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7の魔法 イエスかノーか


           ☆



「あのぅ──もしもし?」


 私の頭の中がホワイトアウトしていたのはかなり長い時間だったのか、あるいはほんの一瞬だったのか。

 気がつけば、ネコもどき妖精が何かを求めるような顔で私を見上げていた。


「それで………あの」

「え?あぁ」


 そっか。

 あまりの衝撃的展開で完全に忘れていた。


 返答を求められてるんだっけ、私。



 「魔法少女になってくれませんか?」



 もちろん──考えるまでもない。


 答えなんて決まってる。

 わざわざ言わなくたって判るでしょ。ネコのこいつはともかく、ここまでさんざん私の叫びを聞いてきた心優しき皆々様ならば。



 断固、お断りである。



 当たり前だ冗談じゃない。

 誰が二度とやるもんかあんなもの。

 魔法少女なんて大っキライだ。


 やらない。絶対にやらない。

 ノーサンキュー。

 はっきり断っておかねばならない。


 そうだ。

 あまりの怒りに一瞬我をも忘れかけたけど、何のことはない。簡単な話だ。

 断わればいいのである。

 ここできっぱりと。はっきりと。


 それだけで何の問題もない。

 何も始まりはしない。私の輝ける未来が奪われることもない。

 何も心配する必要なんてないのだ。


 逆に言うと、ここできっぱり断っておかないと、後々どんなやっかいごとを招くか判らない。そこはちゃんとしておかないと。

 最初が肝心。

 怪しげなフラグなど、1本たりとも立ててはいけないのである。


 大丈夫大丈夫。

 魔法少女にふさわしい人間だって魔法少女になりたくてたまらない人間だって、探せば世の中ゴマンといるはずだ。

 別に私が何かの生まれ変わりであるわけでも秘めたスーパーパワーを宿しているわけでもなし。代わりなんていくらでもいる。すぐに見つかる。

 たまたま最初に目についただけの私一人が断ったからって、何の問題も不都合もあるものか。


 花の妖精とかいうこのネコの……えぇとネコ子だかネコ助だかネコ太郎だか知らないけど、彼にとってもきっとその方がいい。いいに違いない。


 そう。これは彼のためであり、

 ひいては彼のナントカ王国のためでもあり、

 つまりはこの世界のためでもあり、

 何より、私のためなのだ。


 私の未来のためなのだ。



「悪いけど──」


 私には無理。他を当たってください。

 そう口にしかけた。


 が──その時。


 ──いや。待てよ。


 ふと、私の頭を何かがよぎった。

 天啓のような、閃きのような。

 ひとつの考え。


 ちょっと待てよく考えろ。

 いったん冷静になってよ〜く考えてみろ。


 ……()()んじゃないか?


 いやそうだ。ある。

 あるぞ。そう、


 ()()()って奴は。


 つまり、たとえば──プルルが赤いランドセルを持って戻ってくる、という可能性とか。


 完全に帰った、もう大丈夫だなんて大喜びして小躍りもしてたけど、よくよく考えてみれば、一度帰ったら彼がもう二度と戻ってこない、絶対安心なんて保証はどこにもない。

 ランドセル魔法少女再スタートの可能性は、決して高くはないと思うけど、残されている。


 確かどっかのネコ型ロボットだって、いったん帰った後ちゃっかり戻ってきたじゃないか。どっかの魔法少女が同じようなパターンをたどらないと誰に言いきれようか。

 甘く見ちゃいけない。

 油断しちゃいけない。

 ロクなことにならないのだ。


 だけど……もし。

 もしも彼が戻ってきた時、私が既に別の誰かしら──たとえばこのネコ太郎と契約して、別の魔法少女になってしまっていたとしたら。


 どうなる?


