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一区切りつけるために

「紗弥お姉ちゃん、急いで!」


「いや、私、もう、無理っ」


「あともうちょっとですから」


「つーか、そんなに辛いならもう来ないでください」


「嫌だ、新幹線代、もったいないっ」


 早朝の新幹線の駅。そこでマチモンの三人と私は、新幹線に乗るため走っていた。


 改札を通り、東京方面行きのホームへ続くエスカレーターを駆け上がる。理央ちゃんと真綾はギターケースを担いでいるのに、その動きは軽やかで無駄がない。そう感心しているうちに、途中で発車を知らせるプルルルルっという音がして四人の心臓は飛び上がった。


「ちっ、もう置いて行きます」


「理央ちゃん、待って」


 理央ちゃんと花凛ちゃんが、私を置いて先にホームへ出る。やはり、体力作りをしている三人と何もしていない私とでは、運動能力に雲泥の差があるようだ。


 もう諦めようか。そう心が折れかけた時、私の手を真綾がぐいっと引っ張った。


「お姉ちゃん、行くよ!」


 真綾はグイグイ私を引っ張ると、なんとかホームへ出る。そして、理央ちゃん達が手を振る乗り場へとダッシュすると、扉が閉まるギリギリで私ごと新幹線に飛び乗った。


「はあ、はあ……、し、死ぬかと思った」


「お姉ちゃん、大丈夫?」


「日頃から運動しないで怠けてるからです。情けない」


「でも、間に合って良かったね」


 とりあえず、通路でたむろっていては邪魔なので、切符に指定された席へと移動する。そして、片方の座席をくるりと動かして四人のボックス席に変えてから、四人とも荷物を置いてやっと席に座った。


「で? 遅刻した元凶はどちらですか?」


「紗弥お姉ちゃん」


「真綾」


 理央ちゃんに腕組みしつつそう聞かれ、二人同時に相手を指さす。


「なんで私なのっ? 元はと言えば、お姉ちゃんが寝坊したのが悪いんじゃん」


「いーや、私は寝坊しても他の行程をちょっぱやで終わらせたから、予定通りには支度が終わってたの。真綾が長ったらしくいつまでも仏壇の前で紗綾さんに話しかけてるから、結局出発時間が遅れたんじゃない」


「いいじゃん、ライブ前だから紗綾お姉ちゃんに話したいことがいっぱいあったんだもん」


「時間かかるのがわかってたんなら、逆算して準備しろっつの」


「そんな難しいことでーきーなーいーっ」


「もー、おバカなんだから」


「あーもう、うるさい!」


 理央ちゃんのその一喝で、私と真綾は「ひっ」と肩をビクつかせた。


「新幹線の中ではお静かに。他のお客さんの迷惑ですから」


『はい……すみません』


「まったく」


「まあまあ、結局間に合ったんだし。もういいんじゃない?」


「……まあ、花凛がそう言うなら」


 花凛ちゃん、マジ天使。まさに理央ちゃんだけに効き目のある印籠。いつもの制服姿も可愛いけど、控えめにフリルの付いたパステル調の私服も可愛い。そんな目で見ていたのがバレたのか、花凛ちゃんの隣に座っている理央ちゃんにものすごい形相で睨まれた。いけない、このままでは殺される。何か話題で逸らさなければ。


「そ、そういえば、花凛ちゃんはドラムどうすんの?」


「向こうのライブハウスの方で貸してくれるそうです。なので、とりあえず私はスティックだけ」


「へえ、そうなんだ」


「でもでも、花さんが私達の引率をかってでてくれて良かったね。じゃなきゃ、うちの両親は高校生だけで東京なんてって渋ってたよ」


「うちもそうかな。花さん、わざわざ家にまで挨拶に来てくれたから、両親もこの人なら信用できるって思ってくれたみたい」


「泊まる所も確保してくれてるみたいだし、本当花さんには頭が上がらないよ」


 東京のライブハウスでのお誘いがあってから、マチモン内で話し合った結果、満場一致で東京へ行くことになった。真綾が嫌なら行かないと理央ちゃんも花凛ちゃんも言ってくれたらしいけれど、真綾は首を横に振って「私、ライブしたい」と答えたそうだ。どうやら、真綾の中で何かが吹っ切れたらしい。無理をしている様子もなく、昨日まで三人でガッツリ練習をしていた。


 当日の今日は、朝イチの新幹線に乗って昼前に東京へ着き、そこからホテルに荷物を置いたり、ライブハウスへ挨拶に行ったり、リハーサルや練習をしたりと、けっこうハードなスケジュールとなっている。そこで一泊して明日日曜日にはこちらへ戻るのだから、それを知りつつ承諾した彼女達は、本当にライブが好きなのだろう。


「それで。なんで紗弥さんまでついて来てるんですか? あなた関係ないですよね」


「そりゃ、秋葉原に行きたかったから」


「そうなの?」


「ごめん、半分冗談」


 理央ちゃんと真綾の冷めた視線が痛い。しかし、花凛ちゃんだけはそうじゃなかった。


「もしかして、真綾ちゃんが心配でついて来たんですか?」


「んー、まあそれもあるけど。ちょっとね、紗綾さんの事故現場に手を合わせてこようかと思って。真綾と一緒に」


「事故現場に、ですか」


 私の言葉に、理央ちゃんと花凛ちゃんが思わず真綾を見る。真綾はというと、特段落ち込んだ様子もなく微笑んでいた。


「本当はお姉ちゃんだけで行く気だったらしいんだけど。私も行きたいってお願いしたの。紗弥お姉ちゃんと一緒なら怖くないと思って。本当は、ずっと手を合わせたかったから」


 そう言って、真綾は私の手を握ってきた。本当は、まだ行くのは怖いんじゃないかと思う。それでも、真綾は行くことを選んだ。もしかしたら、彼女の中で一区切りつけたいのかもしれない。理央ちゃんや、花凛ちゃんのために。そして、ちゃんと紗綾さんの死を受け入れることで、この先の未来をその足できちんと歩いていくために。


 私達のこの話を聞いて、理央ちゃんと花凛ちゃんが顔を見合わせる。そして、二人同時に小さく頷いた。


「それ、私達も一緒に行っていいですか?」


「そりゃ、べつにかまわないけど。どうして?」


「大事なメンバーの、大切な人が亡くなった場所ですから」


「私達も手を合わせておきたいんです」


「二人とも……ありがとう」


 二人のことだから、冷やかしなどではないことはわかっている。だからこそ、なんと心強い仲間だろうか。真綾は本当に良い人達に巡り会えたらしい。


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