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紗綾お姉ちゃんとの再会

「なんなの、あんた。しつこいんだけど」


「それだけ本気なんです、バンドのこと」


「なんでそんなにバンド組みたいわけ?」


「今までの自分を変えたいんです。あなた達の演奏を聴いた時、それまで無機質だった世界が急にキラキラ輝いて見えた。たぶん、音楽以外でこんなにも世界を感じられるものは、この世に存在しません。音楽は、私の希望の光なんです」


「希望の光……」


「だから、お願いします。私をメンバーに加えてください」


 そう言って、私は勢いよく頭を下げた。この本気が彼女に伝わってほしい。いや、彼女が嫌だと拒否しても、私は彼女が首を縦に振るまで絶対に諦めない。こんな気持ち、もう二度と現れない気がするから。絶対捕まえてみせる。頭を起こし、そんな強い想いを目に乗せて訴える。


 しばらく沈黙が続いた。彼女は私の本気を探るようにただ真っ直ぐに私の目を見つめる。そして、降参とばかりに息を一つ吐いた。


「わかった。入部してもいい。でも、私達解散したばかりだから。二人じゃバンド組めないわよ」


「それでもかまいません。音楽ができるなら。でも、あなたが残ってくれて良かった」


「なんで?」


「あのメンバーの中で、あなただけが輝いていたから。この人とやりたいって思ってたんです」


 四人のメンバーの中で、彼女の周りだけキラキラと輝いていた。まるで、彼女の奏でる音が光となって、夜空に浮かぶ星になったよう。この人と一緒に音楽をやれば、私もそんな風になれるかもしれない。そんな風に感じた。


「な、なんなのあんた。突然現れて、そんなこと平気で言って……っ」


 彼女は怒ったようにそっぽを向く。よく見ると、耳が真っ赤になっていた。


 やっと部室に入れたので、ゆっくりと周囲を見渡す。部屋の隅の方にドラムが置いてあり、その隣にギターが何本か立て掛けてあった。ラックの本棚には楽譜がズラリと並べられていて、CDやラジカセなんかも置いてある。部屋は狭いけど、なんだかそこにいるだけでワクワクした。


「ねえ、その敬語やめない? 同い年なんだし」


「あ、すみません……じゃない。うん、わかった」


「私は夏木理央。名前で呼んでくれていいから」


「私は大塚真綾。私も真綾でいいよ」


「了解」


 理央ちゃんはそう言うと、私をじっと見た。


「真綾、なんか楽器できる?」


「ううん、できない。でも、これから練習する」


「あっそ。じゃあ、ギターやったら? 私ベースだし。ギターなら私でも教えられるし。最悪ギターとベースとドラムの三人がいればバンドとして成り立つしね」


「でも、歌は誰が歌うの?」


「誰かが兼任するって感じかな。私、ボーカルはパス。あんた歌ってみたら?」


「いや、でも……」


 歌なんて、子どもの頃紗綾お姉ちゃんと一緒に歌った時以来だ。だから、部活紹介の時に歌っていたボーカルの子みたいに上手く歌える気がしない。


「上手く歌おうとしなくていいの。そうだな、例えば誰かに想いを届けるように歌ってみて」


「誰かに想いを届けるように……」


「よし、今からテストしよう」


 そう言うと、理央ちゃんは慣れた手つきでベースを手に取った。


「何か歌ってみて。簡単なやつでいいから」


「え、でもっ」


「いいから」


 理央ちゃんはチューニングをしながら、私が選曲するのを待っている。どうやら本気で歌わせるつもりだ。


 何かと言われても、何を歌ったらいいんだろう。困惑する私の脳裏にふと浮かんだのは、紗綾お姉ちゃんのために歌ったあの曲だった。


「じゃあ、“きらきら星”で」


「了解」


 理央ちゃんはチューニングを終えると、私と目だけで合図してベースを弾き始める。無我夢中で、私はその音に自分の歌を乗せた。


 満天の星空の下、歌で勇気をくれた紗綾お姉ちゃんにお礼として歌った曲。紗綾お姉ちゃんが元気が出たと笑顔で言ってくれた、私の思い出の歌。どうか、紗綾お姉ちゃんにこの私の歌が届きますように。


 それはあっという間だった。歌い終わり、閉じていた目を開ける。すると、私の目の前に十二歳のままの紗綾お姉ちゃんが、私に笑顔を向けて拍手していた。まるで、上手だね、と言わんばかりに。その光景に、思わず私の呼吸が止まる。


「あっ……」


 紗綾お姉ちゃんが笑っている。夢の中でさえ、ずっと泣いているばかりだったのに。あの事故以降、けっして私に笑いかけてはくれなかったのに。


 それなのに、今私の歌を聴いて紗綾お姉ちゃんが笑顔になっている。喜んでくれている。私の歌が紗綾お姉ちゃんに届いている。それはまるで、奇跡。


「お、姉、ちゃ……うわぁぁ」


「ちょ、なんなの突然っ」


 私はその場で泣き崩れた。嬉しいのか、感動したのか、驚いたのか、よくわからない。ただ、何か許されたような気がして。もういいよ、私のことは気にしないでと、紗綾お姉ちゃんに言われているような気がして。全部の感情が一気に溢れ出るかのように、私は理央ちゃんに背中をさすられながらずっと泣いていた。


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