 真面目に毛が生えたプルルのことだ。こっちの新しい契約を力ずくで破棄してまで、私をランドセル魔法少女に戻そう、なんて真似は恐らくしないだろう。残念だよ、とは言いながらも誰か別の相手を探し、新たな魔法少女ミルキーなんちゃらを誕生させるに違いない。

 ランドセルはそっちの彼女のものになる。

 もう私の背中に戻ることはない。


 言ったはずだ。別に魔法少女そのものが悪いわけでもイヤなわけでもない。

 忌まわしきは、あのランドセルだけなのだ。


 ネコ太郎の言う新たなナントカの魔法少女とやらがどんなものなのかはもちろん知らないけど、まさかそいつまで背中に赤いランドセルってことはないだろう。そんな偶然が続いてたまるか。よもや全魔法世界中で現在ランドセルが大ブームってわけでもあるまいし。



 だとしたら──


 ここで彼と契約し、魔法少女になる。

 その選択肢は……アリなのではなかろうか。


 いやむしろ、

 それこそが最良の選択なのではなかろうか。



 花の魔法少女だか鼻の魔法少女だか知らないが、少なくともランドセルよりはましなはずだ。

 たぶん。恐らく。きっと。

 いやほぼ確実に。

 あれよりヒドいオチなんてそうそうあってたまるかってんだ。

 ならばやはり。


 ……そうだ。

 そうだよ。


 ここで私の選ぶべき答えは──



「私──」


 ──いや待った。


 ネコ太郎の求めに応じようとしかけて、私の頭の中に再び電撃のような警告が走る。



 ちょっと待った。まだ早まるな。

 いったんよく考えろ。

 もう一度、慎重によく考えろ。


 言ったろ。

 ()()()()()()んだからな。



 赤いランドセル2連チャン、ってことも可能性として決して高くはなかろうが、絶対にあり得ないと断言できるわけじゃない。

 それに……ランドセル以外ならオールオッケーと結論づけるのもいささか危険だ。


 マズいものはまだまだあるはず。

 たとえばスク水だの半裸だの女ターザンだの、くらいならば最悪何とかなるとしても、

 生まれたまんまのすっぽんぽんです、とか言われたらさすがに笑えない。

 全裸はダメだろ。


 そんな放送禁止すれすれ……どころか100パーアウト確実な危険極まりないアニメを作る勇気ある製作会社もまさか存在なんかしないだろうが、残念なことにこれはアニメではなく現実なのである。

 絶対にあり得ないことなんて、あり得ない。


 確かめておく必要がある。

 私の輝ける未来のために。



「えぇと……ネコ太郎だっけ」

「ネココです」

「あぁそうだった。ねぇネコ子、そのあなたの言ってるナントカの魔法少女って……」

「魔法天使のことですか?」

「そうそれ。天使天使。その魔法天使ってその……いったい、どんなの?」

 私は尋ねてみる。


「魔法天使というのは、フローラリアに伝わる伝説の魔法使いです。ボクたち花妖精の魔法の力とヒュマーノの人間の心が持つという夢と希望のエナジー、それがひとつになった時に誕生すると言われています。5000年前、ヒカラヴィルゾが猛威を振るった時には、3人の魔法天使が力を合わせ──」

「あ、いや……そういうんじゃなくて」


 ……何て言ったら判ってもらえるかな。

 いや、そもそもあまりこっちの本意は知られない方がいいだろうか。


「あそうだ。名前」

 パッと思いついた。

「名前何ていうの?」


「ネココです」

「あなたの名前じゃなくて。その、魔法天使の。あるでしょマジカルなんとかとかミルキーなんちゃらとかそういうのが」

 そこからでも何らかのヒントを得られる可能性は十分にある。

 危険な名ならそれだけで要注意だ。


「あぁなるほど」

 そういうことですか、とネコ助はうなずいた。 

「花咲く魔法天使フラワーエンジェルです」


 うわ。

 また何て安直な。


 そう思ったけど声には出さない。表情には出てたかもしれないけど。


 花の魔法天使でフラワーエンジェル。

 まんまじゃん。てか同じこと2回言ってない?それ。つまり大事なことなんだろうか。


 どっかの子供とかが考えたオリジナル変身ヒロイン、みたいな名前だ。

 せめてもうちょっとひねってとかカッコつけた感じで、とかなかったかな。ヘヴンズなんちゃらとかホーリーなんちゃらとか……あいやまぁ、私のネーミングセンスも大概だけど。


