初ライブ
晴れて名前も決まり、文化祭に向けて練習漬けの日々。私が一番音楽経験が浅いのと、文化祭まで日にちが少ないということもあって、理央ちゃんのスパルタ指導はいつも以上に熱が入っていた。
「言い出しっぺは真綾なんだから。そのあんたができませんとか、もう無理ですとか、弱音吐いたら即しばく」
「が、頑張りますっ」
「真綾ちゃん、頑張って」
「花凛も。いくら三歳からドラムやってたからって、誰かと合わすのは初めてなんだから。もっと私達の音聞いて合わせて」
「は、はいっ」
理央ちゃんはバンドのことになると厳しくなる。でも、それは良い音楽を聴いてくれる人達に届けたいという想いからであって。私も花凛ちゃんもそのことを知っているし、共感もしているから、全然苦には思わなかった。
そして、文化祭当日。
「おぉ……さすがに緊張してきた」
「私、ちゃんとドラム叩けるかなぁ」
「大丈夫。花凛はいつも通りやれば問題ないから」
「私は?」
「真綾はいつも以上に気合い入れていけ。間違えたら響灘の海に沈める」
「ひどいよ、理央ちゃん!」
そこまで言って、私達は可笑しくて顔を見合わせてクスクス笑った。
「泣いても笑っても、これがマチモンの初ライブになるんだね」
「そうよ。みっともない演奏したら、それが永久に残っちゃうんだから」
「でも、それでも良い思い出になりそう」
「花凛ちゃん、良いこと言う。私もそう思う」
たとえ失敗したって笑い話にできる。この三人でならそうできると思うのだ。だから、緊張はしても怖いとは思わない。
「そうだ、円陣組もうよ」
「オッケー」
三人の手が輪の中心に重なる。それだけで二人の緊張とワクワクが伝わってきた。
「では、リーダーお願いします」
「ライブ成功させるのもそうだけど、とりあえず目一杯楽しもう。Marching Little Monster、行くよーっ」
『がおー!』
「――それでは、Marching Little Monster、お願いします!」
司会者の呼ぶ声で、ステージへと移動する。雨のおかげか、体育館の中はそこそこ人で賑わっていた。
この人達に、私達の歌を、想いを届ける。紗綾お姉ちゃん、見ててね。
演奏が始まり、私は音楽の波に包まれていく。感じたことのない高揚感、味わったことのない感動。観客の拍手と笑顔が、さらに私の胸を熱くする。
紗綾お姉ちゃんは、いた。体育館の隅っこで、十二歳の時のまま、笑顔で私に手を振っていた。また会えた。笑顔の紗綾お姉ちゃんに。その嬉しさで、演奏が終わった後、私は人目もはばからずその場で泣いてしまった。
この日、紗綾お姉ちゃんが事故に遭ってから、私は初めて心から楽しいと思えた。その時のお姉ちゃんが、どんな顔をして私達の歌を聴いていたのか、それを知らないままに。




