第16話 来訪
今まで、塩ビ管でつながっていただけのソフィアの私室と姉ちゃんの部屋がついに今日つながったことで、姉ちゃんが初めて異世界にやってきた。俺も久しぶりに地球の自分の部屋に戻ることができた。
どうやら俺がいない間姉ちゃんが掃除をしてくれていたみたいで部屋には塵一つない状態だった。
俺は久しぶりに見た自分の部屋にやっと帰ってきたんだなと心からほっとしていた。
しかし、だからといって今の俺にはこのままここに帰ることはない、ソフィアの従者としての生活が楽しいからだし、もう、地球での高校生活に戻るという考えが今の俺にはないからだった。そこらへんは姉ちゃんや親父に相談しようと思う。
ちなみにこの後姉ちゃんの提案で工房に行くことになった。
理美にはまだ話していなことなのでサプライズってやつになる。
「そうだ、姉ちゃん、一応ここはソフィアの私室で、俺はいいけど姉ちゃんは本来なら居ちゃいけないから」
「そうね、気配を消したほうがいいわね」
「ああ、そうしてくれ」
「ケハイ? ですか?」
ソフィアには聞きなれない単語で頭に疑問符を浮かべていた。
「気配っていうのは、まぁ、見てればわかるよ」
「は、はい」
すると姉ちゃんは少し呼吸を整えた瞬間俺にはまったく見なくなった。
まぁ、実際には見えてるんだけど、そこにはいないような、まぁそんな感じだ。
「えっ、サオリ様、これはいったい」
「これなら一緒に歩いても大丈夫よ」
「あ、あの、どういうことですか、これは」
「まぁ、簡単に説明するとさ、人間ってそこにいるだけで、少し気配っていうものがあるんだ、俺たちはそれを感じてようやく人を認識できるんだけど、姉ちゃんはその気配を完全に消すことができるんだ。これはどっちかというと暗殺術なんだけどね」
「あ、暗殺、ですか」
「松堂流には様々な技があるからね、まぁ、俺はできないけど」
「そうなのですか」
ソフィアは心底不思議そうな顔をしていた。できない俺にも同じように不思議なんだけな。
まぁとにかくこれで姉ちゃんも一緒に城の中を歩くことができそうだった。
「まぁ行くか」
「そうね、案内してくれる」
「ああ」
「はい、こちらです」
俺たちはそろってソフィアの私室を出た。一応、あたりを誰もいなことを確認した。
「これは姫様、どちらへ」
「はい、工房へサオリ様をご案内します」
「サオリ様、えっ、あっ」
騎士たちも姉ちゃんの気配を感じることに難儀していた。
「ユキ、お前の姉ちゃんっていったい何者だ」
そう俺に尋ねてきたぐらいだった。
「いったろ、姉ちゃんは普通じゃないって」
「これは、そういうレベルか」
「そういうことにしておけって、それにこれなら見つからないだろ」
「ま、まぁ、そうだが、騎士として、看過しずづらい状況だな」
騎士も困惑しながら俺たちの後についてきた。
「ここが、工房、ほら、あそこの木あるでしょ、あそこが俺がこの世界に出現した場所なんだ。まぁ、あの時はかなりやばかったけどね」
「そういえばそうだったわね、ユキもちゃんと鍛えてればよかったんだけどね」
「い、いや、いくら鍛えてもあの高さは無理だって」
そう言いアンガラ俺はいつものように工房の扉を開けた。
すると中にいた職人が俺たちを振り向いた。ちなみに工房に入った瞬間姉ちゃんは気配を消すのをやめていた。
「おお、これは姫様と、ユキ、あれ、ユキその人は」
「ああ、俺の姉ちゃんだ」
「えっ、姉ちゃん、って、お前がよく言っているよな」
「あ、ああ、そう、それよりアレルを呼んできてくれ」
「ん、ああ、そうだな」
そんな職人との会話中姉ちゃんはなんだか嬉しそうだった。
「なんだよ、姉ちゃん、さっきからにやにやして」
「うん、ユキは人気者ね、お姉ちゃん、ちょっと安心した」
「い、いや、子供じゃないんだから」
俺はそんな姉ちゃんの反応に照れた。
するとそこにアレルがやってきた。
「おう、ユキ、それに姫様もよくぞお越しくださいました」
