん、どうだった」

 姉ちゃんがそう尋ねた。尋ねたことは当然日本のことだった。

「はい、とてもよかったです、クラスのみんなとも会えたし、今の日本のこともわかったので」

「そっか、それじゃ、またしばらく異世界に行くことになるけど、本当にいいのね」

 姉ちゃんは最後の確認をした。

「はい、決めたことですから」

「そっか、わかった、それじゃ行こうか」

「はい」

 こうして俺たちは旅立った。

 旅の仲間は俺と姉ちゃん、理美とソフィアが貸してくれたソフィア付の騎士、ムルダだった。ムルダは騎士らしくがっちりとした偉丈夫で、背も高い、俺とも仲がいい男だ。

「悪いな、ムルダ」

「なに、気にするな、まぁ、襲われても俺が約に立つことはなさそうだけどな、旅は慣れてる、そこらへんでは役になってやるさ」

 ムルダもさすがに騎士だけあって姉ちゃんの強さに完敗宣言をしていた。

「あはは、確かにな、姉ちゃんにかなう奴なんて見たことないからな」

「全く、お前の姉ちゃんどうなっているんだよ」

 俺はそんな会話を御者席でしていた。

 実はこの旅で使う馬車をソフィアの好意で貸してくれた。おかげで乗合馬車にも乗らずに済むし大量の荷物も楽に運べるのだった。

「ユキ、そろそろ休憩にしましょう」

 馬車の中から姉ちゃんの声がした。

「わかった、ムルダ、休憩にしよう」

「ああ、そうだな、馬たちも休ませてやらんとな」

 それから俺たちの旅は休憩を挟みながら進んだ。その間俺たちは特に盗賊や山賊に出くわすわけでもなく、ましてや魔物に出くわすこともなかった。そして、野宿をすることになっても地球のテントで快適で、食事も姉ちゃんがキャンプ用品を駆使して作ってくれたのでうまく、かなり快適な旅をすることができた。

 ムルダもまさかここまで快適な旅ができるとは思ってもいなかったようでかなり面を食らっていた。

 こうして旅を続けて、俺たちは予定通り一週間でバルノール王国に入国し、そのままカスパル領へと入ったのだった。

「あと少しでパルムの街につくわ」

 理美があたりを見ながらそういった。どうやら一度来たことがあるようだった。


 俺たちがパルムの街についたのは夕方だった。今日はもう遅いからということで虎助さんの子孫探しは明日ということにして、宿をとることにした。

 この宿をとることに関してはムルダが大いに役に立ってくれた。さすがに旅に慣れているだけあると俺たちは感心していた。

「ようやく、着いたわね、あとは虎助さんの子孫を探すだけね」

「はい、でも、どうやって探すんですか」

「まぁ、普通に剣の達人がいないか尋ねてみればわかるかもしれない」

「まぁ、それしかないよね」

「でも、問題は今も引き継いでいるかってことだよな」

 俺がそれを口にすると理美がそれを否定した。

「それは大丈夫だと思う。前に聞いたことあるのよね。このカスパル領の令嬢、サリファリスって子なんだけど、彼女が自慢げに話しているのを思い出したの。あの時は特に気にならなかったんだけど、今にして思えばあれはその虎助さんの子孫のことだと思う」