 だが。

 時に安直は力ともなり得る。


 そのまんまなネーミングだけど、それは同時に「とても判りやすい」ってことでもあるわけで。


 フラワーエンジェルか。


 恐らくかなりヒラヒラとした、花だらけで背中に羽根とかついた、ガーリーな格好させられるんだろうな、とは見当がつく。

 だけど小学生だとか危険な響きはとりあえずなさそうな気が。フラワーとエンジェルならそれだけでもうデザイン的にはいっぱいいっぱいだろう。他の要素をゴチャゴチャ足す必要はないはずだ。


 いささか子供っぽくはあるだろう。

 だが曲がりなりにも“魔法少女”である以上、それはやむを得ない。要はランドセル並にヒドいことにならなければいいのだ。


「見たことってある?」

 私は聞いてみる。

「あるわけないですよ。伝説の魔法使いなんですから」

「でも伝わってる絵とか話とかあったりしない?どんな格好してるとか。聞いたことないかな」

「えぇと……まさしく天使のような、それは可愛らしく美しい姿だと聞いています。昔ボクが見た絵も確かそんな感じでした」


 うーん……

 何とも言えないところか。

 どうもそこそこ知ってるっぽい気がするけど、美しいとか可愛らしいとかその辺はあくまで個人の主観によるものだ。

 ネコ次郎の感性がそもそもとっ散らかっていたとしたら、あてにはならない。


 一応、子供のこと天使って呼んだりするな。まさしく天使のようってまさかそういう?……いやちょっとムリヤリかなそれは。子供のエンジェルの絵ってちょいちょい裸だったりするけどそれも……

 いや確かめた方がいいか。


「服とかちゃんと着てる?」

「当たり前じゃないですか。何言ってるんですか」

「ランドセルとか背負ってない?」

「何ですかそれ」

「えっと……背中に背負う四角くて大きな箱みたいなカバンみたいな……」

「さぁ……ボクが見たものにはそんなもの、ついてなかったと思います。確か小さなバッグみたいなものを下げていたような気がしますけど」

 それならいい。

 おしゃれバッグ程度の代物ならば全然問題はない。よくある魔法少女のデザインにもわりとついてたはず。

 てか逆に、そんなもの持ってるんだったら同時にランドセルも、なんてややこしいデザインにはならない気がする。そんなバッグだらけでしかも花で天使で、なんて見てるだけでもう大忙しだ。


 全裸とランドセル、といういちばん危険なところはとりあえず回避できた。はず。

 ならば──



 大丈夫……か?



 これは安全と思っていいのか?

 いろんな不安はまだあるような気がするけど、これは私の気にしすぎなのか?


 どうする。


 引き受ける……べきか。


 いつまでもこうして迷っているのも、それはそれで相手に失礼というものだろう。

 お断りならお断りと早く言わないと。ネコ次郎にだって他の誰かを探しにいく都合って奴があるはずだ。


 そして……もしもそうしたとしたら。

 恐らく次のチャンスはもう巡ってこない。

 二度あることは何とやら、って確かに言うけど、まさか21にもなって魔法少女にスカウトされる三度目があるとは、さすがに思えない。


 決めるならば今しかない。

 今、決めなければならない。


 どうする?


 どうする?

 どうすべきだ?


 選択しろ。決断するんだ。

 今、ここで。


 私は、

 私が選ぶべきは、

 私が選ばなくてはならない道は、

 私の答えは。


 ……そう。

 そうだ。


 私は──


 私は、心を決めた。


「私──」





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