新メンバー
中学卒業すら危うかった私の成績だったけれど、お姉ちゃんと理央ちゃんのスパルタ教育のおかげで、私はなんとかお姉ちゃんと同じ高校に合格した。そして、入学した高校でも理央ちゃんと二人でバンドの練習を続けていたある日の昼休み。音楽室にある準備室の一室で、ヘッドホンをしつつドラムを叩いている一人の女子生徒を見つけた。
「すごい……」
そのドラムさばきと、見てすぐわかるくらい楽しそうに演奏する彼女の姿に、私の目は釘付けになった。
理央ちゃんの時と一緒だ。彼女がドラムを叩く度、音が光となって彼女の周りをキラキラと舞う。間違いない、この子も音楽が大好きだ。この子とバンド組みたい。
気付けば、私はノックもせず扉を開けて、激しく動く彼女の手を掴んでいた。
「ねえ」
「うっひゃあ! な、なんですかっ?」
「バンド組む気ない?」
「へ?」
「ちょっと来て」
「え、えっ? ちょ、ちょっとっ」
返事も聞かぬまま、私は彼女の手を引っ張って理央ちゃんの元へと連れて行く。
「じゃじゃーん、ドラマーを連れてきました!」
そう彼女を紹介した時の理央ちゃんの顔は、まるで不審者を目の前にした時のようなものだった。
「真綾、冗談はその頭だけにして」
「頭もこの子も冗談じゃないよ! この子、さっき音楽室でドラム叩いてたんだけど、すっごく上手なの」
「この子が?」
「い、いや、上手だなんて、そんな……っ」
彼女は顔を真っ赤にしつつ、両手を振って全力で否定する。その後で理央ちゃんの疑いのひと睨みを食らって、彼女は「ひっ」と小さな悲鳴を上げて私の後ろに隠れてしまった。
「百聞は一見にしかず、だよ。理央ちゃんもこの子のドラムパフォーマンス見たら、一発で惚れちゃうんだから」
「ちょっ、こら、真綾!」
「ひえっ」
私は二人の手を取って、再び音楽室へと戻る。そして、彼女にドラムを叩いてほしいと頼んだ。
「で、でも……」
「大丈夫。あなたのドラムが大好きって気持ちを、私達に見せてくれるだけで十分だから」
むしろ、私達にとっては技術よりもそっちの方が最優先事項だ。それが出せれば、きっと理央ちゃんも気に入ってくれるはず。
私の言葉に、その子は静かに頷く。そしてスティックを手に取ると、その表情が一変した。
力強くて、それでいて繊細なスティックさばき。そして、彼女の楽しそうな笑顔。理央ちゃんを見ると、先ほどとは打って変わって目をキラキラ輝かせていた。
演奏が終わり、彼女がふうっと息を吐く。すると、あっという間に怯えた彼女に戻ってしまった。
「あ、あの……。どうでしたか?」
「すっごく良かったよ」
私は拍手をしながら何度も頷く。そして、彼女は怯えながらもその視線を理央ちゃんに移した。理央ちゃんは組んでいた腕をゆっくり解く。
「あなた、名前は?」
「あ、一年二組の橘花凛です」
「ねえ、橘さん。私達とバンド組む気ない?」
「バンド?」
「そう。でも、私達は本気だから。生半可な気持ちで組んでほしくない。やるなら全力で音楽と向き合ってほしい」
「どうかな?」
彼女の顔は、どうしたらいいかと迷っている。私はそんな彼女の手をギュッと握りしめた。
「私は、どうしても橘さんと組みたいの。他のドラム叩く人見たことあるけど、あなた以上に輝いている人は見たことがない。だからお願い、私達と一緒にバンドしよう?」
早く紗綾お姉ちゃんに会いたいからって、誰でもいいわけじゃない。理央ちゃんと解散したメンバーの人達には、まったく魅力を感じなかった。それは、たぶん彼女達が真剣に音楽と向き合っていなかったからだと思う。そんな人と組んだって、きっと紗綾お姉ちゃんは出てきてくれない。私も組みたくない。
でも、この子は彼女達とは違う。たぶん、ドラムと真剣に向き合ってる。だから、あんなに楽しそうに演奏できるんだと思う。そんな彼女と一緒に演奏できたら、きっと私も楽しくできると思うのだ。
彼女はまだ迷っている。しかし、少しして何か決意したかのように一度小さく頷くと、勢いよく頭を下げてきた。
「不束者ですが、よろしくお願いします!」
「いや、結婚するわけじゃないんだけど……」
「やったー! これで正式にバンド結成だね」
「正式にって……。他にメンバーはいないんですか?」
「いないよ。ベースの私と、ギターの真綾と、そしてドラムのあなた。この三人だけ」
「少ないんですね」
「でも、バンドとしては成立する人数だよ」
これでやっと演奏ができる。部活紹介の時に見た、あんな演奏が。そうしたら、もしかしたらまた紗綾お姉ちゃんに会えるかもしれない。上手だねって笑う、そんな紗綾お姉ちゃんに。
「そうだ! 文化祭でライブしようよ」
『ライブ?』
「そう。確か、ステージ発表のエントリー締め切りはまだだったよね?」
「確かにそうだけど。でも、文化祭は六月よ。今から三人で合わせてライブするっていうの?」
「そう」
「バカか、あんたは」
「さすがにそれは無謀なんじゃ……」
「そんなことない!」
呆れる理央ちゃんと不安そうな花凛ちゃんを吹き飛ばすかのように、私は拳を強く握りしめた。
「確かに荒削りになるかもしれないけれど、本気でやればできるよ。だって、みんな音楽大好きなんだもん」
無茶なのはわかっている。それでも、早くこのメンバーで演奏がしてみたかった。この三人が奏でる音楽がどんなものになるのか、そう考えただけで胸がワクワクしてじっとしていられない。どうやら、そんな私の気持ちが二人にも移ったらしい。
「まあ、せっかくバンド結成できたんだし。できる時にライブするのもいいかもね」
「私、ライブって初めてなのでよくわかんないんですけど。それでも、なんかワクワクしてきました」
「でしょ! そうこなくっちゃ」
そんなこんなで、高校生になったばかりの私達はバンドを結成した。練習場所を確保し、文化祭のステージ発表にもエントリーして、花凛ちゃんの敬語もなくなってきた辺りで、私は重大な問題に気付く。