「へぇ、どんな話なんだ」

「ええ、たしか、ここには魔導士が束になってもかなうこともない剣士がいて、その剣士は数千の敵を簡単にあしらったらしいのよ。これって、そうですよね」

「ええ、間違いないと思うわ、松堂流ならそれぐらいできるし、霧丸用いればなおのことね」

「ああ、そうだな」

「ほんとに、すげぇなそれは」

 ムルダも驚愕していた。


 それから次の日俺たちは早速虎助さんの子孫探しを始めた。

 すると思っていた通りあっさり見つかった。

 思ったより早かったので逆に怪しんだほどだった。

 そして俺たちは今その人の家の前に立っていた。

「まずは念のため俺が行きます」

 そういったのはムルダだった。さすがは騎士だなと感心した。

 コンコン

 ムルダは家の扉をノックした。

「誰かいるか」

 すると中から女性の声がした。

「はーい、今開けます」

 中から出てきたのは俺や理美と同じくらいで日本人みたいな黒い髪と黒い瞳をした少女だった。俺はその子を見た瞬間あたりだと思った。

「何か?」

 少女は俺たちに用を尋ねた。

「一つ尋ねたい、ここは剣の達人が住まうと聞いたが、まことか?」

「ええ、そうだけど」

 少女はあっさりと答えた。

「そう、うん、あなたの容姿といい間違いないわね、ユキ」

「ああ、そうだろうな、なぁ、君、この家の当主はいるか?」

「ええ、いるけど」

「話がしたい、松堂家について」

 俺がそういうと少女の表情が一変した。

「ど、どうぞ」

 俺たちは少女に導かれて家の中に入っていった。

「お父さん、お客さん、松堂家、だって」

「なに!」

 少女が父親らしきこれまた黒髪で黒い瞳の中年男性に松堂と話すとその人物も驚愕していた。

「君たち、どこでその名を、いや、待て、その容姿、まさか」

「ええ、私たちは松堂家のものです、こちらは、松堂家嫡流嫡男で、次期当主の松堂幸仁、私は、その姉で松堂沙織といいます」

 姉ちゃんがそう自己紹介をした。

「そうか、まさか本当に存在しているとはな、俺も祖父から聞かされて半信半疑だったが」

「祖父というと、虎助さん、ですね」

「ああ、変わった人だった、だが、とてつもなく強い人だったよ」

「ええ、でしょうね、私も曽祖父から虎助さんは強かったと聞いています」

「そうか、うむ、失礼した、俺はコサク、祖父から松堂虎作と名付けられた。そしてこっちは娘で虎凛という」

 虎凛は少し手を挙げて挨拶をしてきた。

「今頃松堂家の人間がなぜここに」

 虎作さんは怪しむように言った。

「それは、簡単な話です。虎助さんもそうですが、俺たちはこの世界の人間ではありません。だから、この世界に来る方法がそもそもなかったんです」

 俺は白い靄について話した。それを聞いた虎作さんも虎凛もまだ納得しきれないでいた。

「し、信じられんな、異世界など、しかし、確かに祖父の言っていたことを考えればなるほどと思えなくはないがな」

「お、お父さん」

「爺さんはいつも帰りたい、霧丸を返さなけえればと言っていたよ。それに、違う世界から来たんだということもな」

 俺と理美は虎助さんの気持ちが痛いほどわかっていたので、感慨にふけった。

「そうですか、なら、俺たちは来た理由はわかりますよね」

「ああ、霧丸、だな」

「はい、虎助さんに預けていた霧丸を受け取りに来ました」

 姉ちゃんがそういった。

「そうか」

 虎作さんは返そうと思っているようだが虎凛は違うようだった。

「ちょ、ちょっと待ってよ、お父さん、こんな、本当かもわからない人に霧丸を渡す必要ないわよ。大体、あれはうちが持っていたものでしょ」

「いいえ、それは正しくないわよ虎凛ちゃん」

「どういうことよ」

「松堂家は嫡流嫡男が当主となる、そして、霧丸を受け継ぐのはその嫡流嫡男のみ、まぁ、今は俺と親父だけど、虎助さんは嫡流だけど、次男なんだ、霧丸を受け継ぐ人ではない、あの時、記録によれば虎助さんは、当時の当主である父親に霧丸を届けるために霧丸を持ち出していたんだ。まぁ、途中で白い靄に包まれてこっちに来てしまったんだけど、俺たちも、この靄を知らないから、虎助さんが持って逃げたんじゃないかって話も分家筋では言われていたんだ」