「いえ、アレル殿、御変わりありませんか」
「はい、まぁ、ジャポニの職人たち穴を埋めるのは苦労していますが」
「そうですね、頑張ってください」
「はい、心遣い痛み入ります」
ソフィアとの挨拶をすましたアレルが俺と姉ちゃんを見た。
「ところで、ユキ、そこの女性は?」
「ああ、俺の姉ちゃん、沙織だ」
俺が紹介すると姉ちゃんは優雅にお辞儀をした。
「こんにちは、あなたがアレルさんね、ユキからお話しはよく聞いていますよ。いろいろ弟がお世話になっているみたいで、ありがとうございます」
「い、いえ、俺なんか、何も、むしろ感謝したいのは俺のほうで」
姉ちゃんの態度にアレルは柄にもなくあせっていた。
「お、おい、ユキ、本当に、お前の姉ちゃんなのか」
「まぁな」
「あれ、でも、確か、どうやってこっちに」
アレルは事情を知っているだけに疑問だったようだ。
「ああ、実はな、姉ちゃんがあの靄を研究して、入り口を広げたんだ」
「あれをか、すげぇな、それは、それじゃ、もしかして」
「ああ、ソフィアの部屋を通じればいつでも向こうに帰れるってわけだ」
「ほんとか、そいつはすげぇ、ということはお前、帰るのか」
アレルは少し不安そうに尋ねてきた。
「いや、俺はもう、向こうの生活には戻れないだろうな、こっちでの生活もあるし、姉ちゃんや親父もそれはわかってくれてるから問題ないさ」
「そうか、それはよかったが、それにしてもお前の姉ちゃん、すげぇ美人だな、姫様と並んでもそん色がない」
「そうか、俺にはよくわからんけど」
俺にとっては家族であり子供のころから見てきているだけあって、それだけはよくわからなかった。
「まぁ、確かに昔からよくもててたし、友達もそういってたような気もするけどな」
「贅沢な奴だなお前は」
「ユキ、理美ちゃんに会いたいんだけど」
「ああ、わりぃ、アレル、理美はいるか」
「ああ、リミなら、買い出しに行ってもらってるんだ、もうすぐ戻ると思うけど、おっと、そういっている間に帰ってきたようだな」
「ただいま、なに、みんなしてそんなとこに固まって」
理美はそういって近づいてきた。
「ああ、姫様、いらしていたんですか、申し訳ありません、席を外しておりまして、すぐにお茶をお出ししますね。全く、うちの男どもは気が付かなくすみません」
そういいながらアレルたちを一瞥していく中理美は見慣れない人物に目を奪われた。
「え、えっと、あなたは……えっ、ま」
そこで姉ちゃんの服装と見た目に気が付いたようだった。日本人だということに。
「ふふ、久しぶりね、理美ちゃん、元気だった、スカイプで見たときもきれいになったと思ったけど、こうして会うと一段ときれいになったことがわかるわ」
姉ちゃんがそう言った瞬間理美の表情が驚愕に変わった。
「えっ、ま、まさか、ユキ、まさかねぇ」
理美は少しパニックになっているようだった。
「ああ、そうだ」
俺は理美が姉ちゃんだと確信しかけているようだったのでそう答えた。
「沙織さん?」
「そうよ、理美ちゃん」
「さ、沙織さん、沙織さん」
理美はそこで涙を流していた。俺と再会したあの時と同じようだった。
「沙織さん、なんで、ここに、どうして」
「うん、理美ちゃんに会いたかったしね、来ちゃったのよ」
それから俺たちはまず工房長室に向かった。
「ど、どうぞ、姫様」
「ありがとうございます」
「さ、沙織さんも」
「ありがと、理美ちゃん」
それから俺たちにお茶を出してから理美は座った。
「おいしい、理美ちゃんすごくおししいわよこれ」
「本当ですか、一応貴族の娘として育ちましたから」
「そうだったわね」
「あの、沙織さん、どうやってこちらに、もしかして、沙織さんもあの靄を通って、ですか」
「ええ、そうよ、でも、ソフィアの部屋にあった靄をね」
「えっ、でも確かそこは小さいって聞いてますけど」
「そうよ、大体に十センチぐらいしかなかったからね」
