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91 使い魔とファッションショー

「よし! 予習終わり!」


 慌てて寮へ帰ったアイリスは集中して予習を終わらせるのだった。


(寮の財政危機もあるから成績は出来る限り良くしていた方がいいよね。何より、やっと外の世界へ出たんだもん。色々勉強できて楽しいし)


 山にいる頃のアイリスの勉強は、カールから送られてくる様々な分野の本を読む程度だった。

 しかしこの学園の勉強分野は多彩だ。

 新しいことを学べて大変だけど、どこか嬉しく、楽しいものだった。

 

 アイリスは勉強道具をしまいながら時計を見る。


「エレナさんとの待ち合わせ時間までまだあるな……」


 続きをやってもいいなと思ったアイリスは勉強道具に手を伸ばすが動きを止める。


「そういえば……」


 思い出すのは先ほど別れた際、エレナに言われた言葉だ。


『制服じゃなくて私服で着てね!』


 王立魔法学園の制服を着ていると魔法師だと王都で目立ってしまうからだ。

 魔法発現者が少ない世の中の為、いくら王都に王立魔法学園があるからといっても好奇な目に晒されるのは想像に容易かった。


「とりあえずこの王立魔法学園まで辿り着いた時に着ていた服と外套を着ればいいかな」


 アイリスは持っている私服が数少ない。


「お嬢様」

「うわっ! バレットか……また勝手に出てきたんだね」

「私のお嬢様センサーが働きましてつい」

「お嬢様センサーって何……」


 唐突に出てくるのはアイリスの使い魔であるバレット。相変わらず意味不明なことを真顔で言う。


「時にお嬢様。これからお出かけだとか」

「………………………………うん」


 バレットは表情をキラキラさせながらアイリスに詰め寄る。アイリスは不気味に感じながらも返事をする。


「お嬢様の記念すべきお出かけ服! 誠心誠意私の持てる技術を全投入して作りあげたお洋服をぜひお召しになってくださいませ!」

「え?」


 バレットが指をパチンと鳴らすと、アイリスのベッドの上に服が上下五セット程並ぶ。

 ワンピースやフリルがこれでもかというほどある服、そしてなぜかドレスのようなものまである。


「さあお嬢様。……………………お召し替えしましょうか」

「え? バレット…………わああああ!」


 それからアイリスの災難は始まった。

 まるで着せ替え人形のごとくバレットが作った服を着ていく。

 サイズはピッタリで着心地もいい。

 さすがバレットと思う一方、フリルやかなり奇抜な色彩やデザインのものまで様々な服がある。

 世間的には可愛いのかもしれないが、奇抜な服を着る勇気はない。


「あのね……」

「さあさあ、次はこちらをお召しになってくださいませ」


 アイリスの声も虚しく結局ベッドに広げられた服以外の服まで試着することになってしまったアイリス。バレットはとても楽しそうだ。


(そろそろ着るの疲れてきたかも……それにエレナさんとの約束の時間もあるし……何としても早く決めないと!)


 アイリスは少々焦りながらもふと目に留まったシンプルながらも清楚感があるワンピースを手に取る。


「バレット! 今日はこれがいいかなと思うんだけど……」

「自分で作ってなんですが少しシンプルすぎやしませんか? せっかくのお嬢様の初お出かけ日なのですからもっと可愛いらしい物を……」


 バレットがフリルの多い服を手にしようとしている。


(可愛いとは思うけど、あれで王都を歩くのは目立つ!)


 バレットがルンルンとしながらフリルのある服をアイリスにあてがおうとしており、アイリスは慌てる。


「バレット! 私このワンピースがいいな! 確かにシンプルかもしれないけどだからこそいいっていうか……そう! 初めてのお出かけだしシンプルな服で王都の人のお洋服の様子を見てからこれからどんな服を着るか決めたいなって!」


 その場しのぎで苦し紛れというのは分かっているが、ここで結論を出さなければ永遠着せ替え人形にさせられて、約束の時間に遅刻してしまう。


「なるほど。流行……」


 バレットはボソボソ何かを言っているが、アイリスは聞かなかったフリをしてワンピースに袖を通す。


「あ。バレット」

「はい」

「お洋服、ありがとうね」

「はい!」

「あ……でも……」


 アイリスは今重要なことに気が付いてしまった。


「外套を着る予定だから、全身隠れることになるんじゃないかな」


 一緒に行くエレナの為にもトラブルの原因になる珍しい桜色の髪を隠す予定だ。

 ちなみにエレナと一緒ではなくても普段から外に出る際は髪を隠している。

 

 隠すための外套は足首まである長いサイズなので、中の服は見えない。


「あ」


 バレットは声を漏らす。

 バレットはアイリスが髪を隠して生活していることを知っていたのだが、洋服を作ることが楽しくなりすぎて、どうやら頭から抜け落ちていたらしい。


「どうやら急務は外套のようですね」


 少々デザイン性に難があるバレットが怪しく笑うところを横目に見ながらも慌てて着替えを進めるのだった。

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