「そ、そんな、ひいおじいちゃんがそんなことするわけない」

「そうだ、実際嫡流の一族はそうは思わなかった、虎助さんの両親も兄である俺たちのひい爺さんもな」

 俺がそういうと虎凛は少しほっとしていた。

「で、でも」

 虎凛は納得ができないようだった。すると姉ちゃんが提案をした。

「だったら、私と手合わせしない、そうすれば、私が松堂家のものだということはわかるでしょ、松堂流は松堂家の血を引くものしか扱えない、でしょ」

「え、ええ、わかった、でも、私が勝ったら」

「そうね、あきらめて帰るわ」

 姉ちゃんは不敵な笑みを浮かべながらそういった。

 というわけでなぜか姉ちゃんと虎凛の戦いが始まった。


 場所を虎凛がいつも訓練しているという場所に移動した。

「それじゃ、はじめ」

 俺の号令とともに姉ちゃんと虎凛の手合わせが始まった。

 その戦いは数手で決着がついた。

 もちろん勝利をおさめたのは姉ちゃんだ。

 これは姉ちゃんが強すぎるわけでも、虎凛が弱すぎるわけでもない、二人ともかなりの強さだった。まぁ、それでも、姉ちゃんのほうが強かったが。虎凛も負けていなかった。

「すごいな、まさか、姉ちゃんとここまで戦えるなんて、もしかしたら、ちゃんと修業すれば姉ちゃんに匹敵するかもな」

「そ、そうなの、私全然見えなかったけど」

「お、俺もんだ、今の一体、なんだ」

 騎士であるムルダも見えなかったようだが、俺は目だけはいいのではっきりと見えていた。

「まぁ、あの二人が化け物だってことだよ」

「いや、あれを見えていたっていうユキも十分だと思うぞ」

「う、うん」

 そんな俺たちをよそに姉ちゃんと虎凛は握手をしていた。

「思ってた通り強いわね、虎凛ちゃん、たぶん私が今まで戦った人の中では断トツだよ」

「い、いえ、さおりさんもすごいです。さすが、嫡流の方です」

「ありがと」

「いや、予想はしていたが、ここまでとはさすがは本家だ、虎凛が失礼をいたしました、次期当主殿」

 虎作さんも完全に俺たちを認めてくれたようだ。

「それでは霧丸を……」

 そこで虎作さん親子は黙ってしまった。

「い、いや、申し訳ない、ここまで足労してもらっておいて言うのもあれだが、実は、ここには霧丸はない」

 俺と姉ちゃんはその衝撃に驚愕した。

「ど、どういうことです」

「実はな、今から数十年前、俺はトリタニア王国との戦争の際、霧丸を持ち出した。祖父も父も霧丸は極力使うなと言っていたにも関わらずだ。しかし、俺は、若かった、さっきの虎凛のように、霧丸は俺が使うべきものだと思っていた。その通り、俺は次々に敵を倒していった。その戦果を見た領主様、当時は、先代だったが、その目に留まってしまったんだ。俺は出世を望んだ。しかし、領主様は平民がこのような剣を持つことを許さなかった。そこで、俺に霧丸を差し出せという命令を出した」

 そこで虎作さんは悔しそうに言った。

「もしそこで断れば、俺は反逆罪に問われる、だから、差し出すしかなかったんだ。せめてもの救いはその当時はすでに祖父はなくなっていたということだった」

「つまり、霧丸は今、ここの領主、カスパル公爵家にあるということですか?」

 俺が尋ねると虎作さんはうなずいた。

「そっか、まぁ、しゃぁないか」

「どうやらフェリスには、挨拶だけってわけにはいかなくなったみたいね」

 その日は虎作さんの好意で家に泊めてもらえることになった。

 その日の夕食は姉ちゃんのたっての希望により姉ちゃんと虎凛が作ることになった。

 そのメニューは松堂嫡流家にのみ虎助さんがいつ帰ってきてもいいようにと、百年受け継がれた虎助さんの好物だった。

 この話をすると虎作さんたちは感慨にふけながら、姉ちゃんの作ったものを味わっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