「はい、それじゃ、どうやって」
「その靄を増やして入り口を広げたのよ、今は扉を設置したから人ひとり余裕で通れるわよ」
「えっ、それじゃ、もしかして」
「そう、理美ちゃんも、ユキもいつでも日本に帰れるの」
「本当ですか、そ、それじゃ、お父さんとお母さんにも」
「ええ、もちろん会えるわ」
そこで理美は再び涙を流した。
「……あっ、で、でも」
そこで理美は気が付いたらしい。
「そうだな、今の理美では扉に近づけないだろうな」
「ええ、申し訳ないのですが」
「そ、そうですよね」
理美はそこで気をかなり落としていた。そこで俺はある提案をした。
「そういうわけだ。でも、もう理美もバルノール王国の貴族令嬢じゃなくて、トリタニア王国ソフィア工房の中心人物でもある。だから、理美もソフィアの従者にならないか、そうすれば本当にいつでも日本に帰れるぞ」
「ええ、そうですね、もう理美さんを疑うものはおりませんわ」
ソフィアも俺の提案に乗ってくれた。
「で、でも……」
理美はそれでも渋っていた。
「お父様もきっとお認めになるわ」
「そうだろうな、何せどこの誰だかわからない俺ですら従者に慣れたんだ、その点理美は、バルノールで貴族の礼儀作法は学んでるだろ、俺より従者にふさわしいだろ」
「それは、そうかもね」
姉ちゃんまで加わってきた。
「……わ、わかりました、あ、あの姫様、よろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
これで話はまとまったようだった。
「それでは早速手続きをいたします。今から行えば明日には完了しますよ。ユキ殿、お願いします」
「ああ、わかった、すぐに取り掛かるよ」
俺はそういってすぐに工房をでて、手続きを始めた。
俺がいなくなった工房では、姉ちゃんとソフィア、それから理美で話が弾んだようだった。アレルはというと仕事があるといって席を外したらしい。
そのため俺が工房に戻るとなんだか俺の話題で盛り上がっているようだった。
「ただいま、なんだ、みんなして俺の悪口か」
「あら、お帰り、まぁ、そんなところよ」
姉ちゃんは悪びれもせず俺にそういった。
「ふふ、そうですね」
なんとソフィアまでもそう言った。
「なんだなんだ、まったく、魔ぁいいや、それより、理美、手続き終わったぞ、問題なく明日からやってくれってさ」
「ほんと、ありがと」
「まぁ、従者の仕事もそんなにはないからな、大体もともと理美が今やっていることももともとは俺が一人でやっていたことを二人に分けたことだからな、まぁ、だからといってまた俺が一人でできる仕事量じゃなくなったけど、それでも従者になっても基本的にはあまり変わらないよ、ソフィアの世話とかが増えるだけだからな」
「ええ、わかった」
こうしてソフィアの従者仲間として理美が加わった。
そうこうしているうちにアレルがゼベル爺さんと戻ってきた。
「姉ちゃん、青の爺さんがゼベル爺さんだよ」
「そう、こんにちは、ユキの姉の沙織です」
「ほうほう、これまた別嬪さんじゃな、よろしくな、話はアレルから聞いた、わしはゼベルだ」
「はい、こちらこそ」
挨拶を終えた姉ちゃんは突然、真面目な顔をした。
「ユキ、ここに集まっているのはみんな私たちのこと、松堂家のことは知っているのよね」
「ああ、話したからな」
「そう、ならいいわね」
「霧丸のこと」
俺は姉ちゃんが霧丸のことを離そうとしているんだろうと思っていた。なにせ、虎助さんの子孫がこの世界にいるという話をしてからなんの音沙汰もなかったからな。
「そう、お父さんから、いえ、松堂家当主からの言伝、ユキ、虎助さんの子孫を見つけて、霧丸を回収。私もついていくわ」
「まぁ、そうだろうと思った、わかった、ソフィア、そういうことだからしばらく休みをもらいたいんだけど」
「そうですか、わかりました」
こうして俺は姉ちゃんと霧丸回収の旅をすることになった